第72話 資金調達

 再びのナルアディード。冒険者から買ったものを売るていで毛皮を扱う大店に狐の毛皮などを持ち込んだ。ナルアディードが商業国家と呼ばれる所以は、自国民でなくとも商売ができることが大きい。


 他は商売をしたい都市に居住資格がないと、商業ギルドとしかダメなど規制が多い。


「これは美しい。冒険者の腕も加工者の腕も申し分ございません、高値で買い取りましょう」

「ありがとうございます」

ありがとう、どっちも俺だ。


 狐の魔物を狩れる冒険者は多くはないけどいる、余計なところに傷をつけずに狩れる冒険者は一握り。その一握りは依頼でもない限り、気を使う狩りをするくらいならもうちょっと強い魔物を狩ってツノをや他の部位を落としてくる。持ち帰るのにかさばらず、お高いやつを。


 それでも毛皮のほうが高ければ狩る者はいるけれど、今の流行りは山繭蛾やままゆがの討伐らしい。正しくは繭を探してるのだが、普通の虫と違って蛾になった後に年単位で長生きなので、繭が取れる場所に行くと戦うはめになる。


 羽化して外に出るための穴を開けられる前が高いのだそうだけど、穴があるものも今は毛皮より高いのだそうだ。はやる前は繭ができる時期だけ冒険者が移動して来たらしいけど。


 繭から取れる薄緑色の糸は最高級の絹になるそうで、勇者がお望みだそうです。貴婦人たちにも大人気だそうで……。俺も下着類は高い生地使っているので、この件については人のことが言えない。


 毛皮はカヌムで売っても、供給がある程度あるんで値段は抑えめ。当然取れる場所より取れない場所まで持っていって売った方が高く売れる。寒い都市に行った方が高く売れそうな気もするが、この街はファッションの最先端でもあるらしく服の素材も珍しいものは高値がつく。


「お支払いは金貨にしますか? 大金貨にしますか?」

「大金貨でお願いします」

大金貨は金貨十二枚分、金貨というより金塊っぽい。


 大きさと毛の質で差があるものの、だいたい狐一匹分がだいたい金貨百八十枚。貴族の流行のガウン――膝あるいは床に届くような丈の長い外出着が金貨五十枚くらい。


 これから服に加工することを考えると、狐の最終的な値段はいくらになるやら。普通の狐と違って大きいから一枚で一着できるだろうけど、普通の毛皮のように、ここからいいところの毛を厳選するとさらにすごいことになりそうだ。


 狼の毛皮なども売ったが、狐がダントツで一番高かった。家の値段ってこちらでは建材が近くで取れるか取れないかで大分違うけど、庶民の家なら狐の毛皮一枚で下手すると建つ。


 本の値段がそのくらい平気でするわけだが。魔法書系や原書に近いものはさらに高いし。神々からもらった当初の軍資金もほぼ本代に消えてるし、ちょっと真面目に稼がないと。


 こっちの世界に来て自由にできるお金と好きな物を買えることに浮かれておりました。反省、反省。買うけどね! 本日の売買価格は大金貨二百三十三枚ほど。ちなみに一軒目の毛皮屋で二枚ほど売った後、ここに来ている。何故なら店の方の買取資金が足らなかったから!


 さて、これでとりあえず本の代金は大丈夫だろう。多分おそらく最悪手付けくらいにはなるよね? いったいどんな本なのかわからないせいでドキドキしている。


 そして海の見えるテラスで食事をしている現在。さらに言うなら前回よりも高級店。大店が商談のために押さえてあった席を使わせてもらっている!


 ワインにハムにサラミ、鶏のレバーペーストをのせたカナッペ。幅広の平打ち麺にチーズを絡め、トリュフが乗るパスタ。牛のステーキ。


 ワインは濁りがないし、レバーも臭くない。パスタもシンプル、ステーキは良質な赤身の牛肉を塩胡椒をし炭火で香ばしく焼いただけのもの。


 使っている素材の数は少なく、良い素材を厳選したかんじ。麺の小麦も美味しい、牛も日本の柔らかさと脂に重きを置いたものとは違うが、大変美味しい赤身。これ特別に育てた小麦とか牛なんだろうな。


 テラスからの風景はとてもきれい。半島と大陸との間に挟まれた海は穏やかで、行き来する船は当たり前だが木造の帆船。高い位置から見る島の街の屋根は瓦の濃さの差があるものの落ち着いたオレンジ色。


 こっちの家は大体付近で取れる建材で作ることになるので、特に屋根や壁などの同じ素材をたくさん使う部分は自然と色味が揃うのだ。運んでくるの大変だからね。


 贅を凝らしたガラス窓の多い家も、そうでない家も色味が揃っているため、街がとてもきれいに見える。


 港に近いと雑多で乱暴な言葉が飛び交ってるし、衛生面もあれなんだが、こうして離れて見る分には大変いい。


 『斬全剣』の姿が変わったので似た剣を探したが、なかった。強いていうならシミター? 諦めて長さだけでもと揃えたため、普段使いの剣が一般的なものよりでかくなった。


 ナルアディードの武器商で精霊武器というものがあることを知る。精霊武器も三パターンある。精霊が武器を気に入って憑いている――宿っているもの。精霊がつくったもの。精霊自身が武器となったもの。


 強さは精霊の強さによるのでバラバラ。基本は手入れが不要な代わりに精霊の好む場所に安置する。精霊剣持ちの冒険者などは、『精霊の枝』や神殿に預けているらしい。預ける頻度は使い方や環境によるらしい。


 俺の『斬全剣』は精霊のつくったものになる。なお使わない時は【収納】に入れっぱなしの模様。時々出したほうがいいのだろうか……? 扱い方について注意は受けなかったのだけど。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る