第67話 リシュ
俺がフラフラ遊び歩いている間に、討伐隊の出発の日。
「む……」
もぐもぐとよく噛んでいるアッシュ。
「暖かい朝食というのもいいものですね。そしてどれもこれも美味しい」
執事がフランスパンで作ったフレンチトーストを手に取りながら褒めてくれる。
アッシュたちは短くない日数、家を空けるため、数日かけて保存の効かない食材は全て消費したと、路地の入り口で偶然会った外食帰りの二人に聞いた。
そういうわけで朝食に誘った次第。
こちらの朝食はパンとパンみたいな主食強調メニュー。それに干し果物、多少余裕があれば少しの肉、冷たいままの野菜スープ。日が昇るとさっさと働きに出るため、火を起こさないことが多いのだ。薪の消費も抑えられるしね。
アッシュの家はお茶は沸かすけど、朝から料理というのはあまりしないようだ。コンチネンタルブレックファーストというやつかな? 火を通さない冷たい料理を中心としたあれだ。
まあ、朝から料理しなくても焼きたてパンとか外に買いに行けば色々売ってるしな。
俺が用意した朝食は、フレンチトーストとクロワッサン、バターとマーマレードの小皿を添えたバケット。
小さめながら揺らすとぷるぷるするオムレツ、ハム、三種の焼きソーセージ。焼き玉ねぎとカブ。野菜スープ。オレンジジュースをつけたいところを自重してお茶。
付け合わせにジャガイモかトマト使いたいな。なんかアッシュに出した食事にすでに使ってしまった気がしないでもないけど。気のせい、気のせい。
この世界、ジャガイモもトマトもある。ただ、ジャガイモは三センチくらいの小さなもので、ナルアディードで花の球根扱い。トマトも実が小さい上に毒があって、観賞用だった。
トウモロコシもなんか違うし、品種改良前なんだなきっと。
「これ昼。気をつけて」
「ありがとう、行ってくる」
「感謝いたします」
弁当を持たせて二人を送り出す。ディーンたちの分も持たせたので結構かさばっているが、そこは諦めてもらおう。
さて、俺は建材調達!
漆喰と石と材木、暖炉用のレンガ。家の修繕をするんですよ、という
これだけで一日が終わり、コーヒーを淹れる。そういえばサイフォン式を作るつもりだったんだ。
二階建ての小さな家を建てるのは決定、一階一間、二階一間の小さな家。一階で土足のままお茶が飲めて、魔力切れの時に二階でゴロゴロできればいい。聖域はそう広くないので庭を広く取ろうとするとそうなる。
「リシュ、森に安全地帯できたから連れて行けるぞ」
名前を呼ぶと、足元で尻尾をふるリシュ。
これで森の精霊の名付けをしている時、昼間も一緒に居られる。リシュが駆け回れるスペースはなるべく広くしたい。
森の聖域に【転移】。
聖域の中には俺が名付けた精霊が自由に出入りできるのだが、今日は俺だけでなく、リシュがいることに驚いたのか驚いて四方に逃げ出した。なんか鳩が一斉に飛び立つみたいな光景だな。
「リシュ、薄い白い光の線までは安全だから。遊んでていいぞ」
これでちゃんと意思疎通できて、言ったことを守ってくれるのだからリシュはお利口さん。
まずは建てる場所の整地。こっちでは地震がほぼないらしくあまり耐震は考えられていないらしいが、日本人としてはもう少し土台をしっかりしたい。四隅は通し柱にしたいし。
力があるって素晴らしい。サクサクと穴を掘って午前中で最初の作業は終了して、お昼。
リシュは基本、朝晩肉なのだが、水はいつでも飲めるようにしてある。ここも泉があるので飲んでいるのだが、水飲み皿に家の水を注いで準備。
気配を察したのか、リシュが駆けてくる。皿から水を飲んだ後、俺が座った隣で伏せて、地面に落ちていた枝を前足の間に挟んで角度を変えてはかじって遊ぶ。
俺の昼はスモークサーモンとクリームチーズ、フリルレタスのベーグル。それに紅茶。ぽっかり空いた梢の間から空を流れる白い雲を眺める。
平和に日々が過ぎてゆく。
と、思ったんですけどね。
「……っつ」
相変わらず尻尾をくわえたままのユキヒョウ。
「何故、リシュ様がここに」
真っ直ぐ前方を向いていて、俺からは視線が外れている鹿。
「……っつ」
「姿を消されてから五年」
「……っつ」
「雀どもは貴方が勇者召喚に失敗されて消失したと」
感極まった感じのユキヒョウ。いや、表情わからないけど多分? リシュを見ると我関せずで枝をがじがじ。
「リシュ、お前このユキヒョウの上司だったのか?」
こっちを見上げてこてんと首を傾げて見せるリシュ。
今は覚えていないのか、前から覚える気がなくて覚えてないのか、面倒なのでスルーなのかどれだ?
「……っ!」
そして息を切らせて駆け込んでくる馬。こっちもリシュを見て固まる。
「リシュの前の家はもしかしなくてもこの森か」
犬? 狼? どっちにしても人のいる場所よりも森が似合う。
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