第63話 聖獣?
「えーと。何でユキヒョウが……?」
あと何故自分の尻尾くわえてるんだ?
目の前に大きなユキヒョウ。……たぶんユキヒョウ。太い手、真っ白な毛並みに黒いヒョウの模様、丸い耳、先端が黒い太い尻尾。額にねじれた真珠色に淡く輝く美しいねじれたツノがある。
「……っつ」
ユキヒョウが尻尾の間から声を漏らす。
「何だ?」
「鹿は現れてもいいのかと聞いている」
ユキヒョウの隣に並んだ大きな白い雄鹿が口を開く。大きく枝のように広がった立派な角も白く、その先には何故か薄く光る鈴がいくつもついている。額に三つ、赤く丸いツノ。
通訳!?
「鹿は森にいる前提で来ているからな」
だがユキヒョウは寒い山岳地帯にいるイメージがある。
「……っつ」
「うむ、普段はもっと北にいる」
目の周りに黒い
昨日に続き、森の奥を目指していたら、向こうから寄ってきた。話からすると普段はもっと奥にいるけれど、わざわざ出てきたようだ。
「……っつ」
「頼みがある」
ユキヒョウは案外表情が豊かだが、鹿はまっすぐ俺を見たまま微動だにせず、口だけ動く。通訳特化なの?
「何だ?」
「……っつ」
「マジルと契約し、助けてほしい」
マジルというのは同じ聖獣か?
「マジルとは?」
まさか聖獣ってみんなこんなのじゃないだろうな? 会話内容よりそっちのほうが気になる。
「……っつ」
「我が友だ」
……。それでわかるのは熱血少年漫画の主人公だけだと思います。
聖獣の友達ということは精霊系? それで契約ということは名付け直せということ。あれか、マジルは溶けた精霊か。
「俺で制御できる範囲なのか? それと対価は?」
「……っつ」
「この森の好きな場所に聖域を作ろう」
「聖域?」
「魔物や黒い精霊、敵意のあるモノを弾く」
ということは森に拠点が作れるのか。ここの普通の精霊に名付けるためにはあると便利だ。
「どこに行けばいい?」
「……っつ」
「鹿に乗れ」
その鹿は棒立ちなんですが、本当に乗っていいのか? ためらいつつも微動だにしない鹿に飛び乗る。
「うをっ!」
乗った途端に走り出した。しかも速く、覚悟がなかったので上半身が後ろに流される。
幸い落ちることなく体勢を立て直し角に掴まる。ちりちりと重なって鳴る鈴の音が森に消えてゆく。ユキヒョウは音もなく尻尾をくわえたまま前を走る。息苦しくないんだろうか?
視界の端にうつる魔物も精霊もすぐに見えなくなり、飛ぶように周囲の木々が背後に消えてゆく。
「ごっ!」
トップスピードから前触れもなくいきなり止まった。滑ることもないって、どんな物理法則してるんだ。どこもぶつけなかったものの、内臓にくるからやめろ。
「……っつ」
「マジル、マウが来た」
大きな岩と木が寄り添うような場所に向かって鹿が言う。尻尾は離せないものなのだろうか? ウロボロスの蛇的なあれか?
マウってユキヒョウの名前だろうか。
のっそりと岩陰から大きな黒い馬が姿を現す。体が透けて肩のあたりが溶けている。
そういえば深部にはユニコーンとかペガサスがいるんだったか。だがこの馬は魔物でもなく、聖獣でもなく精霊だ。まだ何かに憑いたわけじゃなく、馬型の精霊のでかいやつ。
「……何故人間を連れてきた!」
低いうなるような声が響く。
「失礼」
鹿から降りて、そのまま素早く引き倒して馬の首を地面に抑える俺。
動物じゃないから骨折させる心配がなくていい。
「なっ……!」
「はい。お名前は?」
首を傾げて顔を覗き込む。
名前付きの精霊はまず元の名を本人に名乗らせて、契約の言質をとる。新たに名付けることもあるけれど、そっちは結びつきが強くなる。溶けた体を治すだけなら名前はそのままでいいだろう。
「……っつ」
「なかなかひどい」
通訳する鹿に変わりはないが、ユキヒョウの耳が後ろにペタッと倒れている。
黒いのは経験上説得が無理なんだよ! 半殺しにして屈服させるより穏便だろう!?
「怖くない、怖くないぞ〜?」
「貴様……っ!」
暴れる馬を押さえつける俺。蹴りは痛そうだしくらいたくない。
魔力を流しながら押さえること小一時間あまり。足掻く馬のせいで、地面がえぐれて荒れている。
「くっ……。マジルだ……っ」
「ではマジル、契約を」
「おのれ、人間っ!」
馬の瞳が赤く燃える。
「契約を」
「……契約を」
気にせず同じ問いかけをすると、馬が折れて同じ言葉を返してきた。
契約の時の精霊の言葉は様々だが、その言葉を発したと同時に俺の魔力が大きく動き精霊に流れるので契約の可否はすぐにわかる。
ごっそり持って行かれたな。昨日もそうだが、今日も黒いのを追いかけ回していないので何とかなった。
「ふう。何とかなったぞ」
さすがにすこし汗をかいた。
「……っつ」
「なかなかひどい」
二回も同じことを言われた!
「おのれ、魔法陣や符のついた縄が来るのかと思って油断した……っ!」
馬が悔しそうに言う。
……。もしかして普通の精霊捕獲は力技じゃなくて、そういったものを使って絡め取るのか……。思わず視線を逸らした俺がいた。
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