第62話 森の探索
今日はもうちょっと森の奥に行ってみようと思う。調査や討伐隊は川沿いに進むことがわかっているので、そこからはずれた場所に移るつもりだ。ちょっと今、黒い精霊をとっ捕まえてる場所は微妙に近いから。
俺のもらった地図は東側が森で不明瞭になり途切れている。どうも俺と会った神々の力が及ばない地というか、知っている精霊がいない地、ということらしい。
黒い精霊を追い回すのもそこそこに、森を進む。イタチやハクビシンの魔物もでるが、形勢不利となると逃げるから倒そうと思わなければそれほど厄介ではない。倒そうとすると穴蔵とかに逃げられるのは厄介だけど。
狼やクマの三本ヅノ、こちらも行動パターンが一本のやつと似てるので余裕。俺の方が速いし、力も強い。
イノシシと野ブタ。野ブタは家畜が逃げ出したのかな? こいつらは美味しいので狩りまくられて浅い森には滅多に出てこなくなったのだそうだ。普通は自分より強い魔物から逃れて移動するんだけどな。
三本ツノのイノシシが突進してくる。猪突猛進というが、イノシシは存外小回りが利く、勢いは言葉通り。体高は俺よりあるが頭を下げて喉を見せない。
引きつけてギリギリで躱しながら、剣をイノシシの目に突き刺す。『斬全剣』を使っているが一応柔らかいところを狙ってみた。【収納】に急いでしまう、牡丹鍋にしよう牡丹鍋。
野ブタも野生だと牙が生えているし、ツノはあるしで結構危険。だが、肉も魅力だが豚毛のブラシをリシュに作りたいので、これも狩る。
つい黒い精霊を深追いしてしまったり、野ブタを追ったりでなかなか深部には進めない。途中で薬草も採取、森の奥は荒らされていないので取り放題だ。
食べてみたかったアスパラソバージュも発見。つるっとした長い茎に麦の穂先みたいなのが付いている、全体的に黄緑色。
討伐隊はまだ出発もしていないし、そこまで急ぐこともないのでのんびり行こう。
でも早くイノシシと豚の解体はしたい。家で解体は後始末が面倒だし、臭うのでしたくない。せめて森で血抜きをしたいので落ち着ける拠点を作りたいのだ。もう少し川から離れたらいい場所を探そうと思う。
薬草を採取してきましたよ、という顔をして門をくぐる。冒険者ギルドに近づくつもりがないので、肩掛け鞄で出て行って、そこに薬草を詰めてきた。実際、討伐隊で回復薬の需要があるので、多めに納品できないか打診があったのでちょうどいい。
借家に戻って暖炉に火を入れる。普通はここで家に転移するのだが、たまにはこっちの台所を使わないと。門を真面目に通ってきた関係で、いつもより早い時間だし。
とりあえず湯を沸かす。薪もそろそろ買い足そう。
アスパラソバージュをちょっと茹でてみる。食べてみると、シャキシャキした食感、ほんのちょっとのぬめり。甘みを感じ匂いやくせもなく――。うーん、おいしいけど食感がちょっと。
俺としてはヌメッとするなら、いっそなめこくらいヌメヌメしてくれたほうがうれしいんだが。これは執事におしつけてくる案件。
外に出ると、アッシュの家の台所の窓の鎧戸が空いている。執事が夕食を作ってるのかな? 裏口のドアをノックして待つ。
「これはジーン様」
「こんばんは。薬草ついでにこれを採ってきたんだが食うか?」
「アスパラソバージュではないですか。採れる時期も短く、春を告げるものとして人気、商業ギルドにおろしてもいい値がつきますよ」
ここに住んで間がないので、俺が個人相手に商売することはできないが、商業ギルドに卸すことはできる。店同士、個人相手の商売より、安い価格になるのだがこれはしょうがない。
「いや、今から行くのは面倒だし。自分で食うつもりだったんだが、どうも食感がダメで」
「なんと。美味しいのですが……、少々お待ちください」
そう言って引っ込んだかと思うと、ザルに乗せた普通のアスパラガスとソーセージを持ってきた。
「代わりにどうぞ」
「ありがとう」
ソーセージを思わず【鑑定】しつつ、借家に戻る。アスパラガスは俺が調査の時に採った野生のものではなく栽培ものなのか、太くて立派。
アスパラはゆで卵とパセリのみじん切りを乗せて、焦がしバターをかけて食べよう。感想を聞かれた時のために、こっちにあるもので料理しておく。たくさんもらったから、半分は明日マヨネーズ醤油で食べるけど。
メインはカレーがあるからそれでいいかな。【収納】はできたてのまま保存できてとても便利。カレーをうまく温め返す自信がないし、そもそもジャガイモを入れていると冷えると質が変わる。
いや、違う。料理することが目的だった。
野菜を適当に切って、鶏と一緒に煮炊き用の壺に放り込み暖炉にかける。小一時間すればできあがるだろう。結局面倒になったのは内緒だ。
今のうちに風呂に入るか。今日は風呂もこっちのを使おう、湯は沸かすのが面倒だし【収納】から出すけど。
風呂から上がったら、窯で薄いパンを焼いてアスパラを料理しよう。そして暖炉でもらったソーセージを焼きながら食べよう。
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