第58話 立地
リシュの散歩後、ギルドへ。
頼まれていたザック――バックパック? をギルドに置きに来た。ただし、革で作る前に布でつくった試作品がいくつか。どうせバラして構造を見るだけなのでこれで問題がない。
俺は商業ギルドに登録があるが、登録がなく売買の範囲が限られる冒険者のために、冒険者ギルドが商業ギルドに商品の登録をすることがある。冒険に便利な商品というのが条件で、冒険者ギルドを通す分こちらに入る使用料のパーセンテージは低くなるけど、支払われる期間が三年ではなく五年と長い。
どう考えてもただの袋より便利でロングラン間違いなしだし、冒険者ギルドを通すと冒険者に広まるのが早いし、あと誰が金を受け取ってる開発者なのか表に出づらいし、ここはぜひ冒険者ギルドを通したい。
仕様書らしきものと現物渡してあとは丸投げで済む、面倒がない。
脱走した挨拶をと一応酒場とかに目を向けてみたが、ディーンたちはいなかった。家は知らん。調査依頼に出発する前、ディーンに頼まれた精霊の様子を見るというのは、探索中に何度か話しているし会えなくても問題ないな。
よし、石鹸作ろう。
この近辺の石鹸は獣脂から作ったもので、作るときにものすごい臭いがするし、できあがりも精製しきれないのか少々臭う。ちなみに石鹸を作るときに分離したグリセリンも流通している。どっちも高いけど、獣が周辺でたくさん取れる分カヌムでは他の町より安いかな。
石鹸の基本材料は獣脂と草木を燃した灰、油脂とアルカリ剤か。こっちの石鹸が固まりきらずに柔らかいのは、灰のアルカリ性が弱いからだな。
日本の、というかフランスのマルセイユ石鹸ってオリーブオイルと海藻だったはず。海水はナトリウム――アルカリ性だ。そういうわけでまず海に行こう。
三日ほど海藻を焼いて灰にしたり、海水入れて煮込んでみたり、試行錯誤して完成した薄いオリーブ色の固形石鹸。できあがったあとにムクロジの存在に気づいたんですが、気のせいです。
……まあこんなこともある。
ムクロジの種は黒くて羽根つきの羽にも使われ、その周りの果皮は石鹸みたいに泡が立って界面活性作用もあるから、そのまま石鹸がわりになる。カワラフジノキの実も同じだけど、この辺では見かけない。
買い足したシーツ類に絹がある。絹は石鹸のアルカリで痛むので、むしろムクロジとかカワラフジの方がいいというオチが。いやでも手軽なのは石鹸だな、作るのが全く手軽じゃなかったけど。石鹸のレシピはわかったので、次回からはもっとスマートに作れるはず。
ムクロジを移植するために山の適当な場所に穴を掘る。手伝っているつもりか、隣でリシュも土を掻いてかわいらしい穴を掘っている。
家はいいな。
ほんわかしつつも、午後の数時間は森で精霊を追いかけ回し、家でも名付けを行なっている。魔法も使いたいのだが、使う前に名付けだけで倒れそうなんで、壊れた精霊の件が落ち着くまで無理っぽい。
家の山にも生えていた野生のアスパラガスとタンポポの若葉をとってきてサラダに。こっちではこの時期、タンポポをよく食べるのだそうだ。
ガクが反り返っているのは西洋タンポポ、花弁を支えるように上を向いているのが日本古来のタンポポ。ここのはガクが反り返ってるので西洋タンポポ系か、でも葉がちょっと違うかな。
こっちの世界の植生はとてもよく似ているようで、ほんの少し違う感じ。呼び名もほぼ一緒――いや、単に俺の知識からある程度置き換えられてるのかな? 能力としてもらった【言語】がどういうものかイマイチわからない。
たとえば、遠い場所に転移すると
俺がもらった地図は、陸地がざっくり説明すると翼を広げ下を向いて火を吐く竜の上半身みたいな形をしている。下半身にあたる東側は魔の森に飲まれて不明。
俺の家がある場所は竜の下顎と呼ばれる場所にある、姉たち勇者がウロウロしてるのは竜の瞳と呼ばれる地域。家のある下顎は山脈が連なっていて、帆船での交易はあるが陸路は他と隔てられている。
お隣にはアッシュたちの国。カヌムの街のあるアジールは、アッシュたちの国からさらに
移動手段が徒歩か【転移】なのでスケールがさっぱりわからないのだが、この大陸に大小多くの国がある。というか、俺の家のある山も国なので、県どころか市単位で国を名乗ってるレベルかも。
国が多すぎて、そして勝った負けたで領土が変わりすぎて覚えきれない。もらった地図がこれまた反則で、領土変わったら国境線変わるので大助かり。国境線がジリジリ動いてるところは戦争中なので近づきません。
この魔の森を越えて東に行ったら、日本っぽいところないかな? どんな魔物がいるかわからんのでいきなり【転移】は控えたい。魔の森をちょっとずつ奥に進んで確かめながらがいいだろう。
ちょっとずつっていっても【転移】なんだが。当面、精霊をなんとかしたいから、とっ捕まえ終わったら移動する感じになるかな。
ああ、かち合わないようにアッシュやディーンたちの討伐予定を確認しとこう。
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