第54話 留守番組
三本ツノは思ったより早く見つかり、もう帰れるのだが野営の場所の関係で少し先に進んで夜を過ごし、明日はしばらくオオトカゲを狩って昼に元来た道を戻る予定だ。
だが、元々次の野営地を拠点に最大二日、周辺を調べる予定だったので人数分集まるまで狩ろうかという話も出ている。どうやらこの調査の報告の結果で、魔物の数を減らすため銀ランクの二人は確実に、もっと長期間この森にこもることになるらしい。
街を守るためにご苦労様です。なんか、レッツェやアッシュも参加する気配なので装備を整えるのはいいことだ。俺は参加せず、期間中そっと奥の方で日帰りで狩っておくよ。
オオトカゲの
そして俺は今回もレッツェと拠点で留守番です。
「なんでそんなに居場所を整えたがるのかねぇ。いや、快適なのは大歓迎だけど、よく思いつくなぁ」
レッツェが少し離れた川辺で血の匂いを洗い流しながらオオトカゲの解体をしている。
解体に慣れたいと仕事をかって出たのはレッツェだ。俺はその間に野営地の改造中。
――うん、鉈もあるし腕力もあるし体力もある。ちょっと感慨深くて涙がでそうだ。
冬の名残のキノコ、フユヒラ発見。アスパラガス、タンポポ、イラクサとアブラナ科の小さなガーリックマスタード。
イラクサは細かい棘がいっぱいで、採る時に気をつけないと火傷したような痛みを食らうはめになるが、茹でちゃえばこっちのもの。今日はこれとガーリックマスタード、松の実をオリーブオイルを混ぜてペーストにしよう。それでパスタだ。
二組が別な方向に狩りに出ており、川沿いに進んできた方向にも魔物はいない。ある程度拠点の安全が確保されているので、レッツェの声が届く範囲で出歩いている。【探索】にもかかってこないし。
って、思ったそばから狐が。これは二本ツノかな? 離れてるけど、鼻も耳もいい奴らだ。ついでに火を避けず、むしろ獲物がいる場所として認識している感じがする。レッツェのところに戻っておこう。
「ジーン、
「おお、順調に増えてる」
川の一角にレッツェと棒を刺して作った囲みに、魚が三匹泳いでいる。入り口を進むと狭くなるようにV字にした簡単な仕掛けだが、餌を入れて木の枝をかけて暗くしておくと結構かかる。
「レッツェ、そばに狐の魔物がいる。臭うものは始末しちゃってくれ」
「おう」
見たわけじゃないけど、いるから。
「ちっと解体しすぎたか」
臭いをごまかすため杉の葉がかけてある皮を見るレッツェ。
杉の葉を少し揉んで匂いを立て臭いをごまかすと、風下に向かって森の中に入り、大きな木の根に寄りかかるように隠れる。ここまで、いざという時の打ち合わせ通り。
「塗っとけ」
レッツェに臭い消しのクリームを渡される。
体臭がですね……。川で洗ったりしているのだが、ズボンとか着た切り雀なので。俺はそんなに臭わないと思いたいところだが、解体してたからちょっとあれだ。現実を見て前向きになろう、次回は解体用エプロン用意だな。
緊迫した雰囲気だが、よく考えると倒せると言うか、こっちに知らせる前に倒してしまえばよかった気がしてきた。こう、魔物に会った時の行動の確認とかしてたものだからつい。
確実にこっちに近づいている狐。オオトカゲと違って、狐の魔物は足が早いし、でかい。なにせ体高が俺くらいある。逃げてもレッツェは追いつかれるだろう。
「まあ、狐ならオオトカゲより柔らかいか」
「おい……っ」
立ち上がって剣を抜いた俺にレッツェが慌てる。
戦うことを決めたなら、不利な場所にいることはない。剣を振り回すためにある程度広い場所に陣取る。
狐の姿が見えたかと思ったら、ジャンプして一気に上から襲って来た。予想通りの行動なので、慌てず一歩下がって避け、狐の後ろ足が着く前に喉に一撃。
速いけれど、魔物の戦い方は憑いた体に引っ張られる。言葉を話すような強い個体なら別だが。
「ぶっ!」
剣が抜けなくて飛びのくのが遅れ、思い切り血しぶきを浴びた。
血を噴きながら、横倒しに倒れる狐の魔物。
オオトカゲほどじゃないものの、魔物なので皮が固いし、骨を貫通している。なまくらな剣でも真っ直ぐ勢いをつけて突けば折れることはないと思ったのだが、抜くことができないとは予想外。
「失敗した……」
「凄い! 二本ツノじゃないか! しかも一人で!」
レッツェが驚きつつ褒めてくれるがそれどころじゃない。
「って、毒は!?」
すぐにレッツェの声が心配そうなものに変わる。
普通は血に毒はないが、憑いた精霊によっては血が毒であることもありえる。
「今のところねっとり生暖かくて感覚が気持ち悪いだけだ」
【鑑定】結果でも毒はない。
なるべく血や体液を被らず倒すことも大切なことなんだが、大失敗。もう少し、普通の剣での戦いの場数を踏むべきだなこれ。
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