第53話 トカゲ狩り

「二本ツノ飛ばして三本か」

嫌そうな顔をしてディーンが言う。


「三本ツノのオオトカゲは生命力が強い。倒すには首の骨を切るか、心臓を潰すか。それをしてもしばらくは動くからディーンとクリスが良いって言うまで近づくなよ」

レッツエが俺たちに説明と注意。


 一回動かなくなっても、つついたら動くこともあるんだよな。けっこう大きく体をうねらせるんで危ない、特に尻尾。


 三本ツノの中でも大きめの個体、膨らんだほっぺたは成熟したオスだ。死ぬと白っぽい灰色に変わる体色が、今は緑に茶色のマダラ。


「その前に背中側の皮は丈夫で骨よりも硬い、上や側面からではどうにかするのは難しいのだよ」

静かに剣を抜くクリス。


「チャンスは顔を上げて喉を晒した時だな」

ディーンが剣を握り直す。


 うーん。『斬全剣』で構わず上から横から斬っていたから、普通このの剣で戦うとなるとどう戦っていいかわからない。皮に当たったら剣の方が欠けそうだ。もう少し考えて戦っておけば良かった。


 そう言うわけでお手並み拝見。


 二手に分かれて、ディーンがオオトカゲの尻尾の方に回る。真後ろではなくやや右。クリスは正面やや左。二人とも風向きを気にしながら気配を殺して慎重に。


 そして配置についた二人がうなずき合う。


 ディーンがオオトカゲの尻尾を剣で切りつける――いや叩く。驚いたオオトカゲが体を曲げてディーンに噛み付くようなそぶりを見せたところで、クリスが弧を描いて伸びきった首に一撃の突き。


 オオトカゲがのたうち始める前に素早く距離をとる。


 攻撃して来た後方の敵に向くため、浮かせた上半身、首を大きく曲げて伸びた皮。喉の下の背よりは柔らかい皮を狙い、さらに薄く伸びたところに貫通力のあるクリスの剣で狙いすました攻撃。


 骨を断つまで差し入れた剣はすぐに引き抜かねば、収縮した筋肉に締められて剣が抜けなくなるか折れるか。


 それを一瞬でやってのけたクリスがすごい。それに打ち合わせなしで息がぴったりなのも。これ、剣の特性も考えて阿吽の呼吸で役割分担したんだろうな。


「見事だな」

「さすがでございますね」

アッシュと執事が感心している。


「ふー、大丈夫だと思っててもドキドキするぜ。小心者だからな」

隣でレッツェが詰めていた息を吐き出す。


「すごいな」

すごいんだけど二人組みじゃないとダメじゃないですか、やだー。お手本にならぬ!


 眺めているとオオトカゲの動きが弱くなり、やがて止まった。


「さて、解体を手伝ってくれたまえ」

こちらを振り向いてクリスが言う。


 はい、はい。解体は得意です。これも『斬全剣』を使ってやっていたのだが、防具コートを作るにあたって特性を知っておこうとちゃんと普通のナイフでの解体もやったとも。


 結果、普段人に見せるために持ち歩いている剣より、ナイフの方がお高いという。


 頭のツノを落としたり爪を抜こうと苦戦し始めるディーンたちをよそに、まずは邪魔な突起を取り除く。


 石のように硬いイボのような突起は頭から首、後ろ足の内側にある。これは強く叩くとぽろっと取れる。臭いを出す腺があって、この突起は鱗というより臭いのする体液が固まったもののようだ。


 次に腹の下の方、後ろ足の間にある肛門からナイフを入れ、皮を切って開いてゆく。もっと切れるナイフも欲しいなこれ。


「いや、待て。慣れてねぇ?」

「トカゲなら一緒だろ?」

ディーンに突っ込まれた! オオトカゲの解体は普通はしない、か。いや魔物化してないオオトカゲならあるいは?


 で、さっき突起を落とした穴から臭腺に沿って――。


「慣れておられますね」

断定的な執事。


「この皮ってさ……」

言葉を濁すレッツェ。


「気のせいです」

言い切る俺。


「……」

「……」

「……ちょっとトカゲ 狩ってこうか」

「一本ツノのほうではないかね?」

「人数分のシートは何匹で足りますかな?」


 !?

 バレただと!? だが、一本じゃなくて二本だ。むしろオオトカゲの一本ツノを見たことがないです。



「ジーンは金ランクについて森に入ったことがあるのか?」

「黙秘します」

「まあ、だろうなぁ。金ランクと関わりがあるってバレたら、ちょっと顔見知り程度でも素材の要望やらなんやらで紹介しろってうるさくなる。黙ってた方がいいぞ」


 金ランクなんか一人も知らないがな。正直にないと答える場面だったか。


 レッツェと川辺で解体しながら食事の用意、他の四人はトカゲ 狩りだ。この辺りは一本は普通に出るらしく、そっちはアッシュと執事が、それ以外が出たらディーンとクリスが狩る方向らしい。


 アッシュと執事なら二本も三本もすぐ倒せるようになりそうだけど。武器的にもディーンとクリスが見せた方法が取れるし。


「あ、突起は後ろ足の内側にもあるぞ」

「こっちもか」

俺はレッツェに解体の手順を教えている。我流なんだがな。


 ここはオオトカゲの繁殖地だそうで、普通のオオトカゲの姿が多く、比例してオオトカゲの魔物も多い。強い個体はだんだんに森の奥に移動し、散らばってゆくらしい。


 今は三本ツノまでいるので油断できないけど、オオトカゲが多いせいで他の魔物や動物が少ないらしくトカゲ狩りにはもってこいのようだ。


 黒いシミのある溶けたような精霊も多くなって来てる。修行場の精霊より小さいものが多いけれど中には大きめのものもいる。これが憑くと魔物になるので油断はできない。大きいのが憑くとツノの多い魔物になるのか? 色々謎だ。


「ところでレッツェ、ラードどれくらいある?」


 オオトカゲ、鶏肉に似てるっていうし唐揚げがしたいです。


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