第48話 野営

「お前、野宿嫌がってたんじゃなかったっけ? 手馴れてねぇ?」

さっさとシートの端を木に結び、他の三点を杭で止め寝床の支度をした俺にディーンが言う。


「なるほど、防水のシートがあれば簡易な屋根と壁ができるのか。――このシート何でできてんだ?」

レッツェが感心しながらシートを触っている。


「風を遮るだけでだいぶ暖かいのではないか? 素晴らしいよ宵闇の君!」

大げさなクリス。ハグを求めてくるな! 


「天幕など徒歩では持ち歩けませんし、こちらは大変便利です。本当にこの軽さはいったいどのようにして実現させているのでしょうか?」

執事もためつすがめつシートを見ている。


 牛や馬の皮だと重いからな。トカゲくん、いい仕事してます。


「野宿は嫌だけど、慣れてないとは言ってない」

薪と一緒に周囲から集めてきた杉の枝を折ってシートの下に突っ込み、苔を剥がして来てその上に敷く。あとは布団を敷くだけだが、それは後でいいだろう。


 島で何の装備もなしに野宿を続けたのと比べれば、準備期間があったこれはただのキャンプだ。キャンプ用品はちょっと充実してるとは言い難いけど。


 明るいうちに歩くだけ歩くのが普通だが、ここは先人たちが通った道、大体の野営の場所が決まっている。


 今いるここも、前に滞在した人が平らにして川風を避けるための石を積んだ場所のようだ。焚き火を保つための石組みもある。


 だいぶ日が残っているが、夕食と寝床の準備。寝床の準備してるの俺だけだがな! みんなそのままローブかコートに包まって、その辺に転がるらしい。長い間、石を少しずつ取り除いたりしたらしく、他の場所よりは快適だって。


「苔を真似よう」

アッシュが苔を取りにゆく。


「いっそここに生やしたいものだ」

「踏まれますのでダメになってしまうのでは?」

すぐその後に続くクリスと執事。


 結局全員苔を剥いできた。日本の山でやったらひんしゅくものだけど、色んな恵を森から取ってくる生活で森を愛でる余裕はない世界だ。


 今日はだいぶ早く野営地に着いたので、釣りをすることにした。釣りといっても持っているのは釣り糸と針だけ、釣竿はみんな適当な枝を使ったり、糸を巻きつけた棒でそのままとか色々だ。


 それぞれ思い思いの場所に散って釣りを開始。俺は釣りにまったく自信がないので、野営地の一番近くに陣取ったディーンの隣の木の枝に糸の端を結んで川に餌の付いた針を放り込んだ。


「スープくらいは全員分作っておくので、かかったらよろしく」

「おう。スープはありがたい、冷えるからな」

ディーンに頼んで、荷物番を兼ねて焚き火へ戻る。野営の場所は川辺といっても急な雨による増水に備えて少し距離を取ってある。


 鍋に野菜、ひよこ豆、干し肉少々を突っ込んで焚き火にかける。ドライトマトを多めに入れたのでトマト味のスープだ。


 次に明日の朝のパンダネの仕込みと、本日のピザ生地作り。ピザ生地は強力粉と薄力粉、塩をぬるま湯で混ぜる、ボウルなんかないので鍋でだが。オリーブオイル少々。こねたあとべしべしと打ち付ける。


「おい、何してるんだ?」

「ピザを作ってる。騒がせて悪いが気にするな」


 焚き火で焼き物に使うのだろう平たい石があったので、それに向かって生地を叩きつけてたら物音に心配したらしいディーンが様子を見に来た。後ろにアッシュもいる。


「まあ、あれだ。変だ」


 ひどいことを言い残して釣りにもどってゆくディーン。普通、普通だろう!? 納得いかないまま生地を石に打ち付ける作業に戻る。ボソボソした生地がツルツルと滑らかになったら出来上がり。


 具材を切ったらあとは釣り組が戻るまで生地を寝かせておけばいい。次のパンダネはできたら革袋に放り込んでおく。明日はこれにジャムをつけて、ソーセージを焼こう。


 ここは人が来ないせいか、俺のいい加減な仕掛けにも魚がかかったようでディーンが持って来てくれた。

 みんなが獲って来た魚を小さいものはそれぞれ塩焼きに、大きいものはさばいて俺が香草焼きの準備。


 それぞれフライパン的なものと湯を沸かすための鍋は持って来ているが焼くのは執事と俺の二人。焚き火狭いし。


 ディーンとクリスはフライパンは持っているが、湯のほうはカップが金属で直で火にかけて使う。荷物を減らす工夫のようだ。レッツェも普段はカップ派だそうだが、今回は荷物持ちなので鍋も持参してるそうだ。


「この鍋は重いのでちょっと真似はできそうにもないです」

残念そうな執事。

「ラウンドシールドを鍋にすっことはあっけど、蓋がねぇしな」

ディーン。


 やな鍋だなおい。俺が持って来たのは微妙に大きさを変えたダッチオーブンもどきを重ねて三つ。かなり重いが平気、身体能力の強化は本当にありがたい。


 大きいのはスープ用の深鍋、それに入れ子で二つ鍋が入るように鋳物屋に作ってもらった。香草焼きを作りつつ、もう一つでは蓋の上に炭を乗せてピザを焼いている。


「こっち焼けた、皿をくれ。スープも適当にどうぞ」

「こちらもいいようです」

執事の方もできたようだ。


 差し出された木の皿や薄い金属の皿に香草焼きを盛る。


「って、ディーンはフライパンか」

「無駄がなくていいだろ」

ニヤリと笑うディーン。


「私の皿も蓋になるよ」

「日数がかかる奥地にゆく冒険者って大変だな」

ディーンだけなら大雑把なヤツで済ませるところだが、クリスもとなると荷物を減らせるだけ減らす工夫なんだろう。


 それぞれ荷物から固そうな平たいパンを取り出す中、俺は炭をどかしてダッチオーブンもどきの蓋を開ける。


「ジーン、それは?」

「野生のアスパラガスとベーコンのピザ」

アッシュが聞いてくるのに答える。


「さっき変な儀式みたいなのやってたやつか」

ディーン、儀式ってなんだ、儀式って。


「聞いたことのない料理だね」

興味津々という感じでクリスが覗き込んでくる。


 鍋の中でナイフで切り分け、ピースを一つ持ち上げる。チーズが伸びていい具合。


「おい、お前ら。なんでパンをしまう?」


 食事は基本それぞれのはずだろう?


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