第39話 駆け出し冒険者

「確かに三本は今回の調査で見なかったが、魔の森の奥はざわついていた!」


 熱弁を振るう金髪から絶賛目を逸らして酒を飲んでいるディーン。


 観察の時間は短いが、からまれるとハイテンションでいろいろ聞かされそうなのは予測ができる。しかも同意しないと長そうだし、同意したらもっと面倒そう。


 酒場と依頼のカウンターにちらほらいる冒険者も、ちょっと呆れたような雰囲気で演説する金髪とディーンに視線を投げている。


 みんなに聞かせるためか、それともギルドに用事のあったディーンが通りかかったところをそのまま捕獲されて座らされたのか、場所は酒場の端のテーブルでギルドのカウンターや依頼の掲示板がある部屋との境。


「クリス、森の奥への調査隊の派遣は二年に一回だ。三本ツノを見つけてるんならともかく、依頼でもないのにリスクを負ってまで行かねぇよ」


 面倒そうに答えるディーン。断ったという周囲へのアピールのためか、やる気がなさそうな割にけっこう声が大きい。


 ん? 三本ツノ? 魔物のことか?

 ……。

 俺の【収納】に滞在中な気がするんだが。


「ただでさえ三本ツノは強敵、三本ツノは黒に染まった魔物が現れる前触れ! 時を置いてさらに強くなってからでは遅いのだ!」

金髪がどんっとテーブルを叩く。


 この金髪ってもしかして、俺が初めてギルドここに来た時にディーンから名前が出たやつか? その時に調査とやらに行って帰る間際だったならば、金髪の主張は正解だ。


 俺が島でサバイバルしていた時間、神々からレクチャーを受けていた時間、家でゴロゴロしていた時間。姉の行動開始とはズレがある。


 そして魔法の練習時に遭遇した三本ツノ。調査でどの程度奥に調べに行くのか知らんけど思いきり森にいた。


 というか、強敵だったのかあれ。良かった、素材売り払ったり加工に出さなくて。トカゲの皮とか鎧にどうだろうと思ったんだけど、自重した過去の俺グッジョブ! 


 ただ単に革製品は自分で作る方へシフトしただけだけど。キツネの毛皮は寝室の床に鎮座してるし、染色もしているのでバレないだろうけど履いているズボンもオオトカゲの革です。


 オオトカゲの革は鱗のある爬虫類の皮よりも牛とか豚に近い感じ。しかも三本ツノのものは伸縮の幅が広い。ズボンは膝の曲げ伸ばしが容易だし扱いやすい皮だと思う。二本ツノはあんまり伸びないので、ブーツにした。


 ファスナー欲しいな、ファスナー。巾着きんちゃくからもじってチャック。って、違う。オオトカゲは二本と三本まじってたなそういえば。


「ジーン殿」

「おう。今帰りか」

熊を抱えたアッシュに名前を呼ばれた。その後ろでは執事がお辞儀をしている。


 やっぱり運搬人は雇わない方向だよな、面倒だし。


「おお、熊狩り殿!」

金髪がアッシュに気づいて話しかけてきた。熊狩りっておい、いや、熊ばっかり狩ってたんだろうけど。


 俺も気をつけよう。満遍なく狩ればいいのかな、この場合? 狼多めにしておけば狼狩りって言われるだろうか。熊やウサギよりいい気がする。


「相変わらず不機嫌な殺し屋のような男だが、君ならば調査の重要性を理解してくれよう!」

ずかずか歩いてきてアッシュの前で大仰おおぎょうな仕草で同意を促す。


 思わず執事を見る。


 アッシュとこの金髪、知り合いだったのか?


 俺の無言の問いかけがわかったのか、ゆっくり首を左右にふる執事。


「私はここでは駆け出し、判断するための情報も少ない。ギルドの決定に従う」

アッシュが答える。


 面倒な判断……いや、この場合面倒な男をギルドに押し付けるうまい受け答えだと思うが、ここのギルドの判断とやらがイマイチ信用ならない気がする俺がいる。


 おそらく金髪もディーンと同じ、銀ランク。アッシュは毎日真面目に熊を狩って、ランクが上がっていたとしても銅ランクだろうけれど、実力は多分鉄以上。探索の要素が絡まない、対人戦の実力なら銀のディーンとはるかもしれない。


 だれかれ構わず話しかけてるんじゃなくって、森の奥に調査に行ける実力がある人に話しかけてるんだろうな、この金髪。


「杓子定規なことを言っていると……。――失礼、宵闇よいやみのように美しい君はどなたかな?」


「宵闇……?」

思わず半眼になる、誰だ。


「うむ、ジーン殿は確かに宵闇のようだな」

感心して頷くアッシュ。


 俺か!


「単に髪と目の色のせいだろ、それ」

変な粧飾しないで欲しい。


 あと酒場の机で笑いを噛み殺して震えてるディーン、後で覚えてろ!


「ジーン殿と言うのか。私はクリス=イーズ、銀の三つ星だ」

そう言ってフリルじゃない、手を差し出してくる。そでについ目が行った。


「ジーンだ。青銅星なし、一応登録はしているがあまり活動はしていない」


 活動してないけど、お前熊狩るだろうみたいな視線があちこちから来た。


「うむ。君の綺麗な顔に傷でもできたら世界の損失、たとえウサギ相手であろうとも苦戦するならこのクリスを呼びたまえ!」


 この金髪あらためクリスさん、悪い人ではないが絶望的にずれている気がする。あと面倒くさそう。


 アッシュが何か言いたそうに挙動不審だ。執事は静かに微笑みを浮かべている。


「あー。苦戦したらよろしくお願いします?」

視線を斜め上にずらした状態で気の無い返事をする俺。


 机に突っ伏して笑ってるディーンはどうしてくれよう。


 この世界、衣食住はシビアなのに住人だけ変じゃないか? キャラたちすぎな気がするんだが気のせい?


 ディノッソ家とか職人さんは普通だから、冒険者が変なの?



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