第23話 修行
バタールとバゲットを三本ほど焼く。
バタールはフランスパンのちょっと短くて太いやつで、焼き上がりが中がちょっともっちりで、今回はサンドイッチに使う。
バゲットは長くてちょっと細いやつ、細めなためにパリッとした焼き上がりで、輪切りにして上に色々乗せてオードブルにする予定。
焼いているうちにリシュと散歩。フリスビーを作るべきかと思いながら、転がるように走るリシュと風景を眺める。
コーヒーと焼きたてのパンで朝食を済ませる。
コーヒーはこっちで簡単に道具が揃ったのでネルドリップだ。雑味もそのままに豆の味がダイレクトに出る。
気分で変えたいし、サイフォンも作ろうかな? その前に水筒だろうか。こっち革袋なんだよね……。
予定通りサンドイッチを作って、アッシュの様子を見に顔を出し、アズにふくふくさせてもらう。
熊狩りに出発――と見せかけて、森のもっと奥に転移。魔法の制御をなんとかしないと、いざという時困る。
熊狩りの場所では昨日みたいな発光があったら、門塔で森を監視してる物見の兵にばれる。かといって、自分家ではあちこち荒れそうな攻撃魔法使いたくないし。
遮るものを求めて、なんか切り立った岩が乱立して、その上と下に森があるみたいな場所まで来た。
「さて」
誰に言うともなく口にして、集中する。すでに【探索】には感じたことのない気配が引っかかってきている。
俺が名付けを行った場所からはだいぶ離れているので、今使えるのは普通の威力だ。周囲に俺が名付けた精霊はいないはず。
先ずは普通にファイアボール。うん、思っていたものより威力が強いものが出た。
魔法は精霊の力で起こる現象で、魔力――魔力って言ってるけど気力と何が違うのかよくわからん――を餌に呪文で助力を頼むか、無理やり力を引き出すか。
精霊に好かれていれば普通よりも積極的に少しの対価で多くの力を貸してくれるし、名付けや姉の持っている【支配】をすると、無理に力を引き出すこともできる。
あとノリで。これは先日、身をもって体験した。
効果がすぐ出るような魔法を使えるのはほんの一握り、攻撃や回復魔法が使えるのがわかると国が囲い込みにかかるくらいには少ない。呪術師とか魔術師は多いけど、これは準備して長い間精霊に願って少しずつ……、みたいな気の長い術だそうだ。
「
これも普通より明るい。
精霊に名付けると、周囲にいる同じ属性の精霊が力を貸してくれやすくなる。なので名付けた精霊が周囲にいる時ほどではないけど、威力が上がるのだ。
まずはこれを思い描いた威力まで調整できるようにすることから。――その前に。
「すまんが邪魔だ」
寄ってきたツノありのオオトカゲを『斬全剣』で切り倒す。俺の方が速いし、剣は折れることがない。力任せに振り抜けばなんとかなってしまう。
東の魔の森、西の滅びの国、北の
俺が辺境の都市カヌムを選んだのは、暮らしやすい気候と姉のいる国から離れているから。そして、魔物の種類が『斬全剣』でなんとかなりそうだったから。場所によってはレイスとか物理が効かない魔物が出る。
ここの魔物はただ、固く強靭で生命力が強い。
倒したオオトカゲは、普段狩りにゆく場所で見る熊や狼よりファンタジーっぽい生き物。奥にはもっと変わった厄介な生き物もいるらしい。俺は今のところ行く気はないけど、時々国が調査隊を出してるそうだ。
とりあえず老後まで悠々自適に暮らせればいいのだが、俺の望む生活レベルがこの世界の一般と比べて高いもんだから、金がかかるし自分で取ってきて作らなきゃいけないものもある。
目下の目的は羽布団を作ること。人に聞いた
だってこの世界、一般的な冬掛け布団が熊の毛皮だったんだもん。
家の布団は夏掛けだったし。スプリングの効いたベッドに熊の毛皮が鎮座ですよ、顔はついてないけど! 勘弁していただきたい。
羽毛布団は大体
そんなわけで特訓だ。周りにいる精霊の数が変わっても思い通りの威力で魔法が使えるように! ちゃんと当てられるように! ……ノーコン気味なんだよな俺。
そういうわけでせっせと特訓。威力についてはちゃんとイメージして使えば大丈夫、脳裏に浮かぶイメージが主にゲームのエフェクトなのはご愛嬌。
動きながら当てるのはけっこう難しい、当てるのに集中すると今度は威力が上がる。
ちょっと疲れたので休憩を兼ねて昼! 一息ついて座れる場所を探すためにあたりを見回す。
……気がついたらトカゲやら三本角の狐やら『斬全剣』で倒した魔物がですね……。無駄な殺生をしてしまった気分だが、倒さないと俺が食われてるので諦めてもらおう。
後半は何もこなかったし、今も【探索】にかかってこない。あれか、魔物に危険人物として認定されたかんじかこれ?
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