第22話 日本人は湯船が好き
朝はリシュと山の散歩。上の方は雪が溶けず、その上にまた雪が降り積もるようになった。
一冬分の薪は四トンほど。丸太のまま買えばちょっと安いけど、昨日買ったように暖炉にくべられる大きさで乾燥した物を買うとそれなりにする。しかも雪が積もり出すと薪の値段はどんどん値あがってゆく。
分かっていても置いとくとこがないので、一般家庭では一度には買えない。
家は薪の心配はないけど、山の手入れ的な意味でも何本か切ったほうがいいかな。
家に戻って早めの昼食。リシュは精霊だから汚れない、泥だらけになったのをちょっと丸洗いしてみたくもあるけど。体力もけっこうついてきたと思うけど、疲れたのか水を飲んで暖炉のそばに丸まって寝てしまった。
こっちのレッラという
ついでにメインの仕込みも。醤油とみりんと米麹に浸けておいた牛もも肉を塩胡椒、オリーブオイルで表面を焼いて、あとは分厚い鍋で肉の内部まで熱が通るようにしばし保温したもの。
レッラにはアンチョビ、塩、オリーブオイルに、ほんのちょっとのニンニク、ローストした胡桃をふりかける。
仕込んだ肉はローストビーフもどきになっているので、薄切りにしてパンを添えて準備完了。いや、スープ、スープ。スープは適当に暖炉にかけておけば美味しく出来上がるのが素晴らしい。勝手にじっくり煮込まれてる。
今度こそ準備完了。
シャキシャキした歯ごたえでちょっとほろ苦いサラダ。ほんのり醤油な柔らかい肉、ちょっと固めなパン、熱いスープ。山歩きで運動してきた甲斐がある美味しさ。
レッラはなかなか美味しかったんで、ちょっと植えてみようか。いや、その前に精霊が来るなら花か。『精霊の枝』に行ったら、水・花・木! みたいな感じだったし。
アッシュの様子を確認してアズのための水を取り替える。一応、朝昼晩と見てる。アズ以外は微動だにしていないが。さて、バスタブだ。
その前に食器をまた少々購入。だって神々があんまりで……、せめて食器くらい変えたい。買い物した店で、待ち合わせの工房の場所を聞く。
店は街中にあるけど工房は町のはずれにある。なんかボトルのような形の大きなレンガでできたものがたくさん並んでいると思ったら、それが
「やあ、マルコムだ。新しい商品アイディアがあるそうだな?」
「ジーンです。アイディアというか、風呂桶なのですが」
握手して仕様書と言い張る落書きを見せ、作って欲しいものを説明。
「今、ちょうど隣国から浴槽の問い合わせが来ていてね。渡りに船だ」
ここの隣国というと……。ぶっ! どう考えても問い合わせの大元が姉と姉の友人な気がする。
高位の貴族から何件か問い合わせが来てるらしく、いろいろ試作を始めたところらしい。直接ではなく間に人を挟んだことで要望がはっきりしなくなってるけど、希望は猫足浴槽だな、これ。
俺は自分で欲しかっただけなんだけど、なんか貴族向けに販売の流れに。今考えると、商業ギルドでのやりとりも個人で一つ作ってもらうにしては変だったかもしれない。
そして朗報、ホーローができそう、というかホーロー自体はあった。エナメル質のものを陶器に焼き付けたやつで、俺的にホーローのイメージじゃないんだけどホーローだ。
そういうわけで途中から鋳物屋さんも混じって打ち合わせ。開発費は俺が出資、どっちにしろ作って欲しいからいいけど。ちょっとドキドキしたけど、俺用と見本用と二つつくったら、あとは注文を受けて半金をもらって生産するそうでセーフ。
工房のパトロンだったり、秘匿された技術だったりすると違ってくるけど、俺みたいにアイディアを出しただけでも、商業ギルドを通していれば三年の間儲けから一割もらえるのだそうな。全て手作業、納期に半年とかも珍しくないらしいので、三年は長いのか短いのか謎だ。
とりあえず姉のおかげで俺が買う分くらいは取り戻せそう? 【縁切】してあるから、俺の情報は姉には届かないだろうけど、こんなことで関わりができるとは微妙な気分だ。
ここまで大きなものは作ったことがないそうだけど、加工自体は経験があるようなのでちょっと安心。窯はバスタブ一つでだいぶ場所をとるのでかなり割高になる、一回で成功してくれるといいな。
鋳物で型作りからなので日数がかかるのは覚悟しよう。――鋳物屋さんにはあとで見学させてもらおう。
夕食は外食、味は微妙。
明日は熊狩りに行って、ちょっと稼ごう。もらったお金、流石にだいぶ目減りしたし。でも、雪が一面に積もったら狩りはお休みする予定、魔物化した熊はいるけどそろそろ普通の熊は冬ごもりに入るし、俺も家にこもるつもりだ。
明日のお弁当のためにパンを焼く準備。今日の残りのローストビーフもどきと野菜を挟んでお手軽にサンドイッチにする目論見だ。
準備を終えたら風呂に入って、寝る前に牛乳を一気飲み。……もう少し伸びてくれてもいいのよ?
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