第21話 好みは人それぞれ……
ミシュトのおかげで予想外の危機を脱した。見えない危険が一番やっかいだね! 今回のは見えちゃ居た堪れないけど。
それは置いておいて、ミシュトの見立てではアッシュが起きだすのは明後日の夕方くらいだろうとのこと。
「この子に名前は?」
ミシュトが小鳥を見て聞いてくる。
「ルーだったと思います」
確か【鑑定】結果でアッシュ父が使役者として『ルー』と名前を付けているのを見ている。
「もう契約の縛りが切れてるみたい。新しく付けられるよ?」
「そうなんですか?」
「うん。その子も君に名前を付けて欲しがってる」
小鳥は頭から背中にかけて羽根は青で隙なく整いつるんとして、胸の羽根は薄い水色で柔らかくてふくふく。ふくふくのふくちゃん――だめだ俺に名付けのセンスはない。
「『アズ』はどうだろう? 違う名前の方がいい?」
イタリア語でアズーリは青、イタリア代表の空の青なので覚えてる。
嬉しそうに体を寄せてきたのでどうやらアズでいいらしい。耳のあたりをカリカリとかいてやる。鳥の耳の穴は目の斜め下だ、見えるとそのまま穴なのでけっこう怖い。
「アッシュについててくれるか?」
起きるのは明後日っぽいのだが、ずっと一緒だった小鳥がいなくなるのも寂しい気がしたのと、アズが調子がよろしくないようなので連れ回したくない。
アッシュと小鳥の場合、がっつんがっつんされてたのと拘束されてたのとでお互い微妙かも知れんが。
精霊の名付けは夜までかかってようやく終わった。あとは月に一度か二度、増えたらやるという事で。
「ちょっと暗いかな」
日本と違って日が長いけど、さすがに暗い。
「灯りを」
「待て」
ぬあああああああああああああっ!!! 目を抑えて倒れこむ。なんだこれは! 閃光弾かよ! いや、まだ眩しい!? あれかここはあの有名なセリフを……っ
「あらすごい」
どこか嬉しそうなミシュトの声、そういう貴方は光属性。
「待てと言ったのに」
ため息混じりのルゥーディルの声がして、ちょっと暗くなった気配。
「人の身には辛くないのかねぇ?」
なんか目の前がまだ真っ白、目を閉じても白い! 今現在辛いですパル!
「礼を言うよ、ルゥーディル」
イシュの声はこんな時でも慌てた様子もなくいつも通り。
「慌てるでない、【治癒】が効く」
それは今の状態が失明的なあれですか? カダルの声に慌てて【治癒】をかけて回復。
「なんだったんだ?」
音もない爆発というか、なんというか。目が
「小さいけど、光の精霊がたっくさんだよ」
ミシュトがにこにこしている。
「ここにいる全部がこぞって力を貸した結果です」
冷静というか、表情の変わらないイシュ。
「ルゥーディルが闇を混ぜて光を弱めた。加減を覚えないと危ないよ、ちゃんとイメージして精霊に伝えるんだよ」
パルが言うことに納得……って、昨日まではこれでちょうどだったんですよ! なんとなく灯りでちょうどよかったんですよ!
あと精霊って俺の考え読むの? イメージが伝わるってことは、今現在、五人に考えてること筒抜けなの?
なんだかさらに疲れた。腹が減ってるからいけないんだな、夕飯にしよう。
「食べて行きますか?」
一応聞く俺。
「蜂蜜!」
ミシュト。
「ワイン」
ルゥーディル。
「パン」
パル。
「薬茶」
カダル。
「塩」
イシュ。
鉄壁の偏食具合。誘った手前用意はするけれど、食べさせ甲斐がないことこの上ない。人型の力の強い精霊は一応、いろいろ食べられはするらしいけど、味はしないのだそうだ。
精霊が食べるものは属性によって朝露とか夜露とかの水、焚き火や暖炉の火、花々の香り。他に本人の好きな物を何か、だそうだ。パルのパンくらいしか工夫のしようがない。
希望の品をそれぞれに用意して、俺は秋刀魚の塩焼きに大根おろし、きゅうりと人参の糠漬け、ごはんと豚汁。豚汁と人参がかぶってしまったけど、糠漬けはなじんできていい具合。
カップに湛えた蜂蜜をスプーンで嬉しそうに口に運ぶ砂糖菓子のように甘い顔をした少女。
静かにワインを傾ける白い顔の美貌の青年。
ひたすらパンをちぎって口に運ぶにこにことした老婆。
難しい顔で眉間に皺を寄せている老人。――薬茶が苦いからな気がするけど、希望したのは本人だ。
カップに入れられた白い結晶をスプーンで口に運ぶ無表情な少年。
なんともシュールな光景が広がっている。特にイシュの塩が異彩を放ってるね! 出す量にかなり迷ったんだけど、それでよかったの?
抹茶塩とかにしたら嫌がらせだろうか?
秋刀魚は箸を入れるとぷつんと皮が割れ、たちまち脂が流れ出す。豚汁は寒い日にお腹が温まるし、ご飯と漬物だけでも美味しい。この美味さがわからないとは……。まあ俺も朝露と夜露の味の差とか言われてもわからないけど。
明日は茶碗蒸しに挑戦してみよう。蒸し器はないけど、鍋に裏返した
ディノッソ家か大工に混じって鍋を食いたい気分。同じものが食えないのは少々寂しい。
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