第19話 バスタブ
部屋を覗くとアッシュはまだ起きていなかった。枕元にテーブルを寄せて、買い物に行く旨を書いたメモと、起きたら飲めるように水差しを置く。
青い小鳥にも水をやってなでさせてもらう。リシュとはまた違ったふくふく。この小鳥も長年の酷使でお疲れのようで、ひとところにじっとして動いた様子がない。
「でかけてくる。アッシュが起きたらよろしく」
小鳥に挨拶して、買い物へ。
まず薪を買う。何度も来るのが面倒なので、階段の下にみっしり積み上がる分を一度に購入し、配達を頼む。拾うか買うかしていないとおかしなものはとりあえず買っておこうという方向。
食品は外食してますって顔しとけば大丈夫かな? 調味料と小麦粉だけ買っておくか。この町で売ってる茶葉は管理が良くないのか美味しくないので、王都で買ってこよう。あとバスタブも。
そういうわけで王都……から移動して、さらに国を移動し焼き物が有名な町。バスタブはちょっと楕円形な樽でした。水辺に近い王都とかだと石造りの風呂屋も存在するらしいけど、樽とか桶が風呂らしい。あとは貴族だと真鍮製とかあるみたい?
家にあるのは白い猫足のあのバスタブだが、あれはホーローだ。確か鋳物で作ったものにガラス質のコートを掛けるんだったっけ? 俺も作り方は知らない。
なので、なるべくつるんとすべらかな
王都に陶器の花瓶があったので流通と噂話をたどってこの町に来た。
「こんにちは。なるべく大きな陶器を作れる工房を紹介してほしいのですが」
「なるべく大きなですか?」
「はい」
土地勘がないし、ツテもない。商業ギルドの建物を探して聞いてしまうのが早い。
「新規製作でしょうか? アレンジ製作でしょうか?」
「新規になるのかな? アレンジでもいけるかもしれませんが。すみませんわかりません」
どの程度でかいものが既存であるのかよくわからない。でかい植木鉢みたいなのがあればアレンジでもいけるんだろうか? 植木鉢は素焼きっぽいのしか見てないけど。
「鑑札はございますか?」
「はい」
ギルドコインを差し出すと、受付のお姉さんが書類に識別番号を書き込む。
「仕様書はお持ちですか?」
「仕様書というほどではないですが、一応形の希望はこれです」
横から見た形と上から見た形、サイズ、質感の希望を書いた紙を渡す。形の説明って口頭だと難しいから用意してみた。
足を伸ばして寝そべるように入る風呂、背中の部分は寄りかかりやすいよう少し傾斜をつけて反対側には足を乗せたり座ったりする段差。段差のないノーマルタイプの二枚。
猫足は重さを支えられない気がするので金具の支えと足希望。もしくは床に埋め込んで水が回らないようにするか。床とバスタブの間に掃除のできない隙間があるとカビが心配だ。
当然水は漏らずに溜められるように、水抜き穴も忘れずに。穴を塞ぐのはコルクか木栓になるかな?
「製造者の希望はございますか?」
「職人として信頼できる方でしたら」
知ってる人がかけらもいない。
少々待たされて、明日の午後に会えることに。いくつか陶器の見本を使いの人が預かってきたらしく、綺麗なカップを一つ貰った。これだけでちょっと嬉しい。
この町で食器を一式、家用と借家用に購入。この世界、大抵は木の器、金持ちは銀器が多いそうで、陶器や磁器の食器は珍しいのだそうだ。思わず買い込む。
食材も少々買い込んで借家に戻る。これはとりあえずスープ作って暖炉に置いとけばいいかという方向。
せっせと二階、三階の扉に鍵を設置。二階はアッシュの様子を伺いつつ、なるべく静かに。
「俺のたてる音を小さく頼む、『静寂』」
途中で魔法の存在を思い出して使う。
全く聞こえなくなってもなんかゲームを音無しでやってるみたいで変な感じだし、小さくした。
魔法はそばにいる精霊が頑張ってくれてる結果使えるのだそうだ。術者の技量にもよるが、精霊の力も影響するので同じ人が同じ魔法を使っても環境によって強さが違うらしい。
作業をしていたら薪が届いたので魔法を解いて応対、階段下に置いてもらう。俺も運んでたら今度は小麦粉の配達。こっちは受け取って地下の貯蔵庫に。
貯蔵庫も隣が下水なのが気になって、壁を追加してある。広さからいって下水とは少し距離があるのはわかっているのだが気になるものは気になる。気分的な問題で思わず間に炭を詰めてレンガ壁の追加、上から漆喰を塗った。
壁につけた棚に、届いた小麦粉や豆類などを収納。すでに王都で買ってきたワインが何本か置いてある。
こんなものかな? ほっておいても悪くならない保存の効くものをチョイスしてみた。あとはそれらしい箱。
各部屋の扉に鍵の設置も終わり、今度は調剤場所の撤去。一階の中庭に近い奥に設置してたのだが、ここは風呂にしよう。台所と暖炉と両方でお湯を沸かせるし。
こっちで俺が風呂に入ることはない気がするけど。狭いところを改造するのもトレーラーハウスを作ってるみたいで楽しい。
「楽しんでるとこごめんね」
「ん?」
金髪の砂糖菓子のような少女が覗き込んできた。
扉の開く気配はなかった。びっくりして振り返ると、その後ろに
「ミシュト、ルゥーディル、パル? 久しぶり」
だが、なぜここに?
「詳しいことは君の領域で」
そうルゥーディルが表情の動かない声で言うと周囲が俺の家の中に変わった。
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