第17話 運搬人
「本当にすまん、俺が甘やかしたばっかりに!」
土下座せんばかりの勢いで謝っているディーン。
「君は精霊憑きの影響下にあったのだ、惑わされていたにすぎん」
心の広いアッシュ。
俺は残りのウサギを焼いている。野菜はともかく、乾燥ハーブを持ってくれば良かったなこれ。
「ジーンもすまなかった!」
「俺は実害が出る前だし、気にするな」
アッシュの説明では、少なくともギルドでは男性にしかあの花はなかったそうだ。花びら一枚の者もいたそうで、判断がおかしくなるくらい影響が出てるのは長く一緒にいた人なんじゃないかとのこと。
男連中の頭にピンクの造花装備なんかあったら、俺だったら噴き出すか回れ右するけど、よく平気だったなアッシュ。
「俺がぶっ倒れたってことはギルドも混乱すると思うから、ちょっとカイナと相談してからアミルを精霊の枝に連れてゆく」
精霊の枝は精霊が寄り付く場所だが、精霊を落とす場所でもあるらしい。精霊がよっていくのをやめられない特殊なお香を焚いてる部屋があるんだそうな。
精霊の姿は見えずともいることは分かっているので、
なお、ディーンに俺が精霊をどうにかしたのはばれた。勘のいい男は嫌いです。
「まあ、寝るころに連れてけば被害が少ないんじゃないか?」
ぶっ倒れてもベッドの上だし、寝てれば気づかないこともあるだろうし。
「ああ、なるほど。昼間にやる必要はねぇな」
ディーンには精霊が見えることは口外しないと約束をしてもらった。果たして守られるかどうか知らんけど、面倒ごとになったらさっさと町を変えよう。アッシュの方は執事との待ち合わせがこの町なんで合流できるまで移動は難しそうだが。まあ、がんばれ。
「職員は少なくなるけどギルドは夜もやってるからな。シフト教えてもらって男が少ない時にやるよ。金のことはそれが終わってから上に話持ってく」
後半はアッシュに目を向けて言う。ギルドの職員が紹介した宿でぼったくられた金の話だ。
「本当にすまんかった! 俺は今から根回ししに町に帰るけど、話しとくから良ければ運搬人は使ってくれ」
「運搬人?」
聞いたことのない単語だ。
「熊を運ぶ者のことだ」
「熊に限らねぇけど、まあ熊だな」
運搬人は冒険者が狩った獲物を運ぶ人たちのことで、回収場所にもよるけど駆け出しの冒険者がよく受ける仕事らしい。ギルドに通っていたら自然に知っている事柄だ。
時間と場所を指定して取りに来てもらうのだが、ディーンは今日の分を妹を通して依頼済み。狩れなかったら払い損になるのである程度自信がないと依頼できないんでさすが銀ってところか?
ものは試し、ありがたく利用させてもらうことにする。
「あ、ジーン。休んでる時も警戒はしとけよ。じゃあな」
一言残して町に帰っていったディーン。
はい、頑張ります……。自信ないけど、アッシュが来たの全然気づかなかったしな。気配ってどう探るんだよ! 常時【探索】かけられるようにしたほうが早い気がする。
運搬人の件もあってなんとなくアッシュと一緒に熊を狩る流れ。出てきたのは魔物狼の群だけど。
アッシュの戦い方は冷静で最小限の動きで急所に一撃、次々に狼をさばいてゆく。お手本みたいな綺麗な剣の使い方だが力強い。
とりあえず真似をする俺。【武芸の才能】と身体能力のおかげで、
ただ、ディーンに警戒しろと言われたように、戦闘の経験どころか周囲に敵がいる環境にも慣れていないので、行動の違う敵が出たらたぶんこの真似た動きは維持できない。
一人で来た時は【探索】をかけて、出会い頭にスピード勝負! みたいな感じだったし。きっと傍から見たら剣で斬ってるというよりも棍棒で殴っているというか、モグラたたきみたいに見える自信がある。
「ふむ、速いし無駄が少ない」
ありがとうございます、それ貴方です。
「熊より一匹あたりの値は落ちるが十分だな。これ以上は運べまい」
狼の魔物、九匹全部を倒し終えたところでアッシュが剣を納める。
「まあそうだな」
ツノなしの狼の体長は俺よりありそうだし、ツノありの狼はそれより一回り大きく確実に二メートルを超える。
ツノは先に回収。
「魔石は?」
「狼は毛皮に傷があると極端に安くなる、扱いに慣れたものに任せたほうがいい」
「なるほど」
できるだけ血抜きをして袋に詰める。
「縦詰か」
そう呟いてアッシュが真似し始めた。だってツノありを全部詰めるの無理だろう。
こうして袋から頭がはみ出た狼と、入りきらなかった狼を肩に担いでアッシュと待ち合わせ地点に移動した。アッシュは袋分だけ、代わりにもし途中で魔物が出たら倒してもらう。
なんか運搬人の兄ちゃん二人が唖然としてたけど。アッシュの
「ひいい」
「無理! 乗りません!」
「きしむ、きしむ! 借り物なんです!」
運搬人の兄ちゃん二人に荷車が壊れるって泣かれて、結局俺とアッシュが二匹ずつ運ぶことになった。まあ、でかい荷車は森付近まで持ってくるのも大変だろうから小型だし仕方ない、のか?
販売は届け先を変更してもらって商業ギルドで。俺が売って、あとでアッシュと折半する予定だ。アッシュは冒険者ギルドでツノを売って、ぼったくり宿から荷物を引き上げて合流予定。
こっちの査定のほうがシビアなので時間がかかる。狼の魔物は毛皮が金になるのだが、アッシュの言ったとおり傷が余計なところについていると買い叩かれる。
冒険者ギルドにはピンク頭の問題が解決したら顔を出そうと思う。やっぱり、商業ギルドだと不便なところもあるし。
「さて、どこで試す?」
「ディーン殿より長く意識を失うかもしれん。宿ではどうだろう?」
「それ、数日倒れてたらどうなるんだ? ディーンは余波であれだ、直接ついてると影響大きいんじゃないのか? この町に知り合いは?」
一応人が周囲にいるので精霊という言葉を出さず会話する。
「いない」
「執事さん待つか?」
「いつ戻るかわからんのだ」
執事がそばにいればぼったくりなんかにあわなかったものを。なんで目を離しちゃったかな? 実は執事も天然だったらどうしよう。
「嫌じゃなければうちに来るか?」
精霊にどの程度のことができるか試してみたい気持ちがある。
そういうことになって、こっちに借りた家に初めての客を招くことになった。家に女性を誘ったと言えなくもないのかこれ?
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