第16話 視界に入らない精霊

「アミルはがんばっているし、悪意はないんだ、悪いのは宿だろう」


 ディーンがピンク頭をかばう見当違いな言い訳をしている。だいぶ聞き苦しい。


「他はまともなのに、なんで妹のことだけ筋が通らなくなるんだ?」

溺愛して収拾に向けて手助けするにしても謝るところは謝るし、叱りそうなもんだが。


「そうなのか?」

「妹関係だけ気持ち悪いな」


 言ってることが、妹は可愛いから許されるべき、悪気はないから迷惑かけても受け入れるべき、頑張ってるから回りが助けてやるべき、だ。


「うっ」

ディーンがうめいたから何かと思ったら、レオ――アッシュが口元に手を当てて考え込んでた。うん、三割増し怖い顔になってる。


「信じられんかもしれないが、アミル殿のそばには精霊がいる」

「うん?」

「そしてディーン殿の顔の横にその精霊の影響を受けている印が浮いている」

困ったような声でアッシュが告げてくる。


「何も見えねぇぞ? 強い精霊ならともかく見えるなんておかしいだろ」

そういうディーンの頭にやたらチープに見えるピンクの咲きかけの花が刺さってる。


 いや、よく見たら刺さってるんじゃなくて浮いてたけど。ごつい大男にピンクの造花って誰得なんだ。生花でも困るが。


 素材というか質感が、よく商店街で街灯ごとに飾られる紅葉や桜の造花っぽく見える。


 その頭で真顔でなんか言うのは笑うからやめろ。ディーンの頭に手を伸ばし、花をぶっちっとむしって握りつぶす俺。


「!?」

「あ、すまん」

膝から崩れ落ちるように倒れたディーンを見下ろして謝る。聞こえてないようだが。


「話を聞くに、精神支配の一種だろう。突然影響が切れて気を失っただけだ。――ところで見える上に触れられるのかね?」

「ああ、しようと思えば?」


 精霊が見えないとリシュが見えないし。ただ、見えすぎると今度はこまかい精霊だらけで日常生活に影響がでる。どのレベルの精霊まで見るか、調整すればいいんだろうけど面倒くさいので普段はリシュだけ見るようにしている。


 なお、神々と呼ばれるレベルの、強い精霊はあっちが姿を見せようとすれば見る方になんの能力もなくても見える。


「父以外で初めて会った」

「見える血筋なのか?」

とりあえず、地面に転がるディーンの手足を伸ばしてちょっと楽な姿勢にしてやる俺とアッシュ。


 鼻をつまんで呼吸の確認、げふっとしたので大丈夫だろう。


「ああ。だが今は一族でも見える者は私と父だけだ。そして触れることはできない。用心を、その能力は欲しがられる・・・・・・

「気を付ける。とりあえずこれの口封じからかな?」


 このまま転がしといたら熊がうまいことしてくれそうだが、そう言うわけにもいかないだろう。いや、俺は口を開いてないしあの行動ならバレてないかな――ん?


「アッシュが見えることがバレるのは良かったのか?」

「君には助けられた、この男は君の友人なのだろう?」

「いや、まともに会うの今回で二回目」


 アッシュが固まった!


「このまま転がしておけば熊に……」


 不穏なつぶやきが漏れた! 考え込む顔が怖い! あと思考回路が俺と一緒!


「私の判断ミスだ。甘んじて今後の状況を受け入れよう」

すぐに思い直すところも一緒。なんか本当に貧乏クジ引きそうな人だな、俺が言うのもなんだけど。


「そういえばジーン殿は私についている精霊も見えるか?」

「どれ。うわ」


 青い小鳥がアッシュの頭をキツツキみたいにがっつんがっつん突いている。


「痛くないのかそれ」

「絶えず鈍痛がする」

連続する鋭い突きなのに鈍痛なのか。


「いつからついてるんだ?」

「私が七つの時からだな。父につけられた」

長年すぎて鈍痛になってるの? 


「何故また?」

青い小鳥には光の帯が首輪みたいについている。


 鑑定は「アーデルハイド・ル・ラタンティンにアーデルハイド・ル・レオラを男らしくするため捕らえられた精霊」というアホみたいな結果なんだが。

 

「私を立派な跡取りにするためにだ」

「弟いなかったっけ?」

「うむ、父が酔って起きたら隣に女がいたそうで、後日届けられた」


 宅急便か!


「幸い私の国は男女関わらず長子相続だ。ただ我が家は代々武で仕える家系でな、鍛えた時に男女の差が出ないよう、父がつけてくれたのだ」

「いや、あのね? 腕力とか体力つけるならともかく、男らしくってのはおかしくないか?」

いい話っぽく語ってるけどおかしいからね? しかもがっつんがっつんつつかれてるからね? 


「男らしく?」


 内容具体的に知らないのかこの人!


「……家のことに口出すようで悪いが、その精霊は解放してやった方がいい」

けっこう小鳥もヤケクソみたいに見えるし。


「うむ。本来は二年前に解放するはずだったのだが、術者の父が倒れた。――その、ジーン殿はこの精霊を解放することができるだろうか?」

「多分? やってみるか?」


 あの首輪をどうにかできればなんとかなると思う。


「ぜひ」

「町に戻ってからな」

視線を転がっているディーンに向ける俺。


「ああ……」

俺の視線を追って、納得したように声を漏らすアッシュ。


「解放が上手くいってもいかなくても礼がしたいのだが」

「いや、あんた宿代ぼったくられて金ないんだろう? むしろ宿の引越しどうするんだ?」

どこで野垂れ死ぬかわからない冒険者相手の宿は基本前払いだ。


 ぼったくりの件で宿とギルドに苦情を申し立てたとして、返金されるかどうかわからない。戻ってきても時間がかかるかもしれんし。あるのか、金?


「熊を狩る」

「そういえばそのために来てるんだったな」


 忘れてた。


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