第14話 再会

家の改造に夢中になってたら魔の森でも積もるほどではないけど雪が降った。薬草は草のわりに常緑なので、他の緑が少なくなる秋以降の方が見つけやすい。


 だが、肉食獣系の魔物が奥から浅い森に出てくる時期でもある。


 まあ行くんだが。


「あのっ!」

正門より脇門のほうが森に行くには便利なんだが、ピンク頭に呼び止められた。


「何か?」

「寒くなると森は危ないです!」

上目遣いに見上げてくるピンク頭。


「ありがとう、承知の上です」

「無理しないでください! お金よりも命が大切です」

ローブを掴もうとしてきた手を避ける俺。我ながら氷点下の声と顔で答えてると思うのだが。


「無理はしていませんのでお構いなく」

「でも……っ」


 何でへこたれないんだろう? まだ何か言いたそうなのをスルーして門をくぐる。鑑札がまた増えたが森に行くには正門より便利だ。


 森に面した一番近い裏門は、いざという時に編成された隊が出るための門で、普段は固く閉じられている。ギルドランクが金なら、一人でも開けてもらえるみたいだけど。


 正門と他の門二つから出入りできるようになったので、門番に記憶されても問題なくなった。行きは門を通らず直接転移でもいいかと思ってたんだけど、まあ地道に行こう。ピンク頭もそのうち飽きるだろう。


 しばらく歩くとなんだか見たことのある男。なるほど、時間的にピンク頭の出勤に合わせて兄のほうも出てきたのか。今回に限っては待ち伏せしてたわけじゃないらしい。仲良い兄妹だな。


 森に入ったら、木陰で湧き水の場所まで【転移】するつもりだったのだが、今日はおとなしく歩くか。


「失礼」

俺の方が歩くのが早かったので、声をかけて追い越す。


「あ、あんたあん時の」

ピンク兄に気づかれた。まあ、覚えやすい顔をしているからしょうがない。俺の方も一回しか会っていないけど、顔はともかくデカイからピンク兄覚えてたし。


「悪かった! そんで俺が頼むのもあれだけど、冒険者ギルドにも顔出してくんねぇかな、カイナが上に責められてんだよ」

「何故カイナさんが?」

勢いよく頭を下げられたが、話の内容に疑問が一つ。


「優秀な冒険者を商業ギルドにとられたって」

「原因はあんたとあんたの妹だろうに」

「俺が悪いのは分かってる」

ギルドと話をつけないまま、俺の依頼をギルド内で受けようとした兄が原因なのは分かっているのだが、その後の行動と微妙に話がずれる気持ち悪さはピンク頭が上だ。


「条件がある」

「なんだ?」

緊張した顔でこっちをみる兄――ディーンだったな。


「俺にあんたの妹を近づけるな。具体的に言うと、街で見かけても付いて来たり、先回りして視界に入って来たり、話しかけてこないようにして欲しい」

今回待ち伏せを疑ったのも日頃の行いからだ。


 話しかけられたのは初めてだが、回り込んでハンカチを落としてみたり、躓いてみたり、露店で小銭が足りないと騒いでみたり。


 どれも俺の方を確認して目があってから始める小芝居だったので、全部スルーしたが。実際通り過ぎたら普通に払ってたし拾ってた。


「分かった。でもいいのか? うちの妹可愛いぞ?」

すごい意外そうに言われたのが意外だ、妹フィルター凄いな。


「俺の感覚で言うと行動が気持ち悪いし、顔もタイプじゃない」

「……」

はっきり言ったら黙った。


「アミルがタイプじゃないって、じゃあどんなのがタイプなんだよ……」


姉と正反対がいいかな。化粧お化けの姉だったので、派手な美人から可愛い系まで化けてたが。化粧っ気がなくてあんまり女性を――女や女の子両方――主張してこない人がいい。


一瞬、レオンが浮かんだが、あれは主張がなさすぎて男性に見える。前言撤回、やっぱりちょっとは女の子っぽい主張が欲しい。


「俺からの詫びに珍しい植物が生える場所を一か所、よければ教えたいんだけど。森は何か予定があっていくのか?」

いまいち腑に落ちない顔でディーンが聞いてくる。


「いや、積もるようになる前に薬草をとっておこうかと思っただけだ」

珍しい植物というのは薬系だろうか、食う系だろうか。


「おう、じゃあ今からいかないか?」

人懐こい笑顔を浮かべるディーン。


「ああ、頼む」

妹ラブじゃなければ普通なんだが。


 そういうことになって、連れだって森へ向かう。途中、ツノウサギも出たがサクッとディーンが倒した。俺はディーンの戦い方の見学。


 踏み込み、振り下ろし、振り抜く。目配り、足運び。豪快だが油断はない、経験からくる知識からかウサギの動きを先読みして、自身の動きに無駄がない。


「おい、あんま見んなよ。こっぱずかしい」

ウサギを狩りながら言うディーン。


「気にするな」

「視姦されてる気分!」

言葉とともに一匹のウサギの頭を潰す。


「ちょっと戦い方を観察してるだけだ」

「それがこっぱずかしいっての! あんた熊を連続で狩ってくるほど強いんだろ?」

「俺のは腕力だよりなだけだ」


「腕力?」

剣をしまいながら胡乱うろんな目で俺の頭からつま先までを眺め、また顔に視線を戻すディーン。


「……」

どうせディーンほど胸板ないですよ! 身長も高くないですよ! おのれっ! くそう、絶対大きくなってやる!  誰か牛乳、牛乳をこれへ!


だいたいディーンがファンタジー世界の住人でデカイ上にむきむきすぎるんだ!



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