第13話 目くらまし用の家

 国に森があるというより、森の中にある国に転移して大工の手伝いをやってきた。無給でいいという俺に初めは胡散臭そうにしていた大工たちが、途中から直接教えてくれることはないものの、俺の前で大事な作業をゆっくりやってくれたり、昼の大鍋に呼んでくれたりと仲良くなれたと思う。


 酒を勧められて正月の屠蘇以外で初めて飲んだ。初めて飲むと言ったら笑われた。贅沢品なのかと思ったら、酒も保存食扱いのカロリー源でよく飲まれてるみたい。高いのは蒸留酒とかで、ワインはピンキリ。


 ここでは木材をせっせと買い集め、【収納】に溜め込む。色々なことを手伝いつつ、あちこちフラフラ見て回っている。


 コルクもゲット、上の方と下の方の幹の色が違う木々が並んでいてびくりしてたら、赤茶色の下の部分は木の皮を剥いだ後だった。


 木の皮が瓶の蓋とかに使うコルクになる、その名もコルク樫。面白いので苗を何本か購入。


顔を出すとよく来たと言われ、決して裕福ではないのにもてなそうとしてくれる。それでいて踏み込んでこない。俺には大変心地いい。


空はぐずつくことが多くなり、雨が降るたび気温が下がる。リシュと秋の山を歩いてキノコを採る、糸杉の倒木に生えているヤマドリタケは固く締まったキノコ、とてもおいしい。


 リシュは目も開いて、毛並みも良くなりころころした子犬になった。駆けては自分の速さに足がついてゆかずすぐに転がって、そうすると俺のそばにもどってくる。そしてまた走っていっての繰り返し。


 まだ眠っている時間のほうが多いのだが確実に回復してきてる。いいことだ。


 キノコは他にも島でみた真っ赤な傘のキノコも生えていた。絶対毒キノコだと思いつつ【鑑定】したら大変美味! という結果。なんとも言えない気分になった。


農家の冬支度を手伝い、豚を解体して塩漬肉やハム、ベーコンをつくったり、チーズをつくったり、野菜や果物を瓶詰めにした。


俺も準備万端。冬越しの食糧じゃなく、家を建てるほうだが。


 試しに納屋の二階にある味も素っ気もない使用人部屋を俺好みに改装し、自信をつけたところで台所の東北にそこから出っ張るように小屋を作ることに決めた。


薬をつくるのには水道が遠いと不便だし、雨の日も濡れずに行きたかったので場所の選択肢がここしかなかった。


 石を敷き詰めたその場所に、鍛治小屋の広いスペースでせっせと加工したものを柱を組んでゆく。大工の手伝いも役に立ったけど、日本で見た某テレビ番組もすごく役に立った。


 外観は揃えて葡萄棚の二方を囲むような感じになる。六畳ほどの広さの中に引き戸で分けられた陽の射さない部屋と、明るい作業部屋を作った。陽の射さない部屋は薬やその素材の保管部屋だ。【収納】あるけど雰囲気は大事だろう。


 作業部屋の窓は鎧戸を閉めて暗くすることもできる。鎧戸は板が動かせるルーバーにしてみた。閉めても風通しは確保して、匂いがこもらないようにしないと。


 さて、作業場もできたし薬草を仕入れてこよう。


 カヌムに家を借りるか迷っている。あっちにいるというアリバイ作りのために毎回宿を取るのが面倒だし。


 基本、新参者は城塞都市の中に家は買えず、賃貸になる。住んで五年だか十年だか問題を起こさず、何か功績をあげればようやく買えるんだったかな? 功績の中には町への寄付も含まれる、確かそんな説明だった。


 カヌムに住めば、正門以外も使えるようになるし、出入り口が一箇所じゃなくなるのは嬉しい。


 門番とも顔をあわせるけど、熊とポーションを商業ギルドに卸したせいで、ちょっと目立ってしまったらしく、冒険者ギルドのピンク頭に絡んでこないまでもなんか観察されてるっぽくって気持ちが悪いのだ。


今のところ、町で見かけたら視線を送ってきたりしばらくついてきたりとかで話しかけられてはいないのだが。


俺は宿に泊まってるはずなので、見られていると良さげな皿とか苗木とか、生産するための道具を購入したりがし辛い。


商業ギルドに相談して、家の売買や賃貸の仲買さんを紹介してもらう。俺の条件は住人同士の面倒がないこと、人が勝手に入ってこないとこと。


 最後の条件をちょっと不思議がられたが、ピンク頭のことを例に出して納得してもらった。顔が良いと大変ですな、だって。


 で、紹介されたのが路地の奥にある建てられたばかりの一軒家。間口は四メートルあるかないか、他の家よりさらに狭い。一階に扉が二つ、人間用と搬入用の大き目のものが並んでいる。正面一階はほぼ扉。


大き目の扉を開けるとすぐに作業場、次に井戸のある中庭を挟んで炉のある台所。人間用の扉は入ってすぐに作業場の端にある階段が目の前、二階は居間と寝室。三階も同じく。地下に貯蔵庫。


こちらでは普通、古いほど家は良いとされる。何故なら住んでいる間に住み心地が良いように住人が改修するからだ。今は棚もなく床にも壁にも隙間があるという日本では考えられない状態。


家じゃなく、部屋の賃貸でいいかと思ってたんだが、部屋の賃貸ってほぼ大家が同じ家に住んでるので、世話焼きに当たると朝起こしに来たりするそうで大却下。


ポーションを作る場所って事にもなってるのでまあ良いかな、と。好きなように改造していいらしいし、料金については月々ポーション二本分くらいだし。


 西の正門と東の裏門には市壁と店舗がくっついてて上が衛兵が歩く回廊になってるのだが、南と北の通用門付近は門塔はあるが分厚いがただの石壁。


その市壁が崩れそうだったので補修。街中から壁に沿った通りに出る道を一本潰し、市壁の支えとして建てられた家だ。なので道の幅しかなく、壁に沿った通りを残すため、一階は狭く二階と三階部分が市壁にくっついているつくり。奥に細長い鰻の寝床だ。


左右の壁は他の家と違い共有しておらず、石壁分さらに中は狭い。市壁が痛んだのも数年前に魔物に襲撃をうけ、その時は耐えたものの風雨によって〜という理由なので微妙らしい。まだ襲撃の記憶が新しい場所なのだ。


これ以上安いところは、今度は治安があまりよろしくなく酔っ払いが侵入とか泥棒が侵入とか。


人が入って来なければ住環境はどうでもいいのでここで即決。


ダメ元でサイズを聞いたらざっくりした間取りをくれたので、ざっくりしすぎて大幅にズレがないか確認して、ぱっと見おかしくない程度に改造しよう。


床と壁をなんとかしたら扉を付け替えて作業場らしく棚をつけるくらいかな。住処を作るのはとても楽しい。



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