第63話 わたしが言いたかっただけ

「何それ? わたしとタクミ君がデートしたからって何か問題あるのかなぁ? 羽深さんって、別にタクミ君と付き合ってないよねぇ?」


「うぐぅっ」


 確かに。曜ちゃんの言う通り、羽深さんと僕は付き合ってるわけじゃない。僕が羽深さんと羅門のデートをとやかく言うのと同様、羽深さんから言われる筋合いも本来ないと言えるのだろう。

 僕は羽深さんと羅門のデートについてはとやかく言いたくて仕方がないんだけど、かなでちゃんから資格がないと指摘されてしまったからなぁ。


「それに羽深さんがそこの彼とデートしてるのに、タクミ君のことをどうこう言う権利なんてないんじゃないのかなぁ」


 うわ、出た正論。全くその通りなんだけど、それに関しちゃ僕は全く他人のこと言えたもんじゃないしな。それになぜか羽深さんには正論なんていつも通用しないんだよな。まぁ、僕のキャラの問題かもしれないけど。とほほ。


「うぐぐぅっ」


 あの羽深さんが反論できないとは、曜ちゃんすげぇなぁ。普段はほんわか優しい感じなのに、羽深さんを前にするとなぜか強いよね。正直ビビる。


「どうしても文句言いたいんだったらちゃんとそれにふさわしい資格を身につけてから言ったらどうかなぁ? ま、わたしも負ける気はないけどっ」


 え、資格って……かなでちゃんが言ってた資格とおんなじ意味かなぁ……いやいや、まさかね。さすがに羽深さんが僕の彼女になりたいはずがない。

 って、あれ? そう言えばそもそも、羽深さんって何で僕と曜ちゃんとのデートのことでこんなに絡んでくるんだっけ? 羽深さんと曜ちゃんの美女同士のプライドのぶつかり合いとばかり思ってたけど……さすがに僕とのデートとは関係ないよなぁ……。

 っ!? まさか、僕みたいな冴えない男とデートするなんてライバルとして許せんとかそう言う……?

 いやいや、それはないよな。だってそれなら羽深さんだって僕とデートしたし。


「ふんっだ。言われるまでもないわっ。わたしだって負ける気なんて微塵もないんだからっ。覚えてなさいよっ! フンッ」


 とまぁ、まるで悪役がフラグを立てるような捨て台詞を吐いて、羽深さんが店を出ていく。言うまでもなくお店の人ドン引き。

 負ける気ないって、やっぱり美女同士のプライドの勝負ってことなのか?


「ちょっ、羽深ちゃんっ! 今のって、まさか、そういう意味なの!?」


「林君には関係ないっ」


 とか言われながら、羅門が慌てて羽深さんの後を追って出ていく。

 そういう意味って? どういう意味だか僕にはさっぱり分からんのだが、みんなには分かるの?


 ていうかなんか修羅場っぽい感じになってたから、店にいづらい。


「曜ちゃん、僕らも出ようか、ね?」


「うん、そうだね……」


「ね、そうしようそうしよう」


 お店の人に会釈しながら退店する。

 もうこの店には入れんな。まあ幸いここはレディースしか扱ってないから問題ないが。


「ふぅ〜ぅ」


 店を出た途端、曜ちゃんが大きく息を吐いてしゃがみ込んだ。


「緊張したぁ〜」


 え、緊張してたの? 全然そうは見えなかった。て言うかあの時あの場の緊張感はかなりヤバかったけども、それはむしろ周囲の緊張感だったし。


「だ、大丈夫、曜ちゃん?」


「はは……膝がガクガクしてる」


 マジか。まるで羽深さんに喧嘩売ってるみたいだったけど、相当力入ってたのかな。

 何だってそんなにムキになるんだろうか……曜ちゃんも羽深さんもさぁ。


「タクミ君のせいだからね」


「へ?」


 僕のせいって言った? 何々、どういうことだ? 何で僕のせい? ってか何が僕のせい?


「もーぉっ。そういうとこだよっ。そういうとこ!」


「ん?」


 どういうとこ? 曜ちゃんと羽深さんのバトルじゃなかったの? 僕なの? 話の流れがまったく見えない。マジで分かんないだけど、どうしたらいいんだ!?


「はぁ〜っ。スーパー鈍感男っ」


「えっ、いきなりっ!? 何々、ごめん。僕が何か悪いことしちゃったんだよね? 僕……何をやらかしちゃったのかな……?」


「教えないっ」


 うぅ……完全にヘソを曲げられてしまったようだ。僕が知らず知らずのうちに何かとんでもないことをやらかしてしまったらしい。しかし経験値がとんでもなく低いDTである僕にはまったく原因に見当をつけることができない。情けないこと極まりない。


 その後はどこへ向かうでもなくぶらぶらと歩いた。

 お互い無言だった。


「曜ちゃん……膝、大丈夫……?」


「……」


 む、無視? まさかの無視なのか?


「ご、ごめん……余計なことだったね……」


 生き地獄だ……デートとか言って浮かれていられるような雰囲気じゃまったくない。


「はぁ〜。ごめんね。空気悪くしちゃって。タクミ君についつい八つ当たりしちゃったかな……膝は大丈夫だよ。気遣ってくれて、ありがとね。タクミ君」


 居心地悪そうにモジモジしながら曜ちゃんが話す。

 八つ当たりと言ってくれたけど、きっと僕のせいってのは本音だったのだろう。折れてくれたんだ。曜ちゃんは優しい子だから。

 それなのに僕ときたら未だ原因に思い当たらずだ。くっ……情けない。決定的に経験値が足りてない。

 まだまだ誰かと付き合うなんて、僕には足りてないんだきっと。


「何だかこれからセッションて雰囲気じゃなくなっちゃったね……」


「うん、まぁ……そうかな……」


 確かにとてもそんな雰囲気じゃなくなっちゃった。多分今日はもうこれ以上一緒にいるのもお互い気まずいだろう。


「駅まで歩こっか、タクミ君」


「今日のところはその方がよさそうかな」


 そうして駅まで歩く。やはり会話はない。

 曜ちゃんも今日はエキサイトしていたし、僕は僕でなんかやらかしたっぽいし、気まずい。


 駅に着いてお互い別路線になるため別れる。その別れ際、曜ちゃんが僕と向き合って言った。


「タクミ君。わたしタクミ君のことが好き」


「っ!?」


 いきなりこのタイミングで告白された!?


「え……と。あの……」


「待って。返事はいいの。わたしが言いたかっただけ。てか今は返事しないで」


「あ、うん……分かった……」


「じゃあね。バイバイ」


 そう言って曜ちゃんはスタスタ改札を通って消えていった。

 そうかと思っちゃいたが、まさかこのタイミングかぁ……。なんか僕は微妙なテンションになっていたので、盛大に浮かれる気分にはなれなかった。

 電車に乗って家に着くまでのこともよく覚えていない。

 返事するなって言われたけど、んじゃどうすればいいの?

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