第62話 え、デートじゃないの!?

 期せずして羽深さんと羅門のデートを目撃してしまった。

 プラネタリウムという暗闇の中、手の早い羅門と密着……。考えたくないけど自分自身が今の今まで曜ちゃんと過ごした状況故に想像力を働かせるまでもない。僕と違って絶対プロのDTではありえない羅門のことだ。羽深さんにちょっかいかけてやしないか気が気でない。まかり間違って羽深さんがその気にでもなろうもんならどうする!? 正直なところ、それからはもう悠長に曜ちゃんとデートしていられるようなメンタルではいられなかった。

 曜ちゃんとデートしながらなんて最低なんだろう。しかしこの時僕はそんな当たり前のことをさえ考える余裕を失っていた。そして、曜ちゃんに好意を向けられて調子に乗っていたが、改めて自分が本当に好きな人を失いそうになっている事実が実感として焦燥感を煽るのだった。


「よおーし。じゃ、ウィンドウショッピングに繰り出そっか!」


 僕のメンタルに反比例するかのようにテンションが上っている曜ちゃんの足取りは軽い。そのうちスキップでも始めそうなくらい上機嫌に見える。

 くそぉ……よりによって曜ちゃんとのデート中に羽深さんのデートを目撃してしまうとは……。なんつうか間が悪い。こっちのメンタルがダウンしちゃって、無関係な曜ちゃんに嫌な思いをさせてしまいかねない。

 ていうかそもそも僕は別に好きな人がいるのに、曜ちゃんとデートなんかしていていいのか? いやまぁ、羽深さんと付き合ってるわけじゃないし、別にデートイコール付き合ってるってわけでもないからな。

 あれ、ということは羽深さんがデートしたからってそいつと付き合ってると決まったわけでもないか。うーん……でもなんか微妙な気分だなぁ。羽深さんが羅門のことを本当に好きなんだとしたら……うーん……なんか泣きそう。


「そうだね。何見に行こうか?」


 曜ちゃんに覚られないようになるべく平常心を装って話す。辛いけど今日一日を無事に乗り切らなくては。


「じゃあ、お洋服見に行っていいかな?」


「あぁ、もちろん」


「好きなお店があるんだ」


「へぇ。じゃ、行ってみようか。時期的にそろそろ秋物のプレセールが始まる頃だね」


 曜ちゃんも結構おしゃれ好きらしいもんな。


「お、さすがタクミ君。詳しいね」


 連れてこられたのはDioskuroiディオスクーロイという若者に人気のセレクトショップだった。海外ブランドなんかも扱っていて、若者向けとは言えちょっとお高めの商品を扱っていて、近隣だと桜桃学園あたりの坊っちゃん嬢ちゃん学校の生徒なんかが主な客層じゃないかと思う。でもさすが扱っている品は確かなものだ。


「中に入ってみてもいいかな」


「うん、いいよ。ゆっくり見てみようよ」


 デパートに入っているテナントはメンズも扱っているが、今日来た路面店ではレディースしか扱いがないようだ。

 店に入ってみると、なんとそこに羅門の姿が……。


「よぉ、色男。その子が噂の青柳高校の?」


 ニヤケ顔でそう言う羅門がうざい。ていうかなんでこう嫌なバッティングが起こるのだろうか。羅門がいるってことは当然羽深さんもいるのだろう。今のところ見当たらないが。


「見て見て林君、これどうか……な……あ……」


 タイミング悪くフィッティングルームのカーテンを開けて顔を出した羽深さん。仲良くデートをしているところをクラスメイトに目撃されて気まずそうだ。こっちも気まずいがな。


「羅門、デートOKしてもらったのか……よかったな」


 と苦し紛れに、まるで心にもない言葉が口をついて出てしまう。


「ふふぅん。OKもらったぜぇ。誘ってみるもんだよなぁ。一方的にアタックしてたけど、どうやら羽深さんもまんざらじゃなかったってことかな」


 なんてムカつくことを言う。僕だって羽深さんとデートしたことあるんだからな。調子に乗ってんなよ、チクショウ。

 羽深さんは黙ったまま俯いている。まぁ、僕がこのデートにかなり反対していたから気まずいのだろうね。その僕と鉢合わせしてしまったものだから。僕だってできれば見たくもなかったし知りたくもなかったさ。


「あら、もしかして羽深さん? 久しぶりだね。デート中にばったり会うなんてぐーぜーん」


 あらら。曜ちゃん、羽深さんに会った途端にまた声色が変わってる。なんだか挑発的な雰囲気なんですけど!?


「べ、べ、別に……デートじゃないし! 買い物してるだけだし!」


「え、デートじゃないの!?」


 羽深さんのデートじゃない発言に驚く羅門。

 ははぁ、これはあれだな。僕が慌ててデートじゃなくて買い物って羽深さんに言い訳したのと同じパターンじゃないの、もしかして? って、羽深さんが別段言い訳する必要もないんだけどさ。きっと恥ずかしがってるのか、もしくはデートに反対していた僕の手前否定しているのか。


「あら、変ね。プラネタリウムでも二人で仲良くしてるところ見かけたんだけど?」


 うわー、曜ちゃん容赦ねぇ。そこは触れてやるなよ。買い物ってことにしといて欲しいんだよ。って、なんで羽深さん側の立場になってんの、僕。まあ僕も買い物って言い訳したから、そこ突っ込まれたくないからな。


「はぁ? 別にあなたには関係ないでしょ? ていうか拓実君さぁ。デートじゃなくて買い物って言ってなかった? プラネタリウムってどういうことぉ?」


 えっ? この状況でそこ突っ込まれるのか? いやいや、そこはだって羽深さんも突っ込まれたくないところでしょうが。


「あ、いや、ほら。今買い物でここに来てるし。プラネタリウムはその前に時間があったから、ほら。そのぉ、何て言うの? 時間潰しって言ったら変だけど……」


「はぁ? タクミ君、時間潰しってどういうことかなぁ? え、何、暇潰しでわたしとデートしてるの?」


「え? いやいやいや。そんなことないって、曜ちゃん。そんなわけないでしょ」


「デート言うてるやないのっ! え、やっぱデートしてるやんっ!?」


「いや、羽深さん、なんで変な関西弁になってんの? ちょっと落ち着こうか。とにかくまぁ落ち着いて」


 ぬぁーーーーーっ。何これ。修羅場!? なんでこんな感じになってんの、これ? 羽深さんは羅門とデート。僕は曜ちゃんとデート。今のところ、多分この四人はお互いどの組合せとも付き合ってないよね? いわばお試しデートだ。それなのになんで修羅場っぽい感じになってんの!? おかしい。おかしいおかしい。いとおかしの方じゃ全然なくて、普通におかしいっ!

 そんな中、羅門の野郎は平然と表情も変えずにこの様子の傍観者となっている。


 誰か助けてくれ! この事態の収集をどう付ければいいの?

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