第27話 頑張ってみる【挿話 数日前の羽深さん】

「アッヒャーーッ、ヒィーッ、ヒィッ。わ、分かったっ、分かったって! プゥッ、クックック。だけどオーラを感じるとか言って、結局言ってる内容聞いたら変な人ってことじゃん。ブレないねぇ〜、ららったら。はぁ〜、でも変わってなくて安心したわぁ。あー、ウケるぅ」


 わたしが電気鰻の格好良さについて熱弁したら、ミカがお腹を抱えて笑い転げている。なんて失礼なっ。


「むぅっ、成長してないみたいに言わないでよっ、イジワルッ」


「あ、ごめんごめん。そんなことないよ。ただ、ブレないなぁと思ってさ。それについに好きな男の子ができたなんて成長してるじゃん。ここに電気鰻卒業証書を授与します」


「なんかバカにされてる気がする」


「してないってぇ。それで? 今どんな感じなのよ」


「うぅ……あのね、前に話したけど、今の学校でのわたしの状況って本来のわたしにとってはあんまり得意じゃないっていうか、むしろ苦手な状況に置かれているんだよね」


「あー、言ってたね。取り巻きがいっつもいてたてまつられてる感じで居心地悪いって」


「そうなんだよぉ。中学の時みたいにミカがいないしさぁ。何だか本当の自分を出せなくて時々ツライんだぁ。それでね、ふと一人になれる時間が欲しいなぁって思って朝早く学校に行ったのね。そしたらさぁ、拓実君もその時間に来たんだよーっ!」


「ほぉほぉ、その子タクミ君って言うんだ。それでそれで?」


「えっとね。それでわたし、それから毎日早朝に登校することにしてて、朝のその時間が拓実君と二人だけの特別な時間なの。へへへ」


「はぁ……んで? まさかそんだけじゃないでしょ?」


「え? ……も、もちろんっ。えぇっと、拓実君ってさ。いっつもそんな早く来て何してるかって言うと、イヤホンして何か聴いてるんだよね。その時の雰囲気がいいんだよっ、これがっ。なんとも幸せそうでさぁ。絵になるって言うか、雰囲気があるって言うか。それこそオーラが溢れ出てる感じっていうの? 一緒にいるだけでなんだかわたしまで幸せ分けてもらった気分になるんだぁ」


「へぇー。そんで喉からうんこ出すんだ」


「出さないしっ! もぉっ、茶化さないでよっ」


「だってさぁ、話が全然進展しないんだもん。ここら辺でそれくらいのテコ入れ必要かなって思うじゃん。あ、それともバトル展開入れとく?」


「うーん。だけどさぁ、正直この先どうしていいのか分かんないんだもん。今朝の教室で二人っきりになるだけでも幸せだし、それで満足するしかないのかなぁって」


「さっさと告ればいいじゃないのよ、面倒くさい」


「無理無理無理無理っ。フラレたらどうするのよっ! せっかくの朝のひと時も気まずくていられなくなっちゃうじゃないっ! 今よりマイナスになるくらいだったらやんない方がマシッ」


「その美貌で告白して、断る男子なんてそうそういないってば」


「やだ。絶対無理」


「もぉ、面倒くさい女だなぁ。じゃあ今から知恵を授けてあげましょう。それを実践してみなさい」


「おぉっ。ミカがなんか女神的な何かっぽい」


「そうでしょうそうでしょう。敬いなさい。ここはあんたの奢りね」


「うん、めっちゃ俗塗ぞくまみれ感出してるけど、奢るから早く知恵授けて」


「エッヘン。いいでしょう。一つ、タクミ君の真似をすべし」


「真似?」


「そう。真似です。趣味とか、持ち物とか。仕草でもいいよ」


 はぁー、なるほどぉ。

 あ、拓実君が使ってるイヤホン! あれってなんだか珍しい形してるのよねー。よし、調べてみようかな。


「分かった。頑張ってみる」


「それから次! 真似をして親しみを感じてもらえるようになったら今度はスキンシップを頑張ってみようか。これは相手にもよるし、諸刃の剣だけど、ららからだったらされた方は悪い気はしないはず。なぜってららだから」


「スキンシップ! それはハードル高いなぁ……。わたし男子にスキンシップなんてしたことないもん……」


 絶対わたしにはハードルが高いわ。恥ずかし過ぎて真っ赤っかになるよ。それに好きでもない子に触れられても、拓実君が嫌かもしれないし……。


「大丈夫! わたしが保証するっ。ららなら絶対大丈夫! なぜならららだからっ」


「さっきから理由になってないんだけど……?」


「十分理由としては成立してますっ。なぜならららだからっ。ららは残念なところも含めてかわいい性格してるし、見た目だけならどこに出しても恥ずかしくないっ! こんな子から積極的にスキンシップなんてされてご覧なさい! ズッキュン、はい確定きたこれ」


「イマイチ褒められた気がしないけど、本当かなぁ」


「疑い深いなぁ。信じるものは救われるんだよ。イワシの頭も信心からって昔から言うでしょうが。プラシーボ効果というのがあってだねぇ……まあいいから信じなさいよ」


「益々胡散臭さ増したっ! もぉ……なんか怪しい宗教っぽさ爆盛りだよぉ」


「とにかくいいからやれっ! はい、終了〜」


 なんだかよく分からないうちに強引に捻じ伏せられた感じ。でもひとまずアドバイスに従ってみようかな。とにかく今の状況を打開しないと先に進めない。

 グズグズしてるうちに誰かに拓実君見つけられて持ってかれたんじゃ後悔してもしきれないわ。

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