第26話 たくましさの陰に隠した切なさが見え隠れするところがいいんじゃない!【挿話 数日前の羽深さん】

「それでらら。相談って何よ、珍しい。好きな人でもできた?」


「ブフーーーッ!? な、なんで分かった?!」


「えっ、マジでそうだったの?」


「えっ……えっ? ……あちゃぁ」


 まさかいきなり自爆しちゃうとか。

 まぁでも手間が省けたか。どうせ相談するためにミカを呼び出したんだし。


「何々、相手どんな子? 学校の子?」


 放課後呼び出したカフェで、注文したマキアートを一口啜るとミカが身を乗り出すようにして話題に食い付いてきた。


「う、うん……クラスメイト……」


 ミカは幼稚園から中学まで一緒だった幼なじみで親友。高校で初めて違う学校になって離れ離れになったけれども、今でも唯一何でも話せる友達だ。学校の友達にはあまり話せない本音もミカにだったら何だって話せる。


「へーーっ! あのららについに好きな人ができるなんてねぇっ! ちっちゃな頃からそばで見守ってきた身としちゃ感慨もひとしおだわ。ヘェ〜……ららがねぇ〜」


 そ、そんなに驚かなくてもいいと思うんだけど。

 実はわたし、彼氏がいたことなんてない。更に言えば誰か男の子を好きになったこともなかった。それを知っているからミカはこんな風に大袈裟な物言いをしてるのだ。


「告白してくる男の子という男の子を見事に返り討ちにしてきたあのららがねぇ……千人斬りのららと恐れられたあのららのハートを射止めたという男子、俄然興味が湧くわね」


「せ、千人斬りって……人を戦闘狂みたいに言わないでよ。ていうかそれ、場合によっては逆の意味に取られるし!」


 まったく。千人も告られてないわよ。千人斬りなんて人聞きの悪い。失礼なんだから。


「あはは、もののたとえでしょ、そんなに怒んなくてもいいじゃない。で、で? どんな子よ」


「え、うーん……バンドやっててぇ……」


「おーぉ、バンドマンかぁ」


「うん……なんかね、本人は必死にモブになりきろうとしてるのね。だけどなんていうかな、こう、普通じゃない感が漏れ出ちゃってる感じ?」


「は? 何それ、サイコパス?」


「え? いや、違う違う。そういうことじゃないんだよなぁ。なんていうかさ、オーラが溢れ出るって言ったらいいかな」


 そう、何か特別なものを持ってる感じがするのだ。みんなはどうしてそれに気づかないんだろう。だけどみんなが彼の魅力に気づいちゃったら大変だ。彼の魅力に気づいているのがわたしだけであって欲しいというのも一方の本音だ。


「ふーん。よく分かんないけど、ららにもついに人並みに春が来たかぁ。フフフ」


「入試の時にね、学校に向かう途中でタクシーから降りるお年寄りの荷物をトランクから降ろしてあげてたのを偶然見たのね」


「ほぉ、親切君か」


「それでそのお婆ちゃんを手伝ってあげてたんだけど、タクシーの去り際に思いっきり中指立ててて。あ、運転手が座ったまま荷物降ろしてあげないのを見るに見かねて荷物を降ろしてあげたみたいなんだけど。そのギャップが凄くて、その時は変な人だなぁって思ったの」


「親切なパンク野郎か」


「それでその後今度は道でうずくまってる妊婦さんに出会でくわして、なんか大慌てで救急車手配したりしてて。わたしは受験があるから申し訳ないけど彼に任せて学校に向かったのね。そしたら試験開始ギリギリになってその彼が教室に入ってきたのよ。なぜか満身創痍で息も絶え絶え。あの後一体何があったんだって心配になるくらいで。それで初めてこの人も受験生だったんだって知って……」


 それからわたしは拓実君から目が離せなくなったんだ。もう、なんていうかその本人は無自覚なのにダダ漏れている強烈な個性がわたしの興味を惹きつけて止まなかった。


「ほぇー。引きが強いっていうか運が悪いっていうか、お人好しっていうか……なんかよく分かんないけどインパクトは凄そうね」


「うん。それで、そんなことがあったけど彼、無事に合格してて、偶然にも同じクラスになって。しかも駅が一緒だったからよく同じ電車になったりしてたんだ。見てるとやたら犬や猫に好かれる質みたいで。登下校途中によく犬や猫にじゃれつかれてたり、見知らぬ人からびっくりするくらいカジュアルに話しかけられてたりするのをよく見かけるのよね」


「はぁ……まあなんか分かんないけどキャラが濃ゆそうではあるね」


「そんだけ個性が強いのに何故かモブ気取りなの……」


「はぁ……好き好んでモブになりたがる人がいるんだぁ」


「それなのよねぇ……なんか変なんだよ……」


 不思議な人なのだ。教室でも異色の存在感を放っている。本人は恐らくそこの自覚がないのだろうが至って自然体なところが、か、かっこいいと思うんだ。


「プッ、クククッ」


「な、何よ?」


「思い出したわ。らら、あんたさ、昔っから動物の変な生態好きだったよね。ほら、あれよ、あれ。電気鰻の肛門がノドにあるとか訳の分かんないことを子供の頃によく熱弁してたじゃん。プーッ、アハハハハッ」


「な、何よ! もしミカが喉からうんこ出る人生だったら前向きに生きられる? 電気鰻は喉からうんこするんだよっ? それなのに電気出すんだよっ? 凄い必殺技持ってるのに喉に肛門ていう咎があるなんて因果背負い過ぎだからっ! そんなたくましさの陰に隠した切なさが見え隠れするところがいいんじゃない!」


 だけどミカの言ってることには確かに心当たりがある。ということはわたし、ミカが言う通り変な人が好きなんだろうか……。

 自信が……自信が脆くも崩れ去りそうになってる……。だってわたしって今まで誰かのことこんなに好きになったことないし、正直恋愛のこととか全然分かんないんだもん。ミカが言うと段々そうなのかと自信がなくなっちゃうよぉ……。

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