第41話 勘違いしちゃダメだぞぉ
今日はなんと羽深さんとデートである。
学園のアイドルでありクイーンにしてスクールカーストの頂点。そんな高嶺の花が僕なんかとデートである。しかもその僕は先週隣町の学校の美女ともデートした。
字面だけを追えばどこのプレイボーイだよと言いたくなるが、当の本人はモブ中のモブだというところが問題だ。
そう、元来モテるはずがないのである。
なので奇跡的に起こっているこれらの出来事は、字面だけで単純に判断すると間違うと思われる。
一見デートの体を取っているが、おそらく羽深さんの中では別の認識である、と考えるべきではなかろうか。
勘違いしないでよね!
べ、別にあなたのことが好きだからデ、デートしてくれるわけじゃないんだから!!
と、僕は自分に何度もそう言い聞かせつつ、デートが決まったあの日以来地に足が着くことなく舞い上がりっぱなしの気持ちを押さえつけるのに腐心していた。
今日は水族館というコースはあらかじめ相談して決めてある。
少し早めに到着して待っていると、羽深さんが眩しい笑顔でやってきた。
通りの向こうからこちらにやってくるまでに周囲を歩く男性たちが振り返ること振り返ること。
さすがにこれだけの美少女っぷりだと衆目を集めずにはおれないらしい。
僕はと言えば私服姿でいつも以上に愛らしい羽深さんに、やはりご多聞に漏れず見惚れてしまっていた。
プルオーバーのミニ丈ワンピース。
スラーッと脚が……美しい脚が……ほわぁ〜。
さすがは羽深さん。そこら辺のなんちゃって読モなど色あせるわ。
そんな美少女がいつもみたいに片手を体の前に出して振りながら近づいてくる様子の一部始終を想像してみたまえ。
ほわぁ〜ってなるわ。ほわぁ〜て。
まったくもぉ。なんちゅうかわいさじゃ。
「おはよーっ、拓実君! ちゃんと来てくれたんだっ」
そりゃ来るわっ。憧れの羽深さんとのデートだし、そう仕向けられた感は否めないけどそもそも僕の方から誘ったという体ではあるしね。
「来ないっていう選択肢もあったんだ?」
「それはないっ」
「…………」
じゃあなんでちゃんと来たんだとか言うのかな……。とか訊いても多分言い負かされるんだろうから言わぬが勝ちなんだろう。負けてるけど。
「拓実君っ!」
「はい?」
「かっこいいねっ!」
「はいっ?」
一応今日も一張羅ですけどかっこいいは滅多に言われたことねーですけど?
ドラムカッコいいは言われたことあるけど。
おいおい、そんなに嬉しそうな顔して見つめられたら勘違いしそうになるでしょ。ライフ持ってかれるからやめて、ホントにもぉ。
落ち着け、自分! ここは気持ちを落ち着けて冷静に……なれねぇっ。
羽深さんがかわいすぎてとてもじゃないが冷静になんてなれねぇっ。
くぅっ。そうそう、こういう時は女性を褒めなくちゃね。うん。ワンピースかわいいし、褒めなきゃ。
「ららちゃん、その……あぁー、なんつうかー、そのぉ……ワ、ワンピース……のキャラだと誰が好き?」
ってちがーうっ! 言いたかったのそれじゃなーーいっ!
「うーん、ハ◯ワン?」
って普通に答えられてしまったぁっ!
ハ◯ワン? ワ◯ルのペットのハ◯ワン?
「あー、ハ◯ワンね。ふふぅん、そうか。ハ◯ワンねぇー。あー、かわいいよね、ハ◯ワン。ふーん……あ……ワンピースのハ◯ワンもかわいいけど、ららちゃんのワンピース姿はもっとかわいいよねぇー」
っとぉ、どうだぁこれは? 起死回生じゃね? 巧いこと言ってね、これ? どうよどうよ?
「……」
あれ……外したかこれ? 外しちゃったか?
かと思えば羽深さんはみるみる真っ赤になって俯いてモジモジしだした。
よっしゃ! ヒットォ! それもクリティカルヒットじゃね、これ?
「い、行こうか、そろそろ。ね」
あまりにモジモジしている羽深さんを見かねて移動を促すと、羽深さんは黙って頷いたかと思うと僕の左袖の裾を掴んできた。
こ、これな……。
前にもやられたけど、男子はこれされたら弱いってヤツだ。まったく。
羽深さんは計算してそういうことやるタイプじゃないと思うけど、やられるともう益々メロメロになっちゃうよ。
いやぁ、勘違いしちゃダメだぞぉ。
これは羽深さんにとっては恋愛的な仲良くなりたいじゃないのだ。
あくまで取り巻き連中から独立するための一時凌ぎとして懐かれたものと知れ、楠木拓実よ。
ふぅ……あっぶねぇ。一般人だったらとっくに勘違いしてるところだぜ、ひゅぅ。
勘違いしたら最後、気づいたら奈落の底に突き落とされるぜ、ひゅぅ。プロのDTだったから命拾いしたな……ひゅぅ。喘息でもないのにひゅぅひゅぅ言っちゃうなぁ。
こんな調子で今日僕のライフは保つのか?
夕方にはTHE TIMEのライブも控えてるので責任を果たすためにもそこまでは保たせないとだな。
そんな調子で水族館デートは始まる。
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