第40話 ちょうどいいモブ
「いや、それがさぁ。色々と事情があるみたいなんだよ」
「事情……?」
「そう。羽深さんってさ、いっつも取り巻きの連中がいるじゃん? あの連中が実は苦手らしいんだわ。それで連中に囲まれない時間が欲しくて早めの時間に登校するようになったら、たまたま僕と一緒になることが多くてさ。そしたらなんだか昼休みもあいつらから抜け出したいとかで僕と一緒に食べるって言い出したんだよ。弁当だって向こうが作ってくるって言ったんだからな」
恥ずいからたまたまってことにする。
一緒にいたくて早朝頑張って登校してるのバレたらイタい奴と思われるに違いない。
「ふーん……でもなんで楠木なんだ?」
「それな。正直そこは謎なんだけど、羽深さんも音楽好きでさ、僕が朝いっつも一人で音楽聴いてるから真似して聴いてるって言ってた。あともしかしたら僕が一人でも平気そうにしてるから何かヒントになると思ってるのかも」
自分でも謎だが概ねそんなところじゃないかと思うんだ。それくらいしか思い当たらないもんなぁ。
「ほぉー。つまりあれだ。楠木がぼっち道の師匠ってわけだな」
なんか癪に触る言い方するな、こいつはまったく。
「ぼっち道言うなよ! 僕はぼっちの求道者じゃないし、そもそもぼっちでもないからね!?」
まったく。僕はモブだけどぼっちではないぞ。一時期ぼっち飯だったが今じゃ何しろあの羽深さんと二人ランチだからな。しかも羽深さんのお手製弁当だ。
「ふぅーん……」
「なんだよ?」
メグは何かまだ言いたげに僕を横目にじっと眺めている。
「いや別にぃ……。さすがだねーと思ってさ。お前モテないふりして昔から結構すげぇよな。時々こいつには敵わねぇーって思い知らされるんだよ、お前にはさ」
さすがにそれは意味分かんないわ。むしろメグに敵う奴こそめったにいないってもんだわ。このモテ男が。
「バカ言ってんじゃねーよ。そんなわけないだろ。お前にだけは言われたくないっつーの」
メグって奴は付き合い長いがホントにモテる男なのだ。深くは事情を知らないし知ろうとも思わないが、女を切らしたことがないというもっぱらの噂だ。
「ふんっ、言ってろよ。なんだか知らんがモブキャラ気取っておきながらちゃっかり大物釣り上げてるし。あーぁ、オレは
んぬっ!?
神さんっていうのは曜ちゃんのことだ。曜ちゃんとは付き合ってるわけじゃないがいい感じなのでヤツに持ってかれるのはちょっと……。
いやしかし僕の本命は羽深さんなわけで、曜ちゃんのことを拘束する権利なんて当然僕にはないわけで……。うぅん……。
「なんだよ……えっ? お前ってまさか神さんも狙ってたりするの!? おいおい、マジかよぉ? 勘弁しろよぉっ」
「え、あっ、いや、そのぉっ……うーんと……」
狙ってると言うか、曜ちゃんが結構グイグイ来るから満更でもないと言うか……。
「マジかヨォ〜。クッソ、モブの皮を被った鬼畜だよなお前ってやつは本当によ! 二股とか許さんからな。どっちか譲れっ」
鬼畜ってっ? 酷い言いようだな、おい。
「おいっ。譲れとか人を物みたいに言うなよっ!」
「うるさいわ、この獣物がっ。……それで? 神さんとはどこまで行った?」
獣物は心外だなぁ。
ど、どこまで行ったってな、お前……。
手すら握ってないっつーの。チクショー。
プロのDT舐めんなっ。
「下衆な訊き方すんなよ、お前は。曜ちゃんとはThreadするくらいだよ。この前初めてデートしたけど、映画観て美術館行っただけだぞ」
な、なんだよ。そのジト目は……。
「曜ちゃん、ねぇ……まったくお前という奴は、いかにもモブですって雰囲気出しといて油断も隙もないよな!」
は? むしろ油断と隙だらけですけど?
意味分からんわ。
「モブですって雰囲気じゃねーよ。そのまんまモブ中のモブだろが。自分で言ってて悲しいくらいモブだわ」
「よく言うよまったく。羽深さんと言い神さんと言い美人中の美人じゃないかよ! この面食いが」
うん、そこはまぁ、不思議なところではあるがな。こっちが何かしたわけでもないし、向こうが勝手に来るんだよ。とか言ったら余計顰蹙買いそうだから言わないけど。
「でもまぁ、たまたま話しやすいんだかなんだか分かんないけど、恋愛抜きで遊ぶのにちょうどいい感じとか思われてるんじゃないのか? ほら、最近よくちょうどいいブスとか言うじゃん。ちょうどいいモブってことじゃないかな」
言ってて悲しくなるけどその線が濃厚だと思っている。特に羽深さんの場合は。どう考えてもカーストトップの羽深さんが恋愛的な意味で僕に好意を持ってくれるはずがないもんな。ってマジで悲しくなるっての。
結局仲良くなりたいっていうのは良くて友達的な意味か、現実的に考えればあの取り巻き連中から逃げるための一時避難所的な存在なのかもな……。
「何だか分かんねえけど、頼むぜ楠木。お前調子のいいことばっかやってるとバチが当たるぞ」
うぐぅ。そこはおっしゃる通りで……ぐうの音も出ないっす。
「分かってるよ……」
胸に刺さったメグの忠告の言葉を引き抜くこともできず、それしか言えなかった。
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