第3話 喫茶店

 もう一度、考え直そう。

 友人は、女が現実にあり得ないことを言ってるのに『嘘をついていない』ことをおかしいといった。とする。

 嘘をついていない。つまり本当だとした場合。

 カメラには自分が二年後なくなると出た。そして、それを憐れまれた。そして友人は本当に二年後亡くなった。

 これは矛盾しない。矛盾しないことが不都合だ。


 少し冷静になろう。

 エッグサンドを注文しよう。

 運動の後に甘いもので疲労回復は理にかなっているのだろうけど、筋肉の回復にタンパク質は必要だ。

 ここのエッグサンドはシンプルだ。半熟の卵を粗く刻み、塩コショウにオリジナルマヨネーズで完成されてる。断面のモザイク模様が好きだ。


 サンドイッチを食べ終え二杯目のコーヒーも空になったころ、肩も凝ってきたが腕と首を回して改めて考える。


 全部が本当だった場合の続きを。

 全部本当だった場合をふるいにかけて残るのは、やはりカメラの存在。

 人の残り寿命の出るカメラなんてあるだろうか、あったとして積極的に使う理由なんてあるのだろうか。


 カメラ女は人ごみで適当に写真を撮りながら声を掛けていた。

 残り寿命を言われて喜ぶ人もいないだろうし、メリットも無くそんなことをするのはなぜだ、もしかして善意かだろうか、残り少ない人生をせめて能動的により良く生きれるように教えてやろうという。

 そんな親切なら駅前にいる人生に疲れたサラリーマンどもなんかより身内にするべきだろう。


 ここまで、考えてふと思い当たる一つの考え。

 背中がざわつく。粟立つ。


 カメラ女が身内に使ってないと考える方が無理がある、身内やカメラ女の友人にも使い、低い数字も出たろう、自分にも使っただろう。それが何の数字かわかるのは、数年後の忘れたころ、誰かが亡くなってから。

 何人かの身内や友人が亡くなるのを看取り、残りの人生を他の人に余生を教え悔いのない人生をおくるようにと伝えることにしたのではないだろうか。

 彼女は疑問に思わなかったのだろうか、若い自分の周りにいる人のそれほど高齢でもない人の寿命が短いということに。

 そんな余裕はなかったか。


 あれはもしかしたら、カメラの形をしているが、カメラではない。

 あれは撮影した人間の寿命を大幅に奪い、残った寿命を表示する何かなのではないか


 カメラ女は利己的な目的ではなく善意で行動し結果的に多くの人の寿命を刈り取って回っていたのではないか、そしておそらく私の友人より先に亡くなっている。それまでに多くの人を撮影しただろう。

 そして、自分の使命と信じてそれを他の誰かに託し、撮影を受け継いでもらったのでないだろうか。


 あのカメラは、もうとっくにこの近くにはないかもしれない、どこかの誰かに受け継がれ、今もどこかで撮影に使われているのだろう。


 あのカメラがどこから来たのか、女子大生のような人が持っていたというが、この近くの大学からと考えるのは早計だろう。

 すでに何人も渡り歩いてるのかもしれないのだから。


 熱弁したかのような渇きを感じた。

 冷めたコーヒーを飲む気もせず、コップの水を一口飲んで席を立った。

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カメラ Dogs Fighter @cycle20xx

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