第2話 駅前
友人が亡くなった後、大きな変化は私にはなかった。
友人の今の交友関係と私との繋がりがなかったためと、それほど頻繁にあってもいないからだ、連絡をくれた友人も大学で仲良かった友人の一人という程度に考えていただろう。
日常生活は変わらず進み、ケイタイを見る機会は減った。
そんな日々である程度気持ちの整理がついて来たころ、気になってきたのはカメラを持った女の事。
友人の変化と関わりがあるとは思えないが、あれほど気にする理由が気になる。一度会ってみたい。
探しに行くことにした。
朝に自由になる時間のある時は、友人の利用していた駅周辺を歩く事にした。
最初は散歩を装うカジュアルな恰好をしていたが、時間を考えてスーツを着ていったりもした、だが結局見つからなかった。
人が多すぎる、一斉に電車から降りる時間に、その人ごみに紛れた人間をその人ごみの中にいながら探すのは至難の業、友人はナンパで人ごみの中から好みの子を一瞬で見つけるのも得意としていたし、あいつだから見つけられたのだろう。
月に何度も来れるわけもなく、10回ほども通うと休日の日課となった。
慣れるにつれ、他人の日常の流れに他人がいるだけなのを肌で感じた、自分も風景になっていく。
数人にカメラをもった女のことを聞いてみたが、知ってる人はいなかった。
誰も大して気にもせず忘れてしまったのだろう。
あいつの日常があった街かと、ぶらつく。ちょうど折り返しにいい場所にある喫茶店に入る。
大学生時代に何度か利用した喫茶店に入る。
友人はメイド喫茶と揶揄して面白がってたが、こちらは戦前から続く正統派の喫茶店、知らない人からしたら最近うまれたメイド喫茶の一種に見えるかもしれないが、服装もメイド喫茶の流行る何十年も前からこの状態だ。コスプレではない正装なのだ。
ここで、分かったような顔をしてコーヒーを飲むのが好きだった、今日は日替わりのケーキもいただく。
今日はオレンジのタルトにチョコのアイスか、バニラの方が好みだな。
見栄えも考えられてるが落ち着いた実用性も考えられたメイド服もいいものだ。
そんなこと考えてるのを見抜かれて、メイド喫茶と揶揄して笑ってたんだろうか。
カメラを持って歩いてた女は今のところ見つからないし、もう写真撮影もやめてておかしくない、続けてても同じとこばっかりとってもいないだろう。
タルトにフォークを刺す。
鋭角な先端を切り落とすように。チンと皿が鳴る。
友人はタルトとパイは何が違うのかと聞いたことがある。
ザクザクとした食感、滲みだすバターの風味、ジャム状に詰められたオレンジの風味が一体になる。
主な違いは生地だろう。タルトの生地はクッキーのそれに近い。ザクザクしてる。
パイの生地はクロワッサンの生地に近い。焼いたときに薄い層が出来てサクサクする。
両方パンみたいなもんだろうという友人に、バターの割合や焼き方も違うのだと説明したがわかってるようなとっくに興味のないけど聞いてるような顔をしてたな。
チョコアイスもオレンジと相性が良かった。
歩き疲れた自分にも丁度良い。足の筋肉に何かが行きわたる気がする。
糖分なのか脂質なのか。
どっちにしろ口から入った瞬間に吸収されるわけでもないし、気のせいなのか、思い込みか。
今一度改めて、あの日、友人が言ったことを思い出してみよう。
カメラで写真を撮られて、その写真に自分の寿命が2年とあった
友人はおかしいといった。
カメラを向けた女は、心底憐れむ顔をしていた。
整理すると
1.寿命の写るカメラに二年とでた。
2.女に心底憐れまれた。
3.おかしいと思ったとなる。
友人は1をいたずらだと思った。でも、仕掛けた張本人が心底1を信じて憐れんだのがおかしいと言っていたと当時の私は解釈した。
友人は嘘を見破れる。本当のところは『自身が嘘をついてると思っている人を察知する』ことが出来る。
1が、いたずらだと、友人はすぐにおかしいと気づくのだが、仮に1をおかしいといってたとすると、女は友人の二年後の死を心底憐れんだことは本当となる。
じゃあカメラはなんなのか?この場合は演出の小道具、そんなものは不要だろう。
「あなたは二年後に亡くなります」で済む話になる。
カメラで信憑性は上がらないだろう。
そもそも、目的が分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます