五 降れば土砂降り濡れ鼠

 朝になると降り続いていた雨は止んでいたが、空は未だ曇天としていた。水と緑に恵まれたバルデュワン公国の地は乾くことなく、いつもより暗い色をしている。

 昨日と違い定刻どおりにアーノルドは城の裏手に現れた。城壁の側に立っていたレティセンシアを一瞥し、彼はいつもどおりの鍛錬をこなしていく。今日ばかりは木々も濡れているため、彼の服はレティセンシアが預かることになった。


(それにしても、己に厳格な方だ)


 昨日会った庭師に聞いたところ、天候が悪くなければほぼ毎日アーノルドは鍛錬を行っている。それを始めたのは彼が成人を迎える前からだとも言っていた、本当ならすでにこの生活を五年は続けていることになる。

 その爪の垢を煎じて、利権のためだけに生きる貴族たちに飲ませるべきではないのか、そう思うほど。

 黙々と日課をこなすアーノルドの姿を見やり、それから目を伏せる。

 あと二日と迫った戴冠式を前に、緊張が城内を包み始めていた。戴冠する当の本人は普段と変わらない様子であったが、やはり落ち着かないのか今日はいつもより鍛錬の時間が長い。


「なぁレティ、毎日付き合わなくてもいいんだぞ」


 鍛錬を終えたアーノルドがレティセンシアの前に立つ。激しい運動の後に褐色の頬が僅かに赤くなっていたが、彼は普段と変わらず平然とした様子でタオルを受け取り、男っぽい乱暴な手付きで汗を拭く。それから、まるでため息のように一度長く息を吐いた。

 やはり連日の忙しさに疲れが溜まっているのだろうかと、レティセンシアは思わず彼の顔色を留意する。


「護衛と命じられた以上はお付き合いするのが筋かと思いまして」


「命令とあれば人を殺すようにか?」


 珍しく棘のあるアーノルドの言葉に驚く。ショックを受けたというよりも珍しさの方が勝っていた。

 しかし、彼もそんな事を言うつもりなどなかったのか、すぐにばつが悪そうな顔をし、レティセンシアから目を反らした。


「悪い、言いすぎた」


 そうして上着を掠め取り、どこか力ない足取りで歩き出す。

 レティセンシアの脳裏に昨夜の事が浮んできた。

 あの大雨の中、濡れて帰ってきていたのではないか。まさかとは思ったが城の者に気づかれぬよう抜け出しているのだ、冷えた体も髪もそのままでアーノルドが寝てもおかしくはない。なにより自分の事となると適当な彼のことだ、レティセンシアは己の予測を疑わなかった。

 歩き出したアーノルドの手を咄嗟に取る。鍛錬で暖まっただけと思えない熱が指先に伝わり、驚愕にレティセンシアは顔を強張らせた。この体温で平然を装えることにも驚くが、常と同じように寒空の下、袖の無いチュニク一枚で汗をかくなど正気の沙汰としか思えない。

 アーノルドは手を無理に振り払い、何も言わずレティセンシアに背を向け歩き出した。先よりも早く、まるで逃げ出すように。


「殿下!」


 逃すまいとレティセンシアは小走りに追った。

 彼を呼ぶ声は自然と大きくなり、中庭に居た庭師がちらりとこちらを気にしていた。

 逃げるからにはアーノルド自身も判っているのだ。

 その背にレティセンシアは苛立ち交じりの言葉をぶつける。


「そんな熱で何を考えているんです」


「熱なんてないだろ」


「馬鹿を言わないでください、貴方死にたいんですか!」


 城内に響く声。周りに人は居なかったが、それを幸いと言って良いのかレティセンシアには判らない。

 人目を憚るようにアーノルドは城内の一番奥へ進む。レティセンシアの知らぬ城の中央、最北に位置するところにも階段があった。扉で区切られた空間にやはり人気は無い。この階段は城内でも一部の者しか立ち入ってはいけないのだろう。だが、レティセンシアが付いて来ることを知っていながらアーノルドは何も言わなかった。


「アーノルド殿下!」


 階段の下から叫んだ声が反響する。

 踊り場で足を止める。振り向いたアーノルドは苛立ちを顕にしていたが、本人は気づいていないのか表情に苦痛が滲んでいた。


「レティセンシア」


 アーノルドの鋭い目がレティセンシアを捕らえる。


「自分の体だぞ、大丈夫かそうじゃないか位はわかってる。口を出すな」


 突き放すための指図する物言いにレティセンシアは怒りに顔を歪め、アーノルドを睨み返した。感情に任せ階段を駆け上り、彼の側に立つ。


「貴方馬鹿ですか! 翌日に大事が控えているのに、無茶をしてどうするんです!!」


「無茶なんかしてねぇよ!!」


 互いの激語が反響して消えていく。

 レティセンシアが護衛として側に居て数日。初めて感情的に叫んだアーノルドはまるで駄々をこねる子供のようだったが、レティセンシアは思わず口を閉じ彼を見る。その声に、微かな悲痛さを感じ取ってしまった。


「俺は、公爵家の当主として民の見本とならなきゃいけないんだ。これくらいの熱、病気のうちに入らん。いいから、放っておいてくれ」


 荒げた声を押さえ込み、言い聞かせるようにアーノルドが喋る。言葉を区切る度無意識なのか、ため息のような呼吸を繰り返していた。

 至近距離に立ったレティセンシアがそれに気づかないはずがない。


「……わかりました」


 レティセンシアの言葉にアーノルドの気が緩む。


「失礼」


 表情が揺いだ。

 反論も反撃も許さず、レティセンシアはアーノルドの背面に回り込み襟足へ手刀を打ち込む。前のめりに倒れる彼を片腕で支えようとしたが、腕力が追いつかず、一度だけ踏鞴を踏む。

 腕の中で意識を失い目を閉じるアーノルドを見、レティセンシアは安堵の息をつく。大丈夫と言ってはいたが、微かに苦悶を浮かべた顔はうっすらと汗ばんでいた。


「貴様、何をしている!」


 聞こえた尖り声に振り返ると、いつから居たのか女が一人、階段下に立っていた。彼女は機敏な足取りでレティセンシアの側まで歩み寄る。

 結い上げられたくすんだ金髪に白銀のプレートメイル、腰から吊り下げた細身の長剣。察するに近衛騎士の一員であったが、近くで顔を見ると中年を過ぎた年頃だった。女だてら猛々しい顔でレティセンシアを睨んでくる。


「トロネ教会からの使いだったな、殿下に何をした」


 彼女がこの状況に至るまでをどこから見ていたのかはわからなかったが、傍目から見て良い状況とは言えない。

 なにせレティセンシアの腕の中で意識を失いぐったりとしているのは次期国王。理由も聞かれないままこの場で叩き切られても文句は言えなかっただろう。攻撃的なまでに怒りを発露する彼女が今に剣を構えてもおかしくはない。


「体調を崩されてる様子だったのですが、言っても無理を言いますゆえ強引にお止めしたところです」


「手を上げたと」


「乱暴だったのは承知しております――大事を控えておりますし、ここは安静にしていただいた方がと思いまして」


 素直に言えば自分の立場が悪くなると判っていた。嘘をつけないという事は横に置くとしても、状況を適当に繕うよりは良いと思ったのだ。なによりアーノルドの体調が悪いのは確かであり、ただの口実ではない。

 女は猛々しい顔をそのままに、アーノルドとレティセンシアを交互に見る。そして眉間の皺をさらに深めた。


「殿下に手を上げたことは目を瞑ろう、他の者に知れると厄介なのだな。来い、まずは殿下を寝かせるのが先だ」


 女が言い、促すように階段を先に上り始めた。

 運ぶ手助けをしてくれるものだと思っていたレティセンシアは、慌ててアーノルドを背に担いだ。

 体格はほぼ変わらないが、やはり鍛えているだけあってアーノルドは重量がある。華奢な体躯のレティセンシアではゆっくりと歩くのがやっとのこと。思わずバランスを崩し、よろめく。


「あの……手伝っては」


「貴様も男だったら殿下を運ぶくらい訳ないだろう、落とすでないぞ」


 弱々しく尋ねてはみるも、女はすっぱりと言い返すだけ。時折立ち止まり確認するようレティセンシアを見ていたが、結局彼女は最後まで手伝おうという素振りは一切見せなかった。


 案内されたのは三階、おそらく西側の一室。客間二部屋分はあるだろう大きな部屋であり、書棚や机、天蓋のついた寝台はどれもみな落ち着いた暗褐色のオーク材で作られている。使ってそのままの体である机の上には、たくさんのメモらしき紙と本。燭台の蝋はほとんど無くなりかけていた。


「何をしている。殿下を早くベッドへ」


 厳しい顔つきの女にせっつかれ、レティセンシアは震える手足を叱咤しアーノルドを寝台へ運ぶ。

 意識の無い成人男性を背負うのは中々に骨が折れた。しかし、耳元で聞こえる浅く苦しげな呼吸を聞いていると不思議と責任感のようなものが芽生え、ただそれだけがレティセンシアを突き動かした。

 アーノルドの額に手を置き、女が顔を顰める。


「……随分と熱があるな。まったく、うちの軟弱な若造共も、少しは殿下の気丈さを見習えば良いものを」


 不満を口にしながらも、ようやく女はレティセンシアを手伝い始めた。

 寝台に横たわらせる前にアーノルドの衣服を脱がせると、寒風の吹く季節だというのに酷く汗をかいていた。まだ熱が上がりきっていないのかアーノルドは僅かに震えている。急いで角塔にある簡易な厨房から水とタオルを運び込んで、レティセンシアは彼の体を拭い始めた。

 アーノルドの体中、特に視野の悪いだろう右側に集中し、小さな傷がたくさんあった。こんな状況でもなければ決して知ることはなかっただろう。一人で鍛錬をしているだけではまずありえない剣による切り傷もいくつか見受けられ、思わずタオルを持つ手が止まった。


「レオンと医者を呼んでくる。殿下に何かしようなどと思うな」


 女の鋭い声と眼差しに意識を戻し、レティセンシアは言葉無く頷いた。

 念を押すように女はレティセンシアをもう一度睨み、その後何も言わず部屋を出て行った。

 寝巻きを着せ髪を解いてやり、やっとのことでアーノルドを寝かせてレティセンシアは息をつく。

 意識を失ったために抑えていた不調が表面に出たのだろう、アーノルドの頬は見て判るほど赤くなっている。苦しげに顰めた顔に浮んだ汗を、冷やしたタオルでそっと拭い、額に乗せてやった。

 机から椅子を寝台の近くに運んで座り込み、しばらくの間静かに様子を見る。

 雨が窓にぽつりと姿を現す。薄曇からっという間に重たい雲に姿を変えたかと思えば、雨が降り出した。

 夕立のように雨脚は強く、今夜一晩振り続けるかもしれないとレティセンシアは頭の片隅で思った。


「アーノルド!」


 ノックも無しに大声と共に入ってきたのはレオンハルトだった。

 その風体からは想像できない焦った声と挙動に、レティセンシアは思わず扉の方を振り向く。

 まさか側に人が居るなどと思わなかったのだろう、レオンハルトは眉を顰め、軽い咳払いをして落ちつきを取り戻した。


「……殿下の様子は」


「今は眠っております。熱が酷く高いので苦しげではありますが、ただの風邪かと」


 側まで歩み寄ってきたレオンハルトへ潜めた声で伝えると、彼は安堵したように息をつき、それから悔やむように顔を歪めた。アーノルドを起こさぬよう注意を払って顔色を伺い、目を伏せる。ため息と共に、小さく独り言を囁いた。


「また、何も言ってはくれなかったか」


 椅子から見上げた宰相の表情を、なんと形容して良いのかわからなかった。

 慈愛に満ちた目であったが、どうも悲しげに見える。育っていく子を見るとも違う痛心の面持ちをしたレオンハルトは、しばらくアーノルドを見つめてから、レティセンシアへ向き直った。


「今シェルタが――先ほど案内した近衛騎士隊長が医者を呼びに行っている。あまり表立たせるわけにもいかん、殿下の世話を頼んでもよろしいか」


 一度言葉を切り沈黙し、


「私では、やはり駄目なようだ」


 そう、レオンハルトが呟いた。


「レオン様では駄目など……そんなことは無いのでは」


 その言葉の意味を判りかね、レティセンシアは思わず首を傾げ尋ねる。

 レオンハルトは珍しく自嘲的な笑みを浮べ、首を横に振った。


「宰相としては信頼しているだろう、だがそれだけだ。側に居ながら情け無いものだよ、友の子の伯父代わりもできやしないのだから」


 言いながら彼は再びアーノルドを見た。


「この子がそういう風に育ってしまったのは少なからず私たちにも責任がある、親と子ほど年齢が離れていても――いや離れているからこそ、本当の意味でアーノルドの力にはなれない。殿下としての彼を守ることはできるが、それだけだ」


 ふと、レオンハルトはレティセンシアを見る。


「レイに私が居たように、アーノルドにも君のような年頃の友が一人でもいれば、違ったかもしれないな」


 言いながら、悲しげな笑みを浮かべていた。

 ゆっくりと寝台から離れ、レオンハルトは扉へ向かう。途中何か思い出したように立ち止まり、レティセンシアの方へ振り向いた。


「忘れていた、式典の準備で忙しいようであれば殿下の事は」


「いえ、大丈夫です。ご安心を」


「よろしく頼む。後ほどシェルタが医師を連れてくる、食事やその他の事はこちらで手を回しておこう」


 軽い一礼をして、レオンハルトは部屋を出て行った。

 扉が閉まるのを見届け、レティセンシアはアーノルドの方へ体を戻した。

 室内に響く雨音を聞きながら、レオンハルトの言っていた事を反芻する。浮んでくる疑問を解くことをできぬまま、しばし眠るアーノルドの顔を眺めた。

 ふっと思考に一筋の煙が浮かんでくる。


(そうだ、殺さなければ。それが命令だった)


 思えば、これほどの好機が今まであっただろうか。

 他に人も居ず、標的は意識無く眠っている。ここがアーノルドの部屋なら隠し通路の出入り口がどこかにあるのだ、城内の人間に出くわす確率の低い逃げ道が用意されていることになる。

 レティセンシアの手が、銃帯から吊り下げている短剣へ伸びる。


(何も考えるな)


 引き抜く短剣が鞘との摩擦で小さく鳴った。

 両手で柄を握り、高々と振り上げる。


(殺して――そして、教会へ戻らなければ)


 振り下ろせばアーノルドの喉元は眼下にある。

 脳裏に赤く染まったシーツに横たわるアーノルドの姿が浮ぶ。鉄紺の長髪と明るい褐色の肌は白に良く映える、そこに滲む赤もまた、彼の死に彩を添えるだろう。

 一瞬に賭け、力を込めるため息を吸い、止める。緊張に小さく手が震えた。狙いを定め、アーノルドを見る。

 苦しそうに短く早い呼吸を繰り返す彼が気づく様子はない。

 殺るなら今しかないと思った。

 翳した短剣を、勢い良くアーノルド目掛け振り下ろした。


(――私は)


 切っ先が喉仏に触れるその瞬時に手が止まる。そしてゆっくりと、レティセンシアは短剣を膝に下ろした。

 つや消しを施しているため刃に映る像は酷くぼやけ、そこに映るのははっきりとしない黒の塊だった。それはまるでレティセンシアの迷う心のように思え、彼は静かに短剣を鞘に納める。


「……誰か、居るか」


 蚊の鳴くような声にはっとし顔を上げる。

 気を失っていたはずのアーノルドが微かに目を開け、僅かに首を動かしていた。

 驚かさぬよう一度側に手を置き、存在を示してからレティセンシアは顔を覗き込んだ。


「殿下、具合はいかがです」


 どこかぼんやりとした視線がレティセンシアを捕らえる。


「……レティか?」


「はい」


「あーくそっ、お前やりやがったな」


「申し訳ありません」


 息苦しそうではあったがアーノルドは悔しげな笑みを浮べ、いつもの調子で喋る。呼吸のせいで乾燥したのか数回空咳を繰り返し、それから一度だけ長く息を吐いた。


「この部屋ってことは、誰かに知られたんだな」


「先ほどまでレオン様がこちらに。ここまで案内をしてくださったのはシェルタ様です、後ほど医師を連れてまた」


「そうか……」


 考え込むようにアーノルドは目を伏せ、ゆっくり閉じる。羽毛の枕に深く頭を沈め、レティセンシアから目線を反らすように首を傾けた。

 ふと思い出し、レティセンシアはアーノルドの額からタオルを取った。僅かな間に生ぬるくなってしまったそれを濡らし、彼の額に戻す。

 頬にかかった前髪を払いのけてやると、アーノルドがうっすらと目を開け、レティセンシアを見た。


「手、冷てぇ」


「申し訳ありません、当たりましたか」


 アーノルドは口を閉ざし、何か考え込み始めた。

 指摘されたことで指先が冷えていたことに気づき、レティセンシアは温めるよう両手を膝元で重ねる。見れば、少し爪が変色していた。


「レーちゃん」


 レティセンシアのよく見知った顔でアーノルドがおどける。


「その呼び名は止めてください」


「いいじゃん、可愛いから。なぁ、ちょっと手貸してくんね?」


 言いながらアーノルドが左手を差し出す。


「手……ですか?」


「片手でいいから」


「まだ冷たいですよ」


「いいから」


 意図が見えず首を傾げながら右手を出せば、アーノルドはその手を掴み、傷で潰された右目に当てた。

 レティセンシアの冷えた手のひらに伝わる熱はまだ高い。指先や手の表面を、アーノルドの睫毛と傷跡が掠める。

 恍惚の顔をし、彼は小さく笑った。


「おーちょうどいいな、気持ち良い」


「……何なんですか」


「いや、熱出ると古傷痛むんだ。左も見え辛くなってさ、冷やすと和らぐ」


 はしゃぐように笑いながらも、アーノルドはレティセンシアの手を放そうとしない。そうしているうちにレティセンシアの手のひらも、アーノルドの熱で温かくなってしまった。

 痛みが和らいだのかアーノルドが小さく吐息を漏した。ゆっくりと握る力を弱め、満足そうに笑う。


「ありがとな」


「……いえ」


 どこか名残惜しげな様子でアーノルドが完全に手を離した。ほんの少し体制を変え、レティセンシアから顔を背ける。

 しばらくすると彼は自然に眠りの中に落ちていった。多少熱が下がったのだろう、先よりも呼吸は落ち着いていた。

 アーノルドの寝息と雨の音だけが響く。

 まだ日中だというのに薄暗い室内で、レティセンシアはぼんやりと己の手を見た。

 色白で、男にしては細い指と皺の目立たぬ手のひらにはまだ温もりが残っている。レティセンシアは物寂しさを感じ、手を一度強く握り締めた。どんなに力を込めても、指先に残ったアーノルドの傷跡の感触が消えない。


「……守るとは、なんだ」


 レティセンシアの呟いた問いをかき消すように、窓に打ち付ける雨が強くなった。


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