ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章10話 21時24分 マリア、吼える。(2)
1章10話 21時24分 マリア、吼える。(2)
続いて
結果、イヴはようやく魔術防壁を解除できた。
足場となっていた屋根の上に寝転び、奥の方が痛んでしまった喉で、荒く深い呼吸を何度も何度も繰り返す。
「イヴちゃん……ッ! 今、ヒーリングしてあげますからね!?」
「あ……、り、が、と……、……、う、だ……、……、よ、……」
イヴは今にも死にそうだった。
というより、シーリーンがヒーリングをしていなかったら、彼女は間違いなく死んでいただろう。
少しでも効果を高めるために。
わずかでもイヴを救うために。
マリアの他に、シーリーンとアリスもヒーリングを発動しながらイヴのもとへ近寄った。
無論、3人のヒーリングよりも、イヴ自身のそれの方が圧倒的に効果がある。
しかし、今のイヴには自分自身に魔術を施す体力的余裕も、魔力的余裕も、そして精神的余裕もなかった。
ゆえに、イヴが大人しく3人からのヒーリングを受けていると、不意に、マリアの念話のアーティファクトに着信が入った。
「お姉ちゃん……、もう、1人、ぐらい……、抜けても……、大丈夫、だよ……」
「でも……っ!」
「それ、に……、それは……、任務、に、関係、する……、念話の……、はず……、だよ……。出ない……、わけ、には……、いか、ないん……、だよ……」
「~~~~っ、わかりました」
一瞬、マリアは下唇を血が流れるぐらい強く噛んだ。
単純に、自分に苛立ちを覚えたのである。妹がこんなにボロボロになるぐらい頑張ったのに、ヒーリングをやめて任務だからと念話に応答する自分はなんなのか、と。
しかし、マリアは良い意味でも、悪い意味でも、ロイやシーリーンやアリス、そしてイヴより大人だった。理知的だった。
私情と仕事はここですぐに割り切って、努めて冷静に念話に応答する。
「はい。こちら第1特務執行隠密分隊、分隊長、マリア・モルゲンロートです。スピーカーモードで応答します」
『よかった! やっと繋がった! こちら特務十二星座部隊の枢機卿、セシリアです! そっちは今どんな感じ!?』
『それと、初めましてじゃな。ワシは特務十二星座部隊の序列第11位、【宝瓶】のニコラスじゃ』
「こちらこそ初めまして。改めまして、わたしはマリア・モルゲンロートと申します。こちらの戦況ですが、分隊長マリアを始めとして、シーリーン、アリス、イヴ、全員が生存しています。ただし、もうイヴは戦える状態ではありません。それで、上官を急かすようで大変恐縮ではございますが、そちらのご用件は?」
『まずはセッシーから。イヴちゃん、よく頑張ってくれたね。もう魔術防壁は展開しなくてもいいよ。今、準備が整った』
「と、申しますと?」
『セッシーを含めた特務十二星座部隊の3人、セッシー、イザベルちゃん、カレンちゃんの3人で、もういつでも【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】っていう防壁を展開できる、ってこと』
これで2つ目の点と点が繋がった。
このようなやり取りを経て、セシリアたちは【色彩放つ光輝瞬煌の聖硝子】を展開するに至ったのである。
そして次に、3つ目の点と点の繋がりだが――、
『次はワシじゃな。今、現在進行形でそちらに応援を送っておる。同時に、結局は吹っ飛ばされたが、死神の包囲も並行してやっておった。どうやらイヴちゃんが負傷しているようじゃから、応援がきたらイヴちゃんを真っ先に七星団の本部に運び、その後、3人も然るべきヒーリングを受けるのじゃ』
するとその時、マリアは2つの視線を感じた。
その視線を辿ると、そこには覚悟を決めた顔付きのシーリーンとアリスが。
自明、実に自明だった。
一番ボロボロになるまで頑張ったイヴはこの中で一番年下である。
なのに自分たちは、彼女のお手伝いを少ししただけなのに、一番安全な七星団の本部の最奥でヌクヌクとヒーリングを受ける?
冗談にもならない!
マリアは心の中で絶叫する。否、マリアだけではなかった。シーリーンも、アリスも、3人とも同様に心の中で自分をなじる。
こういう場合、この3人と、そしてロイのことを少しでも知る者なら、ロイにあわせる顔がないから、3人は続けて頑張る選択をするのだろう、と、そう推測する人もいるのかもしれない。
だが、それは大きな間違いだった。確かにロイにあわせる顔はなくなる。
けれどそれ以上に、イヴ本人にあわせる顔もなくなりそうなのだ。
確かに3人はロイが好きだ。でも、だからといってロイに対する愛だけが、この3人の人間関係の糸ではない。
シーリーンも、アリスも、そして姉であるマリアももちろん、イヴのことを大切に思っているのだ。
ゆえに、今宵は――、
――ロイのためではなく、イヴのためにも戦う。
『あれ? マリアちゃん? 聞こえた?』
「聞こえております、セシリア枢機卿。ですが、ニコラス上官、僭越ながら進言したいことがあります」
『なんじゃ?』
「第1特務執行隠密分隊のイヴ・モルゲンロート以外の3人、マリア、シーリーン、アリスは、まだ戦えます」
『そうか……。しかし、ワシはこういう時、相手が目上ゆえに取り繕った表現ではなく、相手が誰であろうと主張したい心の声が聞きたいんじゃがなぁ』
「いいんですね?」
『あぁ、かまわん。好きに吼えろ』
すると、マリアは大きく息を吸って――、
そして吐いて――、
「自分の大切で大切で大切な妹が!!! わけのわからない骸骨野郎に!!! ボロ雑巾みたいにされたんですからね!!!?? 許せるわけがないでしょう……ッッ!? 自分に実力が不足していることなんて百も承知……ッ! 敵は恐らく特務十二星座部隊レベルの実力を保有している! 一方で、自分たちなんてしょせんは新兵! 討伐することは天地がひっくり返っても絶対に不可能! けれどそれを踏まえても! この落とし前、せめて一矢でも報いらないと、腹の虫が収まらないんです……ッッ!!!!!!!」
生まれて初めて、マリアはキレた。
自分で自分をバカだと思う。こんなのは自分に似合っていない、と。こんなのは自分のキャラクターじゃない、と。みんなのお姉さん、みんなの先輩、みんなの分隊長、みんなの年上、そういうイメージから逸脱している、と。
だが、イメージを守ることが、妹をここまでされたから反旗を翻すことより、大切なことなのか?
そんな道理、微塵すらあるわけがなかった。
妹がボロボロにされた。
姉ならその相手にブチ切れるのが自明というモノ!
明日になったら思い出しただけで恥ずかしくなる? 黒歴史確定の発言?
そんなこと、マリアは知らない。この瞬間、自分たちが生きているのは今なんだ。なら、昨日でもなく、明日でもなく、今、この瞬間を大切にするのは至極当然。
たとえるならレナードのような口調でも、それぐらい、マリアは実力が不足していた自分にも、妹を殺そうとした死神にも、身を焦がすほどの怒りを覚えているのだ。
せめて一矢だけでも報いよう――、
――倒すことはできなくても、せめて、一太刀ぐらいを浴びせることなら。
――敵が特務十二星座部隊に匹敵する実力を持っていても。
――それぐらいなら、自分たちにだって!
『ガッハッハッ、吼えたな、小娘? ならばよし! イヴちゃんを見送ったのち、死神の包囲殲滅に尽力せよ! シーリーンちゃんと、アリスちゃんも、いいな!?』
「「「了解!」」」
◇ ◆ ◇ ◆
1年間連続更新に付き合ってくださった読者の皆様、誠にありがとうございます。余裕があったら2年間連続更新をしようとも考えていたのですが、最近あまり体調がすぐれないため、少しだけ休載させていただきます。
また、もしよろしければ評価とお気に入り登録のほど、よろしくお願いいたします。
最後になりますが、『俺のラブコメヒロインはパンツがはけない。』という新作を投稿し始めました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894554301/episodes/1177354054894554407
こちらももしよろしければ、ご愛読いただけますと幸いです。
ちなみにですが同一の世界観の物語ですので、舞台が現代ということもあり、恐らく新作の方が先にゴスペルとかスキルとかについてより深く触れると思います。もし早く知りたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひ読んでみてください。
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