俺のラブコメヒロインはパンツがはけない。~俺の論理的リアル女子嫌いが結果的に美少女たちの悩みを解決していた件について~

佐倉唄

第1部 俺は青春ラブコメに夢を見ない。

プロローグ



「大丈夫だよ、弥代やしろ。お姉ちゃんがいるから。お姉ちゃんが、弥代のことを守ってあげるから」


 始めはイタズラで、机の中に入れられたウソのラブレターだったらしい。

 呼び出しに応じ、そこでの女子とのやり取りを盗み見られ、最終的に笑い者。


 それが発端で、私の弟、及川おいかわ弥代はイジメられるようになってしまった。

 別に、弥代はその瞬間まで、誰かにイジメられたこともなければ、加害者になって恨みを買ったこともない。


 ただ、その最初の1回がよほどイジメっ子には面白かったのだろう。

 あるいは私の最愛の弟をイジメることに対して、みんなで1つのなにかをする、という達成感を覚えたのかもしれない。


 最悪の場合、みんなが弥代をイジメているから自分もそうする。そんな思考停止を、弥代のことをイジメているみんながしているかもしれない。

 いや、世の中のイジメなんて、これが大半だと思う。


 とはいえ、イジメの理由が面白いからでも、達成感でも、思考停止でも、同調圧力でも、私には知ったことか。

 私の大好きな弥代が毎日、ボロボロになって帰ってくるんだ。


 私が、なんとかしなくちゃ。


「姉さん……、その、今日は……」

「うん、一緒に寝よう? 朝まで、私が絶対に隣にいるから」


 そういう私、及川弥生やよいは今、くだんのイジメられてボロボロになってしまった弥代のことを抱きしめていた。

 考え事をしていたら、弥代が私の部屋にやってきて、そして今に至る。

 弥代のことを解放すると、私は弥代をベッドに促した。


「ほら、弥代、ベッドに入ろう? とりあえず、今日はもう寝よう? 弥代が眠れるまで、お姉ちゃんがそばにいるから、安心して」

「うん……」


 先にベッドに入り壁の方を向く弥代。

 そんな顔を見られたくない弟のことを、私も遅れてベッドに入り、背中から抱きしめてあげる。


「姉さん……、俺、学校に行きたくない……」

「大丈夫だよ、弥代。行きたくないところに、無理して行く必要はない」


 教科書に落書きされても、

 上履きをゴミ箱に捨てられても、


 机の中に虫の死骸を入れられても、

 火傷をさせられても、


 カッターナイフを突きつけられても、

 殴られて蹴られてアザができても、


 それでもかなり不可解なことに、弥代の担任や警察が動くということはなかった。

 そして母さんも父さんも、弥代のことを心配しているが、イジメに対しての価値観が昔の人だった。


「でも、学校に行かないとまたバカにされる……」

「気にしなくていいんだよ。それは弥代じゃなくて、本当は先生がどうにかしなくちゃいけないことなんだし」


「でも、その先生が、逃げたらダメだって……。自分でも頑張れって……」

「先生の方が間違っているから、休んでもいいよ。自分を傷付けてくる連中から逃げて怒られるなんて、頭おかしいじゃん」


「先生でも、間違えることってあるんだ……」

「先生の言うことは絶対に正しい! って常識を作っておかないと、マシな言い方をすれば時間が足りないし、悪い言い方をすればメンドクサイからね」


「…………っ、スン、えぐ、姉さん……」

「あの人たちにとって、正しいか否かなんて問題じゃないの。イジメでもケンカでも、メンドクサイことを起こしたくなくて、起きても見なかったことにすることだけ。だから、周りに強く言われて、自分を追い詰めたらダメだよ?」


「……それでも勉強だけは、遅れちゃう」

「心配しないで? お姉ちゃんが家でも勉強、教えてあげるし、もし、弥代がこれから先、高校生とかになった時、青春を送れなかったら――」


 弥代がこうなってしまったのには、私にも原因がある。

 私がもっと、弥代のことをキチンと見てあげていれば、根拠なんてなくても、もしかしたら……。


「――私が一生、弥代の面倒を看てあげるから、ね?」

「……一生?」


「そう、一生。ご飯も掃除も洗濯も、なにからなにまで、お姉ちゃんが弥代の全てを支えてあげる」


 弥代を少し強引にこちらに向かせると、今度は正面から抱きしめる。

 続いて私は弥代の頭を撫でて、最後に額にキスをしてあげた。


「とりあえず、今日はもう寝よう? 弥代が眠れるまで、お姉ちゃんがそばにいるから、安心して」


「うん……、おやすみなさい、姉さん……」

「おやすみなさい、弥代」


 そして恐らく、10分ぐらい経っただろうか。小学6年生で、しかも毎日疲弊して帰ってくる弥代は即行で眠りに落ちた。

 しかし、高校生の私にとって23時なんて、まだまだ余裕で起きていられる時間帯だった。


「――ただ楽しく笑って学校に通える。もしも私の願い事が叶うのなら、そんな普通で、ありふれているけど、きっと大切な日常を、弥代に送らせられたのに、なぁ――――」


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