ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章9話 21時24分 マリア、吼える。(1)
1章9話 21時24分 マリア、吼える。(1)
世界には時系列というモノが存在する。
たとえばダイヤモンドの月の第1水曜日の時系列は――、
リタが魔王軍のスパイの女性を殺害 →
ティナが祖父墓参りの最中にニコラスと再会 →
21時ジャストに特務十二星座部隊の会議が開始 →
第1特務執行隠密分隊が職人居住区画へ移動 →
死神が出現 →
イヴが魔術防壁を展開 →
ロイがイヴのもとへ移動開始 →
特務十二星座部隊の会議が中断 →
アリシアがセシリアの側近の死体を発見 →
エルヴィスがゲハイムニスと念話 →
ロイが【土葬のサトゥルヌス】と戦闘 →
シャーリーがロイを救出して、戦闘のために時間を停止 →
時間が再び動き出したあと、セシリアが負傷 →
最後に、ニコラスが死神を包囲完了
――という流れである。
ここで重要なのは、第1特務執行隠密分隊の面々、特に魔術防壁を展開していたイヴはどうなってしまったのか? ということだ。
それはロイが【土葬のサトゥルヌス】とバッティングするよりも前に遡る。
ロイが【土葬のサトゥルヌス】の圧倒的な実力に押される中、自分の代わりに戦ってくれる代理人に死神を選び、その死神に飛翔剣翼を撃った時――、
職人居住区画では――、
「シーリーンさん! イヴちゃんにヒーリングを!」
「りょ、了解!」
「アリスさん! 魔術をアシストする魔術をイヴちゃんに……ッ!」
「…………ッッ、もうやっています!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッッッ!!!!!」
決死の覚悟で魔術を全力発動する第1特務執行隠密分隊。
特にイヴの魔術は凄絶の一言だった。
魔術の使い過ぎで、脳の神経と毛細血管が今にもパチンッ、パチンッ、と、焼き弾けそうな、突然死さえ連想する不快感に全身を支配されても――、
過度の絶叫で喉の奥から血液の味が染みてきても――、
血涙を流し、やはり口からも血液が零れても――、
その溢れ出る血液がまるで熱湯のように熱くても――、
――それでもイヴは光属性の魔術の申し子として、自分で自分に、諦めることを許さない。
天空に広がる地獄の業火さえ彷彿とする死神の炎。近付いただけで人間が骨と化して、触れてしまえば骨さえ熔けて消滅するほどの熱量。
その赤い死滅の象徴たる災禍は、軽く見積もっても王都の4分の1の空を埋め尽くしている。
それを、少なくともこの時点では、だが、イヴは1人で守っていた。
7色に瞬くイヴの魔術防壁は王都の空の3分の1を慈愛と共に覆い尽くして、ところどころに
この命に代えても、
覚悟、執念、決意、自己犠牲、敵に対する口だけではない殺意、そして戦場の心得。幼いながらもイヴにはその万象が備わっていた。
本物の死ぬ気でイヴが奥歯を喰いしばりながら魔術防壁を展開するのに対して、シーリーンは――、
「…………ッッ、
初心者でも習得が簡単な魔術だが、それでも、シーリーンはそれを9つ重ねて、自分の方こそ魔力切れで死んでもいい、と、そう言わんばかりに、魔力の運用効率も考えずに発動し続けていた。
イヴの血涙と吐血ほどではないが、シーリーンもまた、突然死の前触れのように、頭に詰まっている液体が沸騰しそうになってしまう。
一方、アリスとマリアは――、
「ガ……ッ、ア……ッ」
「イヴ……ちゃん!」
アリスは言葉にもならない苦悶を漏らし、マリアは最愛の妹の名前を呼びながら、彼女の魔術防壁の運用を一部担い始めている。
イヴほど神様に愛されていないとはいえ、アリスとマリアだって、七星団、国防を担う組織の一員で、それには試験を通過し、実力を認められて入団したのだ。微塵だろうが灰燼だろうが、少しはイヴの役に立てるはず。それぐらいの意地すらなくてどうするという話だった。
しかし――、
(ダメだよ……、
今にも失明しそうで、心臓が破裂しそうで、脳みそが蒸発しそうな不快感の中、言葉にはしなかった、というより、そのような余裕なんて微塵もなかっただけだが……とにかく、心の中でイヴは五臓六腑に電流が奔るような焦燥に駆られる。
明らかにジリ貧だ。
確かに敵の炎とこちらの防壁は一応、拮抗しているとは言える状態だが、いかんせん、魔力の
しかも、これは推測だが、向こうには疲労という感覚がない可能性すらある。
これはもう、みんなで死ぬしかない……。
お兄ちゃん……、ゴメンなさい……。
イヴがそう悔やんだ、ちょうどその時だった。
「 」
(? 死神の攻撃が少し緩んだ?)
「…………ッッ!? 弟くんの飛翔剣翼!?」
イヴはもうすでに、視界が血液のせいで汚濁した赤色に侵されていたのだったが、視界が無事であったマリアがそれを確認したらしい。
しかし兄には申し訳ないが、彼の実力、飛翔剣翼の威力では、死神に対する決定打にはなりえない。せいぜい牽制のレベルだ。
しかし――、
さらに次の瞬間……ッ!
(…………ッッ!? なに!? この死神よりも禍々しいクオリアは!?)
戦慄、否。
恐怖、否。
その闇属性の魔術の律動を前に覚えるのは、そんな程度の低い感覚ではない。
この死神さえ上回る闇の魔術の使い手によって覚えてしまった感覚は、まだ人類によって名前さえ付けられていない強く、重く、高く、深く、固く、過激で苛烈で痛々しい、そんな常人の想像を、児戯にも等しと嘲笑いながら蹴散らす
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…………ッッ!?
と、イヴの頭では常軌を逸したけたたましい
そして――、
次の瞬間――、
「――――
「…………~~~~ッッッ!?」
闇の砲弾でも、黒い刀剣でもない。
まさに闇という概念そのものと言うべきナニカが、なぜか死神に直撃した。
結果、すでに放出された業火は健在だが、死神は吹っ飛ばされたゆえに、新しい焔を生み出すことを中断してしまう。
まず、これで1つは繋がった。
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