即興即戦 BAⅮ END BUTLERS

低迷アクション

第1話 即興即戦 バッド エンド バトラーズ

即興即戦 バッド エンド バトラーズ


「ヒドすぎる…」


暗い室内で男は呟く。そこに設置された巨大な画面に流れる映像には、

砂塵が飛び交う街並みを、武装した兵士達が行進する映像が流れている。


手元に携えた自動小銃を突き出すように天に掲げ、彼等の信奉する神の名前を叫ぶ奴等が

引き立てていくのは、極めて場違いな存在。


ふわふわしたスカートにフリフリな衣装をあしらえた、一見、砂で薄汚れてはいるが、

その可憐さは失われていない変身ヒロイン、魔法でも使いそうな少女。


時代は変わった。今や、世界の平和や外界から来る未知の敵に対応するのは“軍隊”

ではない。パワードスーツを着た一般人や魔法使いに巨大ロボット、変身ヒーロー、

漫画や映画のクリエイティブ媒体から飛び出してきたような連中がそれを担う。


どこまでが現世の夢?それとも全部幻?悪い世界?よくわからないが、

実際に世界で起こっているいくつもの奇跡と感動事例を見るに、

これは現実という事だろう。


世界は平和に?…勿論、違う。争いは増加の一途。年々増え続ける一方だ…


核爆発でも殺せないスーパーヒーロー、ヒロインが闊歩する時代、

パワーバランスの崩壊した世界は、文字通りの無法地帯。基準もへったくれもない。

最強で不死身。そんな奴等がたくさんいる。


誰もが、力の獲得と世界の覇権を目指し、日進月歩で新たな敵と

正義(最も正義なんて言っても、どれが正しいかの判断基準もあやふや)

が生まれていく。


統制する連中もなく、いや、出来ないな…例えるなら、右に左に揺れまくりの船で

心地よさげな船酔いを満喫する世界。


映像に映る彼女も、自身の正義のために戦ったのだろう。そして、敗けたのだ。

助けに行く奴はいない。付随する資料によれば、この地域の武装集団はヤバい事で

有名だ。


更に言えば、最強の存在に籍を置くヒーロー達も助けには来ない。聞けば、宇宙から強大な敵が来るため、その準備のため、目下、手が離せない現状らしい。


これが連中の弱点でもある。世界の平和を守り、巨大な悪を倒すのは良い。

だが、その後、もしくは最中は?誰が残された世界の平和を守る?


こんな時代では、悪に限りはない。ある訳がない。彼等は良い。危険度の最も高い敵に挑んでいけば、それが正しい事だと信じている。しかし、そこから漏れた中位の、

ある程度の力を持つ敵はどうする?通常の軍隊じゃ、勿論、無理だ?


有象無象、無限に沸く敵に対処できる“丁度いい存在”が欲しい…

それもあんな年若い、まだ、戦いの何たるかも知らないような少女ではなくて…


「いないっすね、確かに。」


こちらの気持ちを呼んだように喋る、もう一人の男が隣に立つ。誰か?と訪ねる前に

彼の話は続く。


「狂信的武装集団“ボゴ・タルタ”5年前にどこぞのスーパーヒーローが教祖を倒したのはいいが、残党討伐を政府に一任しやがった。おかげで連中は暴れ放題、好き放題。


一つの町を占拠して勢力拡大中。って所ですかね?お役人さん?」


それを言われるとこっちが辛い。イタズラに部隊を派遣し、失敗した時の責任?

人的被害に対する遺族、家族、世間の批判を誰が被る?自身も含め、保身第一な

政府には到底無理だ。この男は全てを了解済みの上で言っているのだろう。


「だから、彼女が行ったんですね。人々を守るためという、純粋な正義を掲げてね。

美しい事じゃないっすか?そんな彼女が負け、これから処刑、それとも凌辱?どっちに

しろ、最悪な“BAD END”が待ってるという訳ですね?」


「我々にはどうしようもない。上の連中は、多少の犠牲はやむを得ないって、

のたまいやがる。1人の少女の命と世界どっちを取る?って事だ。


更に言えば、彼女達の仲間も行っても役に立たない。敵は“殺戮慣れ”した連中。

まやかしのような幻術や魔法攻撃なんかじゃ、


びくともしない。だから、適材適所。もっと、野蛮で汚れ仕事が似合う連中。

そう臓物出ても、頭砕け、何か血ぃバッシャーって感じを見ても、何にも動じない…」


「ハハ、まぁ、使い捨て専門って事ですよね?確かに彼女達の仕事ではないな。」


「笑い事か?あんな年端も行かない子供が、

これからどんな目に遭うと思う?貴様はそれを見ているだけか?」


男の笑いに何も出来ない自分だが、その鬱憤を押し付けるように憤ってしまう。

彼はその様子を“わかる、わかる”という風に頷き、こう答えた。


「一つ、提案があります。」…



 犠隻 争侍(ぎせき そうじ)は町の警備員だ。デパートや施設の日中警備、夜勤業務が

主な仕事先。本日は夜勤明け。お昼時のみの混雑の大型スーパーのフードコートで

混雑前の朝の時間、ビールと簡単なつまみを食べて帰路につく予定。


朝に飲む酒の一杯、これに限る。至上の瞬間…たまらねぇ…いや、たまらなくねぇ。

たまらなく嫌だ。争侍は“暴れるのが大好き”である。


暴力、殺人、戦争、ありとあらゆる非道行為に参加してきた。

ケタが外れる残虐行為を渇望し、そこに浸かる事を“生きがい”としてきた。


殺した人間の数は、両手を10回数えても、数え切れない。


しかし、争侍がこうやって“一応見た感じは平和”の“日本”で、ノンビリと過ごせるのは、

昨今出張ってきた“悪”のように世界征服とか、組織、軍団を作る、大金を稼ぐといった、要するに“デカい事”に興味がなかったからだ。

じゃなければ、とっくに正義の味方とやらに消されてる。


漫画みたいにありえない力を持つ連中が、世の中に出張り初めた事を機に、争侍は

“引退”した。負け戦は楽しくない。新しい時代、平和な世界の到来を、彼なりに迎えた

感じではある。

しかし世界は…


「ちっとも良くなってねぇじゃねえか?」


連日、持ってる携帯やテレビに流れるニュースは“戦いと争い”ばかり。

正義の味方が溢れかえり、それに付随する悪も大挙の一途。自分が暴れ回っていた頃と

変わらない。それどころか、余計にひどくなっている。


結局、正義なんてもんの完遂は、まだまだ来ないらしい。予想はついていたし、

どうでもいい話だ。争侍としては、自分の本領を発揮できる場所から“帰ってこいコール”が聞こえているだけでいい。大事なのはそこだ。闘争の歓喜が蘇ってくる。


勤務期間は半年。良い休暇だったな。口を歪ませ、一気にコップを煽った。

瓶ビールのガラスに見覚えのあるスーツ姿が映る。


(あの男が来たか…)


争侍はニヤリと唇を歪ませた…



 「やめましょう、Mr.カルロ、そんな事はしてはいけない。」


自分をこの国へ逃がしてくれた男が悲しそうに喋りかけてくる。カルロ・メスメンデスは

口に突っ込んだ銃口と彼の顔を少し見比べ、引き金に添えた指に力を込めた。


もっと早くにこうすべきだったと思う。2週間悩み、拳銃による自殺が

自分に一番ふさわしいと決め、この国で、それを持っているのは警察か、暴力団関係と

気づき、前者は国を守る存在だと考え、後者の事務所を探す事3日…


ようやく見つけた彼等から強引に

(最も、この国でカルロに敵う者は数える程しかいないだろう)

旧式のトカレフを奪い、自室で咥えている時に男の来訪があったという訳だ。


「カルロ、貴方は正しい事をした。その結果、あの国は救われた。ニュースでも

見るでしょう?子供達はお腹一杯、暮らす人々全てに笑顔が見えています。そして、その力が再び必要です。」


確かに平和だ。我が故郷は…それが、自殺を遅らせた原因でもある。だが、


(全員じゃない。全員は救えなかった)


カルロは“完璧主義者”だ。若い頃から反政府活動に身を投じ、戦い続けてきた。

どんな願いでも必ず叶える事ができる。そこに伴う努力と事を成す事を信じ、

諦めず、前に進み続ける事が大事であり、自身の信念として戦ってきた。


それを信じ、現に彼等は圧政者を打ち破り、

平和な政権を発足するまでに至る。


だが、人は権力を手にすれば、理想を忘れ、自己の利欲に走るのが常。

カルロの仲間達もそうだった。自らが倒した政権と大差ない独裁を進める彼等に


政職をとっくに退いたカルロは、独裁に喘ぐ民衆のため、再びの戦いを挑む。

時代は異能の存在や能力者達が跋扈する時を迎えていた。彼の前にも、


政府側につく“それ等”が立ちはだかる事もあったが、

固い決意と信念を持つカルロの敵ではなかった。


やがて、終戦の決め手となる最後の戦闘で“それ”は起こる。政府庁舎に突入したカルロ達にほとんどの兵士は降伏した。しかし、現大統領である、カルロのかつての友は、

最後まで抵抗した。


手向けの意味を込めて放った銃弾は、相手の心臓を一撃で捉え、苦しませる事なく、あの世に送る。


「正義は難しいな…戦友」


苦笑いのように呟き、死んだ友の顔は今でも脳裏に焼き付いている。問題はその後だ。

庁舎を解放し、外に出たカルロは驚愕に目を開く。


降伏した兵士達と、その家族が広場に集められ、味方によって処刑されていた。

あれほど投降したモノを撃つなと“自分が命じていた”のにも関わらずだ。


同国人同士の殺し合い、大国の利益によって動かされる属国、そんな情政を変えるために、

自分は戦ってきた。その結果が、これか?我々は結局、何にも変わっていないのか…


呆然とする彼の前に、銃撃を逃れた女性が走ってくる。こちらに伸ばした手は

生まれたばかりの赤子が乗っていた。思わず手を出し、受け取ろうとする彼の前で、


女性の頭が銃弾で砕けた。発射された5.54ミリの高速弾は勢い止まらず、

彼女の頭上近くまで掲げられていた手を貫通し、赤子の産着を赤く染めていく。


頬に飛び散る鮮血が“痛い”と感じたのは、初めてだった。銃を下げた部下が

すぐさま駆け寄り、慌てたように、敬礼をする。


「も、申し訳ありません、閣下。う、撃ち漏らしがあり、銃を向けてしまい、

あ、あのお怪我は?」


「何故、撃った?」


「ハッ?」


「降伏した政府関係者を殺す命令は出していない。ましてや、女子供を…」


「ああっ…」


“そんな事か”と言った感じの部下の表情は忘れない…

彼が喋る理由(カルロ以外の上官達は新政権を立ち上げる上での犠牲、生贄が必要云々)は

どうでも良かった。


自分は正しい事をしたと思っていた。しかし、それは仲間達にとっては“まやかしの正義”、

“甘ちゃんの考え”と受け止められていたようだ。いや、かつての仲間達も

これまでの戦いもそうだったのかもしれない。ただ自分は気づかなった、知らなかっただけで…


正義は死んだ…いや、元からそんなモノはなかったのだ。ならば、最後に

自分のやるべき事を果たそう。


カルロは、なおも喋る兵士にゆっくり返礼を返した後、彼も含めた味方全てを殺し、

そのまま命令を出した上官、新政府関係者を軒並み殺した後、日本へと逃れた…



 今となっては、いかに浅はかな考えを持っていたモノと気づく。しかし、

何もかもが遅い。自分にとっては完璧な幕切れだ。説得する男の声は耳に入らない。

世話になった身分だが、自死を止める理由にまでは至らない。


引き金を引く。乾いた銃声が響き、手元が熱くなる衝撃を味わう。死ぬ時は次々と

思い出が浮かぶというが、そんな感じはない。むしろ痛みが続いている。それも頭ではなく手の方が…目を開ける。手に込めた力が強すぎた。旧式の銃が破裂し、手元を真っ赤に染めていた。長い戦いのせいでカルロ自身もその姿を変えたようだ。


「は、早く手当を。」


慌てた男が立ち上がり、戸棚に向かう。だが、当の負傷したカルロは深い自答に

包まれる。


(死ぬ事も許されないか…)


その視線が、男の服から落ちた1枚の紙片を捉えた。

資料用に貼られた一枚の写真から視線を感じる。

華やかな衣装を来た少女、聞けば、正義の担い手との事。とても信じられない。

こんな華奢な娘が戦うというのか?


確かに幼い。だが、その目は…とても強い。自分と同じ戦士の目だ。


(まだ、全てを成した訳ではない。この強い目の意思を絶やしてはいけない)


だから、自分は死ねない。死ぬにはそれ相応の役割を果たす必要がある…という事だ。

カルロの中で闘争の理念が戻ってくる。


「やる事があるようだ。」


救急箱を持った男に手を上げる。傷は完全に塞がっていた…



 「あ~、という訳でさ。おたくはあれだろ?オタクだからさ。黙って、車に乗れよ。

案内すっから。」


「えっ?さっきの前ページと、待遇エライ違いじゃね?私のプロフは?“何でこの国にぃ”とか。そーゆう感じの奴とかさ。」


「いや、もう時間ないしさ。女の子死んじゃうからさ。お前行って、助けて、代わりに死んでこいよ。」


「“オッケー☆”って言う訳ねーだろ!何これ?せっかく自分より年下の上官、

クソロリ大佐殿ちゃんから逃げて!ここまで来たのにぃ~?


お前さ!あのさ、ラノベとかで

そーゆうシチュいっぱいあるけど、実際、こっちに好意ゼロの子と過ごすのって

胃に穴空きまくりだからね!


そんで、エスケープして!憧れの“JAPAN”で同人活動始めて、今週ビックサイト

でイベだってのに、何コレ?あり得ねぇよ!?」


「全く、クソ以下の理由を並べやがってよ。てかよ、へぇー、ほう?ふーん?いいんだ?」


「な、何だよ?脅しても、この国にはね、私の権利とかを守ってくれる

色んな法律が守ってくれるぞ?怖くないぞ?だから、べ、弁護士を呼んでよ。」


「わかった。そうしよう(男がタブレットを取り出し、操作し、自身に見せる)」


「久しぶり~?アーネェェェン!!」


「ギャアァァ、じゃなかった、た、大佐殿ぉぉ(思わず敬礼する)な、何でっ!でありますか?」


「ウン、ウン、元気でやってるようで、何より、何より!大佐も嬉しい。ところで、

この本だけどさぁ(頬に怒りマークをブッツブツに突っ立てた大佐が、

笑顔で18禁マークが大きくついた冊子を翳す)」


「ヒイィッ」


「“激犯!クソロリ大佐を集団で!”“続激犯!クソロリ大佐と集団トイレ”

作者一口メモ“実際の上司がモデルです(笑)”


いや~速攻でア〇ゾンに注文して、買ったよぉ~。面白かったよ~、そして

感想を言いたいから、自宅に行くよ~!SNSで個人情報出しすぎだよ。ア~ネェェン!


我が国の秘密警察の情報網なめちゃいけないよぉ~?“もろこし刑”覚えてる~?

楽しみにしててね~(通信が切れる)」


「・・・・」


「言っとくけど、俺は何にも言ってないから…お前が亡命者なのに、自身をネットで

晒しすぎただけだからな。」


「・・・・」


「車行こうか?アーネン」


「イ…イベントまでに戻ってこれるよね?」


「いや、そりゃ…お前次第じゃね?」…



 輸送機の室内に明かりが灯る。降下態勢が整ったようだ。明るくなった争侍は、

それぞれ離れた所に座る“お仲間”の姿を見た。


1人は浅黒い肌、南米系の背の高い男。

固そうな胸に、盛り上がった両腕の筋肉。まるで重戦車のような印象を受ける。


もう1人は女性。ブツブツ暗そうにうめく声が

さっきからずっと機内に不気味な音楽を奏でていた。サイコ野郎か?

最も、あまり自分が言えた身分じゃないか?


「全員、準備は整いましたか?手短かに要項を伝えます。貴方達は今から、

武装集団“ボゴ・タルタ”の支配都市、モガモシュに降下し、


囚われている少女を救って下さい。目標の場所はわかっています。

彼女が持っているGPS型ビーコンは


まだ反応している。つまり生きているという事です。」


「ボゴタルタル?タルタルソースみたいな感じだな。つまり、そいつらをディップしまくれって事か?」


「女の子の救出!優先そっち。ボゴ・タルタって言ったら、戦車に地対空ミサイルまで

持ってる武装組織どころか、軍隊規模の連中じゃん。ハァッ…ついていない。」


「大まかな内容はわかった。武器は現地調達か?」


争侍の軽口をアーネンが修正し、カルロが要項を全て納得した上での質問を重ねた。


「はい、そうなります。こんな時代になった今でも、我が国に交戦権及び、介入権は

ありません。異能やヒーロー達の活動には、一切関わり無しを決め込んでいます。よって

武器の調達も現状では難しい。輸送機と防弾装備、暗視装置だけは何とかできました。


・・・ですが、次こそはきちんと!」


「次はねぇだろ? 3人で軍隊相手にすんだ。生きて帰れるわきゃぁっねぇよ!

ハッハァ!」


「ちょっと、さっきから軽口ネガティブ止めてくんない?こっちは今夜でカタ付けて

生きて帰ってくるんだからさぁ!」


「何だ?オイッ?結構元気なねーちゃんだな。よろしくだぜ?」


「うるさいっ、馬鹿!黙っててよ。」


「犠牲は覚悟の上だ。あの子を救うために、戦うのだろう?」


カルロの言葉に男のアナウンスが同調する。争侍にとってはあまり関わりにない話が始まりそうだ。


「その通りです。あらゆる出来事や物語。それらは時として、ヒドイ結末があります。」


思い当たる節があるのか?

カルロと呼ばれた男が少し肩を揺らす。争侍はあえて見なかったフリをし、

話の続きを聞く事にする。


「勿論、それが人々の感動や共感、新しい何かを生み出す事もあります。今回のように

平和のために戦った、かのジャンヌダルクのような少女が、


残酷に処刑されようとしている場面でさえも、時が経てば、後世で改善される教訓や

人々に感動を、法を変える動きに繋がるかもしれません。


ですが、彼女は死にました。あの子も死にます。


それが何かのキッカケとなる偉大な死だとしても…それでも、それでも!個人的な話で

大変、申し訳ないが、私は嫌なんです。」


男の台詞にカルロが頷き、アーネンは「波乱〇丈(?)」と呟いた。

最後に争侍が口笛を吹く。


(なかなかどうして、熱いモン持ってやがるぜ?コイツもよ)


という賛辞を送ったつもりだ。機体の後部ハッチが静かに開き、外の空気が流れ込む。


「皆さん、それではよろしくお願いします。」


少し口調を改めた男の声に、3人は無言で並び、降下の準備を終える。


「まぁ、即席でこんな感じだが、一応名乗っとく。俺は争侍。」


「アーネン。」


「カルロだ。」


「アーネンにカルロか。よろしく頼むわ。」


軽口一つ。3人の兵士は戦いの夜に身を躍らせた…



 “サウド・アヌンデス”にとって、今日は“お決まりのパターン”となる予定だった。

所属する組織“ボゴ・タルタ”が信奉する神には、とんと興味は無かったが、

圧倒的な力と集団で暴力を行う安心感、罪の意識の軽減化に、略奪という充分すぎる旨味。


それを盾に数多の殺戮と非道行為を楽しんできた。少年の時から銃を撃ち、

人を殺してきた自分に、何かを変えようという意思はない。ただ、殺し、奪う。

周りの奴等も、ほとんどそんな連中の集まり。彼の世界では、それが常識なのだから

咎めるモノはない。


だから、支配区域に現れた異国の少女に対しても、戸惑いこそあったものの、淡々と仕事をこなした。銃を撃ち、相手から発せられた光の衝撃に吹き飛ぶ仲間を囮に、彼女との距離を詰め、その華奢な肩にナイフを突き立ててやった。


上からの指示で、彼女には恐らく小型の発信機が埋め込まれている筈だと、

指摘があり“取り出す役”に当てられた時も、何の躊躇いもなかった。

これも彼等のパターンではお決まりの事だったからだ。


それを囮にして、救出部隊を返り討ちにする。これもいつもの流れ。ネットで検索すれば

工作員の身元が駄々洩れ情報パンクの時代。あらゆる目的や利権を当てにした強欲の輩が味方を売り、敵の来訪などすぐわかる。この流れも代り映えしない、

何度も成功してきているパターンだ。


AK-74突撃銃を構えた仲間が大挙する部屋に、3人の敵が音もなく入ってきた時も、

サウドは冷静に役割をこなす。彼等の前に、血で濡れた小さな装置を翳してやる。


そこから先は、いつもの銃撃と殺戮の筈だった。違ったのは、彼の前に、

3人の中で一番背の高い奴が目にも止まらぬ速さで、こちらに飛びかかり、

サウドの頭と胴体を勢いよく二つに分け、彼をあの世へ送った事だけだった…



 「コイツはAKか?感触最高だぜ!」


先頭の敵を始末したカルロの後ろに続く争侍は“人間だったモノ”に引っかかった突撃銃を構え、叫ぶ。そのまま床を横滑りで動きながら、銃弾を飛ばす。

狭い室内に固まった兵士達は肉片と血しぶきを上げ、次々に転がっていく。


後方からの銃弾に守られ、突進するカルロは素手で、敵を解体していく。


争侍が弾倉に詰まった30発を撃ち切る頃には、部屋の中に十数名の残骸が転がり、

先程の静寂が戻ってくる。


「俺の助けはいらなかったな。」


「そんな事はない。戦いの口火切りに丁度いい。助かったよ。」


「でも、銃声で敵来るね。てか、あたし等の動きバレてた?…」


「そっちの方がやりやすいぜ?ねーちゃん。問題は助ける嬢ちゃんの居場所だ。」


全員が経験から少女が殺されていない事を確信している。問題は場所だ。そればかりは

さすがにわからない。


争侍はアーネンに銃を放りながら、死体から予備の弾倉と手榴弾、拳銃を持っているヤツは

すぐに回収し、ポケットや肩、全身を身に着けていく。

硝煙と血の臭いに脳と体全体が活性し、二人に怒られなければ大声を上げたい所だ。


「任せて!」


アーネンが親指を上げ、原型を留めていない死体の傍に近寄った。

血みどろの肉片をおもむろに一掴みする。


「これでいいかな?」


呟き、そのまま“えいっ”とばかり、口に頬張る。思わず目を剥くカルロと争侍。

言葉を失う男二人の前で、モグモグ口を動かすアーネンに遠慮がちに声をかけた。


「ねーちゃん…アレか?もしかしてカニバルか?それともバンパイア的な?」


「うんにゃ、血液ってのはさ。あれさ。色んなモン運ぶでしょ?栄養とか体を形成する上に必要なモンをさ。勿論そこには体を動かす指示、


電気?思考とにかく色んなモノを運ぶツールな訳よ。だからさ。それを味見すればさ。

コイツ等の頭の中が自分の血液に流れ込んでくるわけよ。」


口周りを真っ赤にして微笑む彼女は、しばらく目を閉じて思考する事、数秒…

ゆっくり目を開けた。


「わかった。ここから、200メートル先のビル。敵の本部だね。外には戦車2台。

兵士も武装もかなりいる。そして、あの子を…女の子を殺す所を全国生中継するみたい。

もう、時間ないよ。急ご!」


「よ、よし、場所はわかった。行くぞ!」


カルロがまとめた瞬間、いくつもの銃声が起こり、外壁に穴が空く。争侍は二人に武器が

行きわたっている事を確認し、割れた窓ガラスから外に向かって、持ち切れなかった武器を

放っていく。


「ソージ、何の真似だ?」


「アンタの腕力とねーちゃんの能力があれば、救出は容易。それをやりやすくしてやろうってんだよ。任せときな!まぁ、あれだ。生きてたらな…また、会おうや。」


返事を待たずに2階建てビルから身を躍らせる。

久しぶりの高所からのダイブで走る足の痛みを気にする暇は無い。


前方から自分に目がけての銃撃が再開された。

素早く立ち上がり、銃火の見える場所に向けて、攻撃を繰り出す。


銃弾が跳ね上がる地面をかけながら、弾切れになった銃を捨て、新たな武器を拾い、応戦し、

時には手榴弾を投げ、敵を蹴散らし、銃弾で弾き、戦闘を継続し続けていく。


盾や身を隠す場所がない所では、弾丸の交換をする時間は死に直結する。

散らばった武器の間を駆け、相手が死ぬまで弾を撃ち続けるのだ。


「200年前は刀一杯刺して、今は銃を転がしてる。やってる事は何年たっても

同じとは情けねぇ。変化を大事にしたい。そうは思わねぇか?しょっくーんっ!?」


その答えか?花火を打ち上げたような音と共に発射された数発のRPG対戦車ロケット弾が争侍の足元に着弾し、爆発&爆風で、転がした武器と手榴弾が破壊と誘爆で無効になる。


その爆風の中を突き進む争侍は両手を突き出し、構えた2丁のCZ75自動拳銃を

連射し叫ぶ。


「いいねぇ!今回はちょっと新しい!!一緒に第三次大戦としけこもうや!!」


咆哮を上げ、眼前まで迫った驚愕面の兵士に大口を開け、そのまま噛み砕く。口中一杯に

苦味と不快が広がり、吐き出す。アーネンの真似をしたつもりだが、

自分には向かないようだ。


空溜まりとなった二丁拳銃を投げ捨て、顔無しの持っていた短機関銃PP-90を近くに

迫った敵に浴びせた。


「ラクシャサ!?(鬼の意味)」


銃殺を免れた1人が叫び、大型のマチェットを争侍の頭目がけて振り下ろす。それを口で受け止め、返答を銃弾で返す。頭を吹っ飛ばされた兵士の後ろから、新しく休みない銃撃が

繰り出される。


「はのひいぃねぇっえー(楽しいねぇ~!)」


マチェットをそのまま咥え、両手にAK突撃銃を構えた争侍は、次の獲物に向かって、

笑い声のような咆哮を上げながら、戦闘を再開した…



 前方に対峙した戦車を見て、カルロは拳を固め、力を込める。アーネンは先に建物へ侵入させた。後方では争侍が戦う音が響く。任務の完遂には“コイツ等”を片付けなければ

いけない。


考える前に砲弾が発射される。音速の弾をギリギリで避け、走り出す。

足元寸前グラウンドゼロの爆発が、体を前に押し出す。その加速を殺さず、

活かす方に転じさせた。至近距離まで一気に距離を詰め、砲塔に片手を突っ込む。


「…撃ってみろ」


低く呟く。勿論、返事は必要ない。砲身後方から高温が感じられ、凄まじい衝撃と圧が

腕に走る。この感覚にはもう慣れた。普通なら体が粉々になる所だろう。

だが、そうはならない。コツがある。


要は自分を信じる事だ。目的のために自身の体の最大限を発揮する。それこそ限界まで。


カルロの頭に写真の少女、救出対象の彼女が浮かぶ。自分の年から言えば、

孫娘のような者達が、こんな地獄に戦いに来た。自身の信じる正義のために。


何と崇高な精神。果たして自分がその年で、そこまでの考えを?いや、無理だな。

だからこそ助ける。彼女はこの世界に必要、絶対にだ。全身の神経が片手に一気に集中する。


砲声が響き、手に熱いモノがぶつかるが、こっちの方が遥かに固い。

内部で暴発した砲弾が戦車を粉々に吹き飛ばす。


「エスパンタホォォォ(化け物)!!」


懐かしい響きだ。この組織は随分、国際的だな。まさか同国人と会うとは…砕けた砲塔を

もう1台の戦車に投げつける。ハッチから身を乗り出し、機銃を乱射する同胞は、

砲塔に貫かれ、絶命した。空いたままのハッチに手榴弾を放る。


勢いよく上がる爆発を背に、カルロは建物へと突入した…


 「敵は女1人か?」


目の前で突撃銃を構え、指示を出す部下に、ボゴ・タルタの“現指導者”は訪ねる。

頷く彼に渋面を顔に刻む。処刑をする魔法少女の救援が来た事は事前に知っていた。


彼女のように“魔法を使えば、どうにかなると思っている勘違い戦場未経験者”が

来ると鷹を括っていたが、どうやら違うようだ。


現に、本部内を猫のように飛び回り、銃を撃ち、味方の血をまき散らす女は随分と

手練れ。外でも戦闘が始まっているらしく、仲間がだいぶやられている。

的確な指示が必要だ。


「敵は全て殺せ。こないだ手に入れた“アレ”を使っても構わん。

あの娘の処刑も急がせろ。」


「了解!」


素早く指示を出す彼に、部下が頷く。前指導者は、連中のような存在に殺された。

それ自体はどうでもいい。おかげで自分が、この強大な組織のナンバー1だ。


狂信的な信仰は固い結束と、それに伴う力を生み出す。

立場に見合うだけでなく、有り余るほどの旨味がある。


しかし、部下の中には、彼の就任を良く思わない者も多くいる。何か功績を残さねば

いけない。あの少女が来てくれたのは絶好の好機。処刑を全世界に晒し、

自分の組織をもっと大きくしてやる。


考える指導者の耳が“ある音”を捉える。銃声や爆発音の中では聞き慣れない

異質なモノだ。その場を去ろうとする部下を呼び止める。


「オイ…」


「ハッ?」


「戦闘中にドラッグ(麻薬)をやるなと、あれほど言っただろう。」


「全員に、それは言い含めてあります。」


「じゃぁ、あの“笑い声”は何だ?」


「部下じゃありません。」


「・・・・・・」


「どうかしましたか?」


黙り込む指導者に男が訪ねる。話すべきか?少し迷う部下だが、自身の地位を脅かす

レベルではないと判断し、口を開く。


「こんな話を知っているか?戦場で笑い声を聞いた時は、それが味方、敵に関わらず、

生きて帰れるとは思うな。


その声を上げた者は、ただ戦いを楽しむだけの地獄の鬼。

全てを死に追いやる化け物が、現れた証拠だとな。」


「戦場のおとぎ話でしょう?」


「いや、俺は実際に聞いた事がある。」…



 燃えクズと死体が転がる戦場を、争侍は駆けた。敵は無限に沸いてくる。最高だ。時々、弾丸やら、榴弾の破片が全身を傷つけ、血を流す。


足元はふらつくが、心が戦いを欲している。AKの弾倉を替え、動くモノ全てに

銃弾を撃ち込む。


ふいに見慣れない影が視界全体を覆う。高速で動く“それ”はあっという間に距離を詰め、

争侍の腹に強力な一撃を入れる。常人なら、骨が粉砕される勢いだし、実際に何本も折れていた。


問題の敵を見る。大きさとしては軍用ジープ程度、迷彩柄の四角ボディーに

4足の機械アーム。


「ハードアーマーか…初めて見たぜ。」


最近のゲリラは凄いモンを持ってやがる。血交じりのツバを吐き、立ち上がった。

接近する敵に通常弾は効かない。もっと、デカい、大きな武器が必要だ。


ハードアーマー搭載の機銃弾を避けながら、残骸の中を駆け抜ける。軽機関銃に

重機関銃、駄目だ。効かねぇ、絶対!RPGロケット?戦車には申し分ないが、敵は

それ以上。戦車…そうだな。戦車が欲しい。


思った矢先に幸運が舞い込んでくる。争侍が走る前方には、2台の壊れた戦車。

一台は駄目だが、もう1台は…


「砲塔が折れてるみたいだが、いけない事はねぇ。」


ハッチに飛び乗り、エンジンを吹かす。死体を退かし、後方寸前までに迫った敵に向け、

半分以下の砲塔を向ける。


「“ゼロ距離砲”って奴だ!喰らいな!!」


引き金を引く。暴発に近い、激しい爆発が辺りを揺らし、争侍は全身が吹き飛ぶ感覚を覚えた…



「彼等は何をしている?このままじゃぁ、あの子が…」


 苛立った男の声に、誰も返事をできない。モニター室の大画面には、縛られた魔法少女と

大振りの鉈を構えた兵士が映っていた。


男は画面に向かって吠えるように言葉を発していく。


最新の翻訳字幕が素早く文章を画面に表す事が正しいのなら、


「今から、この少女の首を撥ねる。世界は知るだろう。我等、ボゴ・タルタの聖戦と

その覚悟を!」


と言っている。最悪だ。このままでは、彼女の細く、可憐な首筋が寸断され、

人々の希望となる正義の象徴が、その命が潰える瞬間を全世界が見ようとしている。


「止めて…」


男の隣に立つ女性局員が震え声を出す。そうだ。止めてくれ。こんなモノは見たくない。

ここにいる誰もが、いや世界が、願っている。嫌だ。こんなモノは、頼む。誰か。誰か!


誰か!!誰か!!


彼の願いは虚しく、兵士が鉈を振り上げる。少女の顔はまっすぐ目を開け、画面を見ている。

口元が動く。


「大丈夫、世界は…きっと真っ暗じゃないから…」

 

健気…これが正義の覚悟か?自分の死ぬという場面に及んでまで、彼女は希望を、救いを

世界の人達に届けようとしている。だが、それが余計に悲哀を誘う。


「神に栄光アレ!」


遮るように上げた怒声と一緒に兵士が下した鉈は、少女の首を吹き飛ば・・・


さずに、彼の後ろから突き出された、巨大なカルロの腕によって、兵士自身の

首にめり込まされていた。


「アガッ、アグッ!?」


声帯を擦り潰され、壊れた人形みたいな声を響かせる敵に、カルロの押し殺したような

言葉が相手に言い含めるように被さっていく。


「お前達がいくら彼女のような光を絶やさとうとも、何千、何万年かけたとしても、

貴様らの勝利など絶対にやってこない。


世界は知っているからだ。どんな時でも、どれだけの悲劇に見舞われても、必ず、救いが!

怯え、心擦り切れた自分にそっと手を差し出し“まだ、終わりじゃない”って声をかける、正しき者達、正義が必ず駆け付けてくれる事をな!!」


台詞終わりと共に兵士の首が、千切れ、地面に落ちる。四方から新手の敵が飛び出してくるが、長髪をなびかせ、踊るように舞うアーネンの銃弾に瞬く間に死体となった。


「女の子は無事?カルロ!」


「大丈夫だ!アーネン!その、彼女を頼む。こっちは援護する。」


「何、赤くなってんの?そのたくましい腕で、運んであげなよ?

孫みたいなもんでしょう~?」


「バ、馬鹿モン!早くしろ!」


「あ、あのぅ…」


「あっ!ごめんねぇ、ハイハイ、魔法少女ちゃん。もう大丈夫だからね~」


赤くなった彼を笑いながら、アーネンが魔法少女を抱え上げ、画面奥に消えていくカルロを追う。映像から消えた彼等を見た男は呆然と呟く。あっという間の出来事だった。

彼等は一体…


「何者?今からご説明します。お役に立ったでしょう。」


彼にプランを提案した“男”がいつの間にか室内に入ってきている。その手には数枚の書類と写真が握られていた…



 「…やったか?」


戦車の残骸から飛び出した争侍は呟く。視界が、世界が真っ赤だと思ったら、自分の頭から

出血が多量…砲塔をアーマーにぶつけ、自爆に近い攻撃をしたから、当然だ。

燃え上がる敵を前に目を閉じる。全身の激痛で体がヤバいが、気分は心地よい。

幕切れには、ちょうど良い。


争侍はこの時を待っていた。戦い続けて、何かの拍子にあっさり簡単に死ぬ。

好き勝手にやってきた。周りにかける被害も迷惑もお構いなし。


すっげぇ、カッコ悪く惨めにくたばる。自分にはお似合いかつ、最高に求める死に方だ。

随分、前から渇望してきた。それが…


「あの子に、あいつ等、ヒーロー連中、みんな蘇らせちゃうんだもんな…」


始まりは、どっかの城攻め。蛮族の傭兵として暴れ回った争侍は、そこの女騎士と戦い、

派手に頭を割られる。味方はすぐに退却。置き去りにされた自分は怒り狂った兵士達に

囲まれた。


結構満足な死に様に笑う彼を、1人の少女が庇う。その子が言うには、母親や老人を殺そうとした蛮兵に対し、自分が、


「余計な事してる暇あったら、自分より強えの倒せ!」


と言ったそうだ。言われてみれば、殺されたのは兵士だけで、町に対する破壊は一切ないとの事で、女騎士が、ナンか感動して、争侍を魔法使いに頼んで蘇生。


次はおしゃれだけど、結構中身はグロいお国で異端審問にかけられ、

火あぶり確定オルなんとかの英雄の女の子を救い、

(自分の美学的に火あぶりは“ねぇわ”と思ったので…)


身代わりに焼かれたら、その子が


「神のご加護を…」


とかの祈りで灰の中からハイテンションで復活。


後は似たような流れ。銃が出始めた世界では


「良いセンスだ!」


とか言ったオッサンに助けられ、後はそうだな。


「実は私は命がツヴァーイ!」


「契約して何たらになってよ!(あ、これは違うな」


「問おう…(これも違う)」


てな感じで、今日の今日まで生・き・て・き・て・しまった。

争侍的には、もうそろそろ、向こうに逝きたい。


かといって自身の戦いの美学は崩す訳には嫌だ。そんな事をするくらいなら

戦うのを止める。


だから、彼等のような蘇生能力、もしくは命を複数持つとかいう連中が、

世界中で跋扈した段階で引退した。これ以上生き返らせてほしくない。


一般社会で、穏やかに年を取るつもりだったが、無理だった。そして、

今は最高の快楽の中で死ねる。結構?いや、充分だろう。


ボロボロの唇を歪ませ、笑う彼の耳に通信が入った。

ひしゃげた指でどうにか端末を操作する。


「ヨーウッ…?無事だったか?」


「声が掠れてるぞ?大丈夫か?ソージ」


カルロの声が少し跳ね上がる。全く最悪だ?みたいな声出すなよ。

こっちは最高だってのによ。


「ああ、結構ヤバいが、正直悪くない。いい気分だ…」


「今、助けにいく。こちらは魔法少女を救出した。アーネンも無事だ。お前の居場所も

彼女の能力ですぐわかるそうだ。」


「えっ?」


「だから、お前はそこで、もうちょっと待っていろ!すぐに向かうから!」


「任せて下さい!必ず助けます!」


「ええっ!?ちょっ…」


可愛らしい少女の声を最後に、一方的に連絡が切られた。歓喜で熱くなった体が

一気に冷えていく。不味い、非常に不味い!だから、わざわざ1人で戦ったっていうのに。


このままじゃ、最高の状態で死ねねぇ?もう、長生きはごめんなんだよ!


周りから、敵のざわめきが聞こえてくる。争侍は残骸の中から突撃銃を拾い上げ、突撃と

同時に咆哮を上げた。


「ハッハァ!全員!皆で!あの世に逝こうぜ!!てぇか、頼むから

トドメヨロシク!!誰かぁ!ヒャーヒャッヒャァァ!!」


再びの銃声と争侍の悲鳴に近い笑い声が辺りを揺るがした…



 「彼等は常人から見れば遥かに“異常”ですが、周りが最強の昨今、その存在は

埋没し、彼等自身ですら、自らの能力を過少評価しています。


だから、使いようによっては、いくらでも、利用できます。」


モニターは依然ブラックアウトしたままだが、少女は助かった。おかげで

男の説明に、冷静に耳を傾ける事が出来る。


「確かに、彼等のような存在なら、非常に助かる。多少、問題点はありそうだが。」


「ええ、まぁ、そうですね。しかし、画面に映った大男、カルロは自身の信念、

強い意思をそのまま肉体に反映できる能力、いわゆる“武想現装者”


銃を撃っていた女性、アーネンは秘密警察の拷問&尋問部隊の中で得た戦闘経験と

相手の肉体を摂取する事でその人が持つ思考を読み取る能力を得ています。


全て、戦場や異常な体験下で生まれた能力、彼等はそれを当たり前のモノと思い、同様の

存在である、魔法少女やヒーロー達を凄いモノと恐れ、なおかつ崇拝しています。


カルロは完璧な正義を遂行する存在として。アーネンはオタクでアニメとか大好きの

リスペクター、そして、最後の1人も、まぁ、ある意味彼もリスペクトですね。

多少話がずれますが…


どっちにしろ、今後、我々が求めた存在、BUⅮ ENDを回避できる手段として、活躍してもらう予定です。」


少し言いよどむ彼に、モニター室の男は疑問を覚える。何故?3人目を自分に紹介しない?

その手に持っている写真と資料は一体なんだ?


今後、実用できる部隊というなら、なおさらだ。確認を含め、尋ねる。


「ところで3人目は一体どんな人物なんだ?今、目の前で、見せてくれている実績で充分、信用できるが、協力してもらうからには、全てを知っておきたい。」


その言葉に、男は少しため息をついた後で、こちらを見て、彼を近くのテーブルに誘い、

ゆっくりと資料と写真を並べていく。


「ハッキリした事は正直、我々にもわかりません。写真技術の無い頃だと、伝記や

絵巻物でしか、語られていませんから、いいですか?


始めは十字軍戦争、次はヨーロッパでの革命&動乱、この国で言えば、関ヶ原に

戊辰戦争、アメリカ南北戦争、第1次大戦、2次、朝鮮、ベトナム、中東、

そして現在の地域紛争、


あらゆる所で“彼の存在”が確認されています。」


「全員、同一人物か?名前は、彼は一体…?」


伝記や絵巻の資料絵はいざ知らず、白黒から、カラー写真に至る全てに同じ男“争侍”

が映っている。モニター室の男の驚愕に、プランの提案者は静かに答える。


「我々にもわかりません。ただ、あだ名はあります。戦場の鬼“争鬼(そうき)”という

名前がね。」…



 部下達の悲鳴、爆発、そして“アイツ”の笑い声。ボゴ・タルタの現指導者は今や、周りに隠す事なく、全身を震わしていた。


殺す予定の魔法少女とか、味方の被害など、どうでもいい。目の前で銃を撃ち、こちらに

突撃してくる“笑顔の敵”を自分は知っている。


「この銃声、戦い、そして笑い声、かつて、俺は聞いた。」


側近の部下達に銃弾が当たり、崩れ落ちる。敵はもう、すぐ目の前だ。


「84年、レバノス、サンタワイデ空港、左翼陣地。避難民を虐殺する予定の我々は、

たった一人の“観光客”に壊滅させられた。そして、俺は奴の存在を知った。


そうか、そういう事だったのか?帰ってきた。奴が戦場に帰ってきたのだ。」


全身血まみれの男が笑いながら、自分の前に立ち、手榴弾の安全ピンを抜く。

指導者は絶叫と共に、彼の名前を叫ぶ。


「争いの鬼、争鬼がぁぁぁ!!」


「久しぶり?だな!とりあえず、一緒に逝こうぜ?」


悲鳴には場違いな陽気さで立った鬼は血まみれの顔で笑い、現指導者のほぼゼロ距離で

手榴弾を爆発させた…



 ようやく静かになった辺りを見回し、争侍はため息をつく。全身に銃弾を喰らい、

爆弾の破片は、所狭しと体中を切り刻んでいる。虫の息で喋る事も出来ない。


(これでいい。)


静かな感慨と共に心で呟く。魔法少女はBAD ENⅮを回避し、自分も“生きる”という

BADを免れた。


正に最高の死。GOOD ENⅮだ。悔いも何にも残らない。後は空から、自分が殺した

敵か、天使が…ほら、霞んだ視界に、何かが降りてくるのが見えてきた。

ありがたい事に天使だ。


最近の子は随分とハイカラな衣装だな。うん?いや、違う、これは死神。よく見りゃ、

救出予定の魔法少女?後ろにカルロとアーネンもいる。


死なせてくれと言いたいが、体は動かないし、声も出ない。何とかもがく争侍の頭を

少女がそっと抱き寄せ、何かを囁き、それと同時に暖かい光が自分を包んでいく。


(この感触は久しぶりだったな。いつも、この暖かい感じに騙されて、

後ですっごい後悔すんの…俺…でも)


「頑張れ!ソージ、生きて帰るぞ?」


「ちょっとアンタに死なれたら、入稿やりにくいじゃん、汚ねぇ野郎DEADは

ジャンル的にお呼びじゃないの!!」


(どうやら、今回は仲間という“悪くないサプライズ付きのようだ。”

BADかGOODの判断は後回しだな…)


うっすらと目を開ける。泣きそうな少女の笑顔がパッと輝く。

さて、自分はどんな顔をしたらいい?なんせ、今までずっとBADだったからな…


とりあえず争侍は再び目を閉じ、少し考える事にした…(終)


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