第17話 勝負 Aパート
宿舎の自室で少し休むだけのはずだったのだが、いつの間にか眠ってしまっていたようで、目覚めた時には朝だった。慌ててベッドから抜け出し、食卓に向かうと、ちょうど先生が朝食を済ませお茶を飲んでいた。
「おはようユウキ君、よく休めたかな。昨夜は起こそうとも思ったんだがあまりに気持ちよさそうに寝ているもんだから起こすのが忍びなくてね」
「気を使わせてしまってすみません先生、朝食の用意ぐらいは僕がするべきだったのに」
「構わんさ、休むように言ったのは私だ。それよりお腹が空いただろう、昨日の夕飯用にステーキサンドを買ってきてあるから温め直して食べるといい」
言われた通りにパンの間からステーキを取り出してフライパンでさっと温めて食べる。朝食にしては重たいが、考えてみれば毒を受けてからろくに食事をする暇がなかったので、二日ぶりのまともな食事だ。
二日の間何も食べていなかった訳ではないのだが、食べたものといえばセラムさん特製の毒を受けて弱った体の回復を助ける作用のあるというというゼリー飲料くらいだ。
遅めどころの騒ぎではない夕食を済ませた後、先生と一緒にラボへと向かう。先生は朝一番でウリエルさんの様子を見に行ったそうだが、まだ目覚めていなかったらしい。
「おはようございます。セラムさーん」
「うるせえ!セラムなら今しがたやっと眠ったとこだ、静かにしろ!」
「姐さんもうるさいよぅ」
寝ていたはずのウリエルさんがベッドで上半身を起こして座っており、代わりにセラムさんが足で体を捕まえられて寝技をかけられたような状態で眠っていた。
「これってどういう状況なんですか?」
「どうもこうもねえよ。こいつ、ここ何日かまともに寝てなかくてふらふらしてやがったから寝ろっつったんだが言う事聞きゃしなくてな、捕まえて無理やり寝かせてたんだよ」
寝かせたというよりは傍から見れば締め落としたの間違いでは無いかと思える体勢だ。
「ウリエルさんの方はもう大丈夫なんですか?」
「飯食って寝たからもう充電満タンだよ。アリアのやつはもう少し心の整理をしたいみたいだからもうちょいそっとしといてやれ」
やっと会えるかもと思ったのだが、仕方がない。人間として生きてきたのに実は天使の別人格でした、なんて言われたら誰だってパニックになるだろうし心の整理に時間もかかるはずだ。
「さてと、勇気、お前に話がある」
「何ですか?」
「お前、もう戦わなくていいぞ」
突然の戦力外通告に事態が呑み込めずに固まってしまう。
「何マヌケづらしてんだよ。大方プレアーブレードは自分にしか使えなのになんでそんなこと言ってんのかとか思ってんだろ」
天使には人間の心を見透かす能力があるのでは疑いたくなる程完璧に言い当てられてしまった。
そもそも戦わなくていいと言われても、封印機構を持つプレアーブレードは僕にしか使えない上に戦える天使がいないからシルフィーア様に世界を守るために戦ってほしいと言われた転生したのだ。
だからはいそうですか、と素直に言えるわけがない。それにいくらウリエルさんが強いと言っても僕が戦わなくていい理由にはならないはずだ。
「お前が思ってる通り確かにブレードはお前にしか使えねえ。だがよ、そもそもブレードが必要な理由はどれだけ倒しても無限に復活のできる怪人どもを封印する為なだけだろ。だったら一度倒して瘴気に戻す為に戦うのは誰でもいい訳だ」
「それはそうですけど、でも!」
「でももヘチマもあるか!戦闘のプロの俺が復活した今、ド素人のお前が出る幕はねえって言ってんだ!お前はただ封印するだけでいいんだよ。エレンドルの稽古とセラムのサポートのおかげで今までどうにか戦えてた見てえだがな、それで勝ち続けられたのは相手が弱かっただけだ!今までよりも強い奴なんざいっぱいいるんだ」
ウリエルさんの言う通り、僕は元は喧嘩どころか格闘技も、スポーツだってろくにやって事の無い病弱な人間だった。そんな僕はウリエルさんから見れば、戦力としては当てにできない役立たずに見えるのだろう。
「お前、セラムに聞いたが転生する前はずっと病院暮らしで碌に外の世界で遊んだこともねえんだろ。折角転生して丈夫な体になったんだから何も命かけて戦ったりせずにやりたいことやったらどうだ?普通の人間には無い本当の意味での第二の生を楽しめよ」
少し口が悪くて分かりづらかったが、戦うな、というのはウリエルさんなりの気遣いで言ってくれているのだろう。
封印するだけで戦わない、つまり先生との厳しい稽古もしないでいいし、戦闘で傷つくこともない。こないだみたいに毒を受けて生死の境目をさ迷うことも無いし、戦闘のプロが戦えば余計な被害も出さずに怪人を倒せるのだろう。
なんだ、良いことづくめじゃないか。だったらこの先は教会の手伝いをしながらこの世界でスローライフな生活を送るのも悪くは無し、いっそ商売の勉強をして自分の店を開くのだって楽しそうだ。傷つくことなく全ての決着がついたらこの世界を旅してまわるのも悪くない。
……悪くは無いけど、心の奥で違うと叫んでいる自分がいる。
僕が好きなヒーロー達は自分よりも強い戦士が現れたからといって戦うことを止めただろうか。いいや、そんなヒーローはいなかった。
例え自分よりも強い味方がいても、体が傷つきボロボロになっても、勝ち目が無い強大な敵が現れても誰かの笑顔の為に戦い続ける、それが僕が憧れ、転生した僕が目指したヒーローだ!
「折角の申し出はありがたいですけど、お断りします。確かに僕は戦闘に関しては素人だしウリエルさんに比べたら弱いです。でも僕は生前にお世話になった人達や友人、何より両親に恩返しすることが出来なかった分この世界の人々の笑顔を守ると誓ったんです!だから戦うことを止めません!」
僕の返答が気に食わなかったのか、鬼のような形相で睨んでくるウリエルさんに恐怖し、顔を逸らしそうになるが、こちらの意思は変わらないことを示すため必死に耐える。
「おもしれえ、俺の言うことを心が聞けねえってんなら体に教え込んでやるよ!表出ろやゴラァ!」
鼓膜が破れそうな声量に耐えつつ思う。絶対に元ヤンか何かだよこの天使様。
「ああもう、うるさい!二人して盛り上がってるとこ悪いけど姐さん一人じゃ戦えないからね」
この騒ぎで完全に目が覚めてしまった様子のセラムさんの言葉にぽかんとするウリエルさん。
「え、何で?俺もうメチャクチャ元気だから大丈夫だぞ」
「いや姐さん力が減退してるって言ったでしょ。だからホーリーギアを長時間纏って戦えばまた倒れるよ」
「そこはお前、気合と根性でだなあ」
「いや精神論じゃどうにもならないかんね。戦闘中に倒れたらどうすんのさ」
そこはだなあ、と言ったもののいい案が無いらしく、先ほどまでの威勢はどこへやら、ウリエルさんは口ごもってしまった。
「だから倒れないようにホーリーギアには制限つけたから。一回に装着していられる時間は3分間だけ。過ぎれば強制的に変身解除されするリミッター付けたから」
またまた鼓膜が破れそうな声で「何余計なもんつけてんだよー!」と悲痛な叫びがラボ中に木霊した。
「いや、だったら3分以内に怪人を倒しちまえばいいだけじゃねーか」
「ゾアッパ兵でてきたらどうやっても3分超えると思うけど」
痛いところを突かれたらしく、セラムさんを恨めしそうに見ながら固まってしまった。
「という訳でこれからもユウキ君頑張ってねー。ちゃんとサポートするし、姉さんのことは時間制限付きだけど戦力が増えてラッキーぐらいに思っといてね」
言いたいことは言い終わったとばかりに少しでも音が気にならないようにと思ったのかベッドに潜りこみ、規則的な寝息を立て始めた。
「クッソ、なんか納得いかねえ。勇気、ブレード持って表出ろよ。アリアの記憶で大体のテメエの実力は分かってるが俺が直々に勝負して実力を確かめてやるよ」
まだ出会ってそれほど立っていないが分かる。実力云々とは関係なくただただこの天使様は暴れたいだけなんだということが。
まあ、僕としても弱いのは自覚しているがあれだけ言わると一矢報いたくなるのが男の性というものだろう。なので素直にこの勝負に乗ることにする。
封魔戦士 シールセイバー 武海 進 @shin_takeumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。封魔戦士 シールセイバーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます