<<ドムとザク>>

下らない話。


もう何度も何度も書いたが、とにかく第一病棟隔離室はヒマ。

一日に数回看護師さん等が来てくれるが、皆いつも忙しそうで、話し相手になどなってくれたこともない。

本はナースステーションの中の本棚にぎっしり収まっていたので、お願いしたら貸してくれたかもしれないが、何を頼んでも大抵断られるので、いつの間にか私は無気力な人になっていた。


せめてノートと鉛筆があれば何か書いたり描いたりできるのに。


する事といえば、とにかく考えること。後は水を飲むか、部屋の隅にある便器の顔を見に行くだけ。運動もしてみたが、3日で飽きた。


ある時、用もないのにお便器に座ってみたら、天井にTVのモニタのようなカメラがついているのに気がついた。カメラは丸く、ピンクの光を放っている。反射的に「ガンダム」に出てくるモビルスーツのモノアイを思い出す。カメラよ、お前の名前は『ドム』にしよう。

そうすると、便器の後ろに手をかざすと白い光が灯って水が流れる、お前にも名前をつけなあかんな。ライトがたくさんついていたので、『王蟲』というのも一瞬考えたが、別にライトが動いてくるようなこともないし、『ドム』と揃えるために『ザク』にした。


この話はここで終わりなのだが、一つだけ良いことがあった。

いつの間にか、便器で2回水を流すと、一人の男性看護師さんが気がついてくれて、「じゅりさん、何か用かい?」と病室に来てくれるようになったのである。合図になっちゃったわけ。

隔離室にナースコールはついておらず、看護師さんを呼ぶのは結構難しかったので、涙が出るほど助かったのであった。

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