<<ミルク色の光の中で>>
次に目が覚めた時には、私は病室のベッドの上にいた。手に、私がこの病院にお泊りする羽目になった例のいい加減な書類を握りしめていた。
部屋は静かで、何の音も聞こえない。
直射日光でもない、蛍光灯でもない、ミルク色の柔らかい光が部屋中隅々にまで溢れている。
窓は?
一つはドアの横にあるが、しっかり鉄格子が刺さっている。
もう一つの窓は大きいが、全面曇りガラスである。ここにも全面的に大きな鉄格子がハマっていて、窓との間は廊下になっている。
そして部屋の中にあるのは私が寝ていたベッドと、奥の方にある便器。
着ているものは、薄手で一寸みすぼらしい病院仕様寝間着。
ここは留置場? それとも病院、それも精神病院?
しばらくベッドに横たわっていたが、誰も来ない。
私はSAD(季節性情動障害、季節性うつ病等と呼ばれている。特定の季節にのみうつ病の症状が出る)持ちなので、とりあえず、ベッドの位置を部屋で一番光が入るところに移す必要がある。
ベッドを半分くらい引きずったら、
「何しとるんじゃ!」
年配のおじさんの声がした。彼はグレーの作業着姿でモップを持って、鉄格子の中を覗き込んできた。
そんなこと言われたって、この方が健康に良いじゃん!
「だめだめ。ベッドは元の位置に戻しなさい」
お掃除おじさんは譲らない。私は仕方なくまたベッドを引きずって元の位置に戻した。
「そこは監視カメラ入っているからね。ベッドの位置をちゃんと元の通り戻しときなさい」
背中の方からおじさんの親切(?)な忠告が飛んできた。監視ぃ~!?
しかし部屋の上部や天井を見ても、それらしいものは見当たらない。
そうこうする内に、ベッドから見れば左方向にある鉄製のドア(二重になってる!)が開き、いい匂いがしてきた。
「じゅりさん、おはようございます。目は覚めましたか? ご飯ですよ」
若い男性の看護士さんが異様なほどに横に長いテーブル(机?)を運び込んできた。ベッドに座って食事をするのに適した高さのテーブルである。
食事は、既にあちこちで書いているが、普通に美味しかった。しかし食事は徹底して和食であり(私が糖尿病持ちのせいね…)、トーストなどパンを食べる機会には入院中、確か1回しかなかった。
食べ終わってお皿が下げられると、歯ブラシと歯磨き用のコップと、枕かそら豆か、という謎の形状の容器(うがいキャッチというらしい)。
こんなものまで持ってきて貰えるなんて、とんだViP扱いだとも思ったけど、こんな生活が続いたら太りそうだ…。
ベッドに横になり、2枚あてがわれていたのタオルケットの内、1枚はベッドのシーツの上に敷き、1枚を身体にかけた。
第1病棟のベッドには、万一のとき(患者が暴れたりした時にこれで押さえつける)用の拘束ベルトが装着されている訳だが、普通に寝るとこのベルトが硬くて背中や腰に当たって痛いのだ。
しかも、空気が湿気たっぷりなので、すぐタオルケットが汗っぽくなってくる。気持ち悪いよ~。
すっかり不機嫌になった私はベッドの上で体育座りになり、とりあえず自分の髪をいじっていた。
その内に部屋のドアを開ける音がして。
気がつくと入口に、白衣の下に紺のジャージを着た30代半ばくらいの年齢の解らん男性が立っていた。
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