<<運動療法>>③ソフトバレー

ある日、散歩を終えて体育館に戻ると、W君が理学療法士の人に見守られて、一人バスケットボールに興じていた。

「じゅり、お前もやってけよ!」

「はァ?」

よくもこの運動音痴じゅりちゃんに向かって…と思ったが、ロマンスグレーのイケメン理学療法士さんがニコニコと私を見ているので、断り切れなくなってボールを受け取った。ドリブルしてシュートをかける。

「あ~っ、惜しい! じゅり惜しい!」

親切なW君は応援してくれるが、学生時代だってろくにシュート決めたことなんてないのにィ~ッ!

そのとき、散歩組が庭から帰ってきた。足音が体育館に響く。

「女性が多いね。じゅりさん、皆でソフトバレーやってみないかい?」

と理学療法士さん。W君には悪いが、彼も戻ってきた看護師さんと話を始めたので、私もいつものデイルーム仲間たちに合流して、6人程で円陣を組んで、打ち合いを始めた。ルールはただボールを落とさないようにするだけ。

ボールがフニャフニャしたお手玉のようで柔らかい。お手玉のようである。皆、歓声を上げながらボールを受け止め、投げる。そのうちにイタズラが始まってきて、投げるふりをして手の中に死守したり、向かいの人に向かって投げると思いきやいきなり隣の人に投げたりして皆夢中で遊んだ。

気がついてみたらお風呂の時間になっていた。

「じゃあこの辺でおしまいにしようか」

理学療法士さんが体育館の鍵を閉めて、気持ち良くひと汗かいた一行は病室へと続く廊下をはしゃぎながら歩いて行った。

「皆、楽しかったかい?」

「はいっ!」

「楽しかったです!」

しかし私の口からは、

「でも本当は一番楽しかったのは先生でしょ?」


ああ、また余計なことを言ってしまった(笑)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る