<<運動療法>> ①ラジオ体操

第2病棟に移った日、またしても自由が増えた。

「明日からラジオ体操に参加していいよ」

参加者は11時、ナース・ステーション前に集合。男子の病室の前の廊下をぞろぞろ通って病院の小さな体育館へ行く。

体育館でお互いに適当な距離を取って位置につく。私はラジオ体操の上手い人の後ろとか、話してみたい人の隣とかを選ぶことにしていた。どういう訳かラジオ体操時の体育館はデイルームの真ん中のテーブルの如く和やかにくつろいだ雰囲気で、話しかけやすいのだ。

それと一寸した発見があった。車椅子に乗っている患者さんは上半身だけでも一緒に参加できるし、逆に歩行器を作っている患者さんでも下半身だけで参加できるわけ。

かくて身体の障害も合併している患者さんにはラジオ体操は一種のリハビリとして機能しているのであった。う~む、恐るべしラジオ体操。

ちなみに一番前に出て見本を示している理学療法士さん(だと思う)たちは皆、年配の方に至るまでスタイルがシュッと良いのが印象的だった。


少し不思議なのは、私の退院の少し前の期間(1週間ほどかな)、私が頼みに行かないと看護師さんたちがラジオ体操を始めてくれなかったことだった。

「そろそろラジオ体操の時間だよね?」

私がデイルームに出ると他の患者さんがつまらなそうな顔で

「今日、ないんだって…」

「今日はやるかやらないか解らないそうよ」

あいまいな情報に業を煮やした私がナース・ステーションに

「そろそろラジオ体操の時間ですか?」

と訊きに行く。そうすると

「ああ、ラジオ体操の時間だね。行こうか」

全くの偶然だったのか、それとも患者さんたちに自主性を持たせようとする何らかの意図があったのか、よく解らない。私に何らかの(リーダーか旗振り役のような)役割が与えられていたのかもしれない。

と書くと精神病患者よく語るところの陰謀論みたいに思われるかも知れないが、ナースステーションの会議で、患者の○○さんには今後こういう風に接していこう、とか、どうも、患者さんごとに治療方針を考えて決めていた気配がするのだ。

今となっては聞くよすがもないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る