死を想う
厚い雨雲に押しつぶされた春が自殺を図った
葬列に並ぶ人は誰もなく、気にも留められず消えていった彼女を羨ましいと思った
雨の降り止まない街の大通りは、シャッターで締め切られて悲観的に佇んでいる
死を悼むみたいに呆然とそこに佇んでいる
海が見える家の少女は夏に誘われて姿を消した
あの日焼き付いた笑顔が忘れられないでいる少年は生きている事が疎ましくなった
深夜ラジオでは今日も死にたがりたちの不幸自慢が始まった
自分と同じ人間がいることに安堵して、明日生きる為の理由をこじつけている
批判ばかりされた美しい画家は自宅の風呂場で手首を切った
彼女が最期に残した絵画は人の浅ましさを描いたようなおぞましい絵だった
多くの人に惜しまれて旅立ったとテレビの向こうで涙ぐむキャスターは言った
その姿はまるで死神のように醜いものに見えた
小さな部屋で物語を描く男は何かに怯えながらペンを握り続けた
彼の名前が売れる度、彼は解放されたような清々しい表情を見せていった
年を締めくくろうとする雪の降る夜に
彼は足場のない部屋で一人首を括った
遺書はなく、いくつかの原稿だけが遺れされていた
彼のいなくなった世界でも彼の名前は生き続けている
さんざめく日々の中で、人の死は流れゆく四季のようにいつしか薄れていく
薄く広がった雲のように、何事もないようにたゆたうばかりだ
誰が為に送る言葉たち 根本仁 @Amadare_N
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。誰が為に送る言葉たちの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます