エピローグ
遠くから運動部の少女たちの声が聞こえてくる。
季節は進み、栞が櫻ノ宮で迎える二度目の夏がすぐそこまでせまっていた。肌を撫でていく風は少し暑さを感じさせる。一学期も残り僅か。入寮したばかりの頃には戸惑った様子ばかりだった新入生たちも、今では独特なこの櫻ノ宮に随分と馴染んでいた。
「先生、この本はどちらに入れれば良いのでしょう?」
「ああ、それは向こうの書架に頼む。スペースが空いているから、そこに適当に突っ込んでおいてくれ」
「かしこまりました」
二度目の夏を前に、栞は教頭から図書委員会の顧問を任されていた。今まで図書の管理は委員の生徒に任せきりにさせており、顧問の先生は文芸部とかけ持ちとなっていたのだが、どうせなら顧問は別にいた方が良いだろうと栞にそのお鉢が回ってきてしまっていた。
それと同時に董子は今まで無所属で何にも属していなかった身分から、図書委員へと立候補した。身体の具合が随分と良くなったことに加え、自身もきちんと櫻ノ宮の一員でありたいから、というのが表向きの理由だったが――もちろんそれも全くのウソということではなかっただろうが――櫻ノ宮で少しでも情報を知っている者なら誰でも栞が図書委員の顧問になったからだとわかっていた。
もちろん、それに良い顔をしない教員もいる。だが、多くの教員や生徒たちはそんな二人の関係を認めるとまではいかないまでも、口を出さず見守ってくれているようだった。董子自身、あれから場に馴染むよう少しの努力をしたようで、今では僅かだがクラスにおしゃべりを出来るような友達が出来ていた。
「ねぇ、先生」
「どうかしたか?」
「この間、姉から手紙が来たのです。この夏には少し長い休みが取れそうだから、また櫻ノ宮を訪ねたいと」
「ほう、それで?」
「先生のことをもっと知りたいと書いてありました。私が手紙でしょっちゅう先生のことを書くから、興味がわいたようです。もしかしたら、私に相応しい相手かどうかを見極めるつもりかもしれません」
「ちょっと待て。お前は一体どんな風に私のことを書いてるんだ?」
栞の言葉にくすくすと董子が笑う。
「大切な人。そう書いているだけです。それを、姉がどういう風に受け取っているかはわかりません」
最後の本を書架に収めて栞は大きくため息を吐いた。
櫻ノ宮での日々はまだ当分終わりそうにない。
櫻ノ園の偏執愛 ‐ パラノイア ‐ 猫之 ひたい @m_yumibakama
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