水音の決闘

赤魂緋鯉

水音の決闘

「お、前……、いい加減、死ね、人間……ッ」

「貴様、こそ……。素直に……、くたばれ……、魔族が……ッ」


 岩ばかりが転がるただっ広い荒野のど真ん中で、血みどろになった2人が引っくり返って、息も絶え絶えにお互いを罵り合っていた。


 人間、と呼ばれた方は、美しい金髪に白磁の様に白い肌を持つ、輝く銀色のよろいまとっている若い女性。

 魔族、と呼ばれた方は、ボサボサの黒い短髪に浅黒い肌を持ち、赤い巻き角が左右に生える、光沢がない黒い鎧を纏うこちらも若い女性だった。


 雰囲気こそエレガントとワイルド、と正反対だが、どちらも長身であり、戦うためだけに絞り上げられた肉体と、街を歩くだけで目を引く美しい顔立ちをしている。


「今日こそ、殺す……」

「こちらの、台詞だ……」


 そんな2人は顔を思い切りゆがめながら、膝立ちの状態で殴り合いを始めた。


 2人ともそれぞれの軍では最上位の実力者で、剣を打ち合わすだけで地面がえぐれ、魔法を打ち合う度に地形が変わり、常人なら100回は死ぬ程傷を負ってもすぐ治るなど、尋常ではない強さとタフさをもっている。


 だが、その強さゆえ、敵味方共に被害が尋常ではなく、戦闘の度に要衝で一騎打ちを演じ、血だらけになりながら引き分ける事を20回以上続けていた。


「おああああ!」

「ぬおおおお!」


 1時間近く殴り合い、今回もいつも通り引き分けとなるはずだったが、


「あっ」


 双方の身体の力が抜け、ぐらり、と前の方に倒れ始めた。


「――んっ!?」

「むあっ!?」


 疲労がピークに達していた2人は、そのまま止められずお互いの唇が触れあった。


 これは、人間の魔力……! なるほど、このまま吸い尽くしてやれば……!

 と、コイツは考えるだろう。受けて立ってやる……!


 そこで、お互いにお互いの魔力を吸収できる事が分かり、そのまま相手の顔を両手掴つかみ、お互いの口腔こうくう内に舌をねじ込んだ。


「ふ……っ、おっ!」

「んぐぐぐ!」


 最初こそ相手への殺意全開でにらみ合っていたものの、


「ん、んあ……」

「ひ、あう……」


 うぞうぞと動き回る相手の舌が、だんだん気持ち良く感じる様になり、無意識の内にさらなるものを求め始め、貪る様に口内のあらゆる部分を舌先で触れ合わせる。


「……んふ」

「……あ、はっ」


 ぱたた、とよだれが地面に垂れるのもいとわず、ひたすら相手と自分の耳に、ピチャピチャと蠱惑こわく的な音を響かせていた。


 何だこれは……! こんなの知らぬ……ッ!

 魅了でもかけているのか……ッ 頭がおかしくなる……ッ!


 そんな未知の感覚に襲われる2人は、ついに足が立たなくなってへたり込んだ。


 気がつけば、双方とも蒸気が見える様な汗だくでとろけた顔をしていた。


「き……、きしゃま……、わたひに、にゃにをすた……」

「おまえこひょ……、こにょ、ひ、ひきょうもにょ……」


 体力をすさまじく消耗した両者は、汗によって全身ビッショビショで、滑舌すら怪しくなっていた。


「くっしょ……、今日はこりょへんに……、しといてやる……。ん……っ」

「しょれも、こっちの台詞せりふだ……。あ……っ。次は絶対こりょす……」


 結局引き分けということになり、双方腰を押えながらよたよたと撤退していった。


 その2日後。両者は同じ荒野にて再び相対した。


「今度は前の様には行かぬぞ! 覚悟しろ!」

「おうおう望むところだ! かかってこい!」


 いつもの殺し合いもそこそこに、彼女達はお互いの肩を掴んでその唇を合わせ、自身の舌を得物に第2ラウンドへと突入した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水音の決闘 赤魂緋鯉 @Red_Soul031

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ