俺はお前のこと……
「二菜はやらない……だと……お前……!」
「おっと、待てよイケメン」
「イケツラだ!」
「どっちでもいいよそんなもん……ちょっと回り見てみ?」
「何……?」
周囲を見渡すと、興味深そうにこちらを見ている視線が集まっていた。
そりゃそうだろう、一人の女の子を巡っての言い争いなんて、格好のネタだ。
しかもその女の子は、後から来た男の背中に隠れるような形になっている。
どう考えたって、イケメンの側に問題があるように見えるだろう。
「どうする? まだ続けるか?」
「くっ……!」
ぎりっ、と歯軋りが聞こえそうなほどに、往面が悔しがっているのが分かる。
なんでこいつ、ここまで二菜にこだわるんだ……?
「……わかった、これ以上の注目は俺も本意じゃない、今日はひくよ」
「今日だけじゃなく今後もこいつに関わるな、俺は絶対お前を認めない」
「それを決めるのはお前じゃない……天音さんだ」
そういうと、俺から目線を外し、二菜に近づこうとする。
おっと、近づかせるわけないだろ?
そんなに睨まれても、どくわけないだろ?
「ごめんね、天音さん……怖がらせたいわけじゃなかったんだ」
「……そうですか」
「今日はこんな終わりになっちゃったけど、今度は正式に、デートに誘わせてもらうね」
「え、いりません」
「ははは、照れなくていいよ……また、学園で」
「心の底からいらないんですけど……」
――――あ、ダメだ、こいつなんにも分かってないわ。
なんで二菜が相手になると、言葉が通じなくなるんだろうね?
それにしても……。
「……はあぁぁぁぁ……つ、疲れた……」
「先輩、ありがとうございました……」
「いや、いいよ、あれは俺も悪かったわ」
まさかあそこまで強引な手を取ってくるとは思わなかった。
なんやかんや言いつつも、あいつもそこまでするとは思っていなかったのだ。
……いや、一度無理矢理二菜の手を取り、教室内に引き込もうとした事があったので、もしかすると片鱗はあったのかもしれない。
今後は、もっと気をつけないといけないだろう。
「学校始まっても、お前もう絶対うちの教室来るなよ」
「わかってます、さすがに今日のあとだと、怖いですし」
ほんとかよ……こいつ、前々から来るなって言ってたのに来てたからなぁ。
「……そう言いつつ来そうなのがお前なんだよなぁ……はぁ……わかった、俺から行く」
「え?」
「だから、昼は自分の教室で待ってろって言ってんの」
「迎えに来て……くれるんですか?」
「そう言ってんだろ?」
「……くふふ、いいんですか? 勘違い、されるかもしれませんよ?」
「もう今更だろ……」
そう、今更なのだ。
結局、俺が自分たちの関係を認められなかっただけで。
認めてしまえば、ああそんなものか、と思えてしまうのだから不思議なものだ。
「と、ところで先輩、さっきの『俺の二菜はやらない』についてですけど――」
その時、遠くでドン! と音が鳴った。
どうやら、花火が始まってしまったようだ。
「お、花火が上がりだしたみたいだな! ったく、場所取りしてないのに……」
「先輩! は、花火も大事ですけど、もっと大事な事が……!」
「それは後だ後、花火終わっちゃうからさ……ほら」
そういうと、二菜に向けて手を出した。
俺から、二菜の手を取るように動いたのは初めてではないだろうか?
その手を見た二菜が、ぱちりと瞬きをしたかと思うと、ぼっと頬を染め……
「よ、よろしくお願いします……」
「おう」
そうして、俺たちは歩き出した。
もう、絶対に離れないよう、お互いに強く手を握りながら……。
* * *
「わぁ、綺麗ですね先輩……!」
「やっぱこうやって生で見る花火は別格だなー!」
空を覆いつくすように広がる、色とりどりの鮮やかな光に、俺たちは目を奪われていた。
すぐ近くで上がっているので、こちらまで火の粉が飛んできそうな気がするほどだ。
ドン! と音がするたびに、空に大輪の花が咲く。
ちらりと隣の少女を見ると、魅入られたようにぼう……っ花火を眺めていた。
そして俺は、そんな花火を映す二菜の綺麗な青い瞳に吸い寄せられるように、魅入られてしまう。
(花火よりも……綺麗だな……)
ぼうっと横顔を眺めていると、流石に視線に気付いたのか、二菜が俺に視線を移した。
「どうしました、先輩? 花火、見ないんですか?」
「花火もいいけど、二菜の横顔が綺麗だなって」
「えっ……ええっ!? きゅきゅきゅ、急にど、どうしたんですか!?」
あっという間に耳まで真っ赤にして、目線をきょろきょろとさせる二菜を見て、思わず笑ってしまう。
こいつは、自分から好きだのなんだの言うのは全然平気なのに、こうやって攻められるとすぐふにゃふにゃになるんだよなぁ……。
「な、なんで笑ってるんですかー!」
「いや、可愛いなって」
「かわ……っ!」
ああ、だめだ、ほんとに可愛い。
なんで俺、今まで気がつかなかったんだろう?
「なぁ、二菜」
「はい……」
「俺さ、ずっとお前と俺の関係ってなんだろうなって思ってたんだ」
「っ! は、はいっ……」
「春からずっと一緒にいたから、見えなくなってたのかな? でも、今日やっと気付けたよ」
「せんぱい……それって、もしかして……」
二菜の綺麗な瞳が、潤んでいるのがわかる。
さっきとは違い、悲しい涙で潤んでいるんじゃない。
俺は……俺は、そんな二菜を……。
「俺! お前のこと……妹みたいに思ってたんだ!!」
「先輩! 私も先輩のこと……はい?」
ドン! と、ひときわ大きな花火が上がった。
その花火を見た観客たちのキャー! という歓声が、あちこちで上がる。
そして俺の目の前には、ぽかんと口をあける二菜が……。
「おいおい、口開いたまんまだぞ、可愛い顔が台無しじゃないか」
「……ん? あれ……え? あ、あはは……先輩、ちょっと意味ガワカラナイデス……」
「いやー、すごいスッキリした! 俺兄弟とかいないからさぁ!」
「はぁ……」
「従姉妹はいるんだけど、年に1回2回しか会わないし!」
千華おば……おねーさんのとこのあいつらはなんていうか……そういう風に見れないっていうか。
多分小さい頃、散々いじめられたせいだろうなぁ……。
あ、思い出したら泣きそうになってきた。
ぱんつ脱がされたり、プロレス技の練習台にされたり……酷いもんだまったく。
「あのー……さっき、俺の二菜って……」
「え、そんなこと言ったっけ? ……俺の二菜? うちの二菜?」
「あれ……あれ?? なんか、大分印象が変わるような……」
「さっきはほんとにキレそうになったけど、そりゃ可愛い妹を、あんなヤツにくれてやるわけにはいかないもんなぁ」
あの時湧いた怒りの感情は、恐らく二菜に対する保護欲から出たのだろうと、今なら思う。
自分の家族、それも可愛い妹に無体を働くなんて許せるわけがない!
うんうん、と納得する俺と、呆然と立ち尽くす二菜を、続いて上がった花火が照らす。
「はー、スッキリした……二菜、これからもよろしくな!」
「な……」
「?」
「なんでですかーーーーーーーーーー!!!!」
その日。
今年のお祭り、最後にして一番の特大花火が上がったその時。
間違いなく今年一番の「なんでですか」が、会場中に響き渡った……。
*
「妹みたいに思ってる」なんて言って誤魔化したけど……。
言えるかよ、今更。
一人の女の子として、お前の事が大事だ、なんて。
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