そいつに触れてもいいのは

 うげぇ……嫌な奴に見つかってしまった……!


 同じ学園の連中に遭遇するのは想定内だったし、まぁ誰かに会うだろうなとは思っていたが、まさかここでイケメンくんに遭遇するとは……。

 この人混みの中で俺たちを偶然見つけた、というのはもはや運命的であるとも言えるだろう。

 そんな運命いらないのに、面倒なことこの上ない!


「久しぶりだね天音さん、元気だった?」

「……どうも」

「夏休みの間、一度も来てくれなかったから心配してたんだよね!」

「私も、色々と忙しかったもので」

「そうなんだ、夏の大会、応援に来て欲しかったなぁ」

「はぁ」


 そうだな、お前、毎日俺の部屋に来てたもんな。

 あれを忙しいと堂々と言えるお前を、俺は尊敬する……!


「浴衣、凄く似合ってるね……綺麗過ぎてビックリしたよ」

「そうですか、ありがとうございます」

「もしかして、俺に見せるために浴衣を着てくれたのかな? なんてね」

「……はぁ? なんでですか?」

「こんなに綺麗な天音さんと一緒にいるのを見られると、色々と噂されそうだね」

「…………はぁ」



 それにしても、ここまで塩対応されてよく諦めないなぁイケメンくん……。

 ぱっと見、イケメンくんは名前の通りよく整った容姿だし、お似合いに見えるんだけど、二菜の対応のせいで完全に空回りしてるようにしか見えないのが凄い。

 ……ほんと、お似合いに見えるの、ぱっと見だけなんだよな……。


 つーか、二菜のすぐ隣に立ってる俺のこと、気付いてる? 見えてます??

 いや、気付いてないというか、これはもう目にも入れたくないってやつだな。

 視線が二菜に固定されてて、一切こっちを見ようとしねぇ。



「悪い、ちょっといいか?」


 イケメンくんに捕まって移動もできないし暇だなぁ、どうしようかなぁ……

 そんな風に考えている時だった。

 イケメンくんの連れてきた男子連中に声を掛けられたのは。

 ああ、君らも暇なんですねわかります、ここ休憩所だしなんもないもんね。


「えっと……?」

「ああ、悪い、俺たちあいつの部活仲間なんだけどさ」

「なーなー! ぶっちゃけ、あの子と付き合ってんの?」


 おお、グイグイ来る奴だな。

 普段話すようなことのない陽キャすぎてビックリするわ。


「いや、付き合ってはない……かなぁ」

「ふーん、なんか煮え切らない態度だな? どういう関係なんだ?」

「どういう関係なのかって聞かれると……うーん、言語化しづらいな……」


 恋人関係ではない、これは間違いない。

 かといってじゃあ友達か? と言われると……これも違う気がする。

 今の俺たちの関係を表現する、適切な言葉が出てこない……難しいな。


「じゃー、なんにしても付き合ってはないってのは間違いないんだなー!」

「それはまぁ、そうだな」

「じゃあ、隼人にもまだチャンスあるってことじゃん!」


 ん? 隼人って誰だ?

 また知らないキャラを出してきたな……やめてくれ、これ以上キャラを増やされると、把握できなくなってしまう!

 俺に対してニカっと笑った陽キャに、どう対応すればいいのかと悩んでいると……。



「隼人ー! まだそっち時間かかるんだったら、俺ら3人で回ってるからなー!」

「わかった、じゃあ俺は天音さんと回るから、また明日な」


 隼人ってイケメンくんの名前かよ!

 えっ、3人って誰? もしかして俺のこと言ってんの!?

 そしてイケメンくんは二菜と回る? はぁ? なんだそれ!?


 二菜の目から、『何それそんなの聞いてない!』と言っているのが読み取れたが、そんなもん俺も初めて聞いたわ!


「お、ちょ、ちょっと待て! 引っ張るなって!」

「まーまー! たまには俺らとも遊ぼうぜー!」


 たまにはって何だよ、お前とは今日はじめて話しただろ!

 ずるずると引きずられ、どんどん二菜との距離が離れていく。


 二菜がこちらを見て、先輩、と声を出しているのがわかるのに、声が届かない。


「それにさー、あの子と隼人ってお似合いだし、今日は我慢してやってよ!」

「……すまんな、邪魔したみたいになって。ええっと……お前、名前なんだっけ?」


 知るかよ。つーか、まずお前らが誰だよ。

 人に名前を聞く時は、まず自分から名乗れって習わなかったのか?


「ああ、すまん、俺の名前は――」


 知るか、興味ないわそんなもん。



 俺の目は、イケメンくんが二菜の手を無理矢理取り、連れて行こうとしている光景に釘付けになっていた。

 こちらを振り返った二菜が、泣きそうな顔で、俺を見ている。


 なんで、二菜がそんな顔をしてるんだ?

 さっきまで、あんなに楽しそうにしてたじゃないか。

 うさぎの簪を嬉しそうに撫でて、カキ氷を食べて……。


 振り返ったイケメンくんと目が合った。

 勝ち誇ったような顔でこちらを見ているのが、酷く俺を苛立たせる。

 二菜を悲しませているくせに、なんだその顔は。



 これまで、色んな二菜の顔を見てきた。

 笑った顔。

 怒った顔。

 すねた顔。

 照れて俯く顔。

 死ぬ程ウザいドヤ顔。

 真面目に勉強する顔。

 風邪を引いたときの顔。

 俺に、好きだって言ってくれた時の顔。

 でもその中に、あんな顔はなかった。

 あいつは、俺といるときは、なんやかんや言いながらも、いつも楽しそうに笑っていた。


 なのになんだ、なんでお前はそんな勝ち誇った顔が出来るんだ。


 ……何より。



 なんで、お前が、そこにいるんだ?

 そこは、俺の場所だろ……!



「あっ、ちょっ……!」

「ま、待てよおいっ!」


 俺を引きずる二人を強引に振り払い、二菜を追いかける。

 もう、我慢なんて出来なかった。

 どこだ……まだ遠くには行ってないだろ!?


「……てください……!」

「大丈夫だよ天音さん、どこから見て回ろうか? あ! 花火がもうすぐ上がるね」

「い、嫌です! 私は先輩と……!」


 ……いた!


「二菜っ!」

「!? せ、先輩っ……!」


 二菜の綺麗な瞳から、涙が零れ落ちそうになっているのを見た瞬間、もうだめだった。

 二菜の手を強引に掴んでいるイケメンくん……いや、違うな。

 往面の手を、以前よりも強く、激痛を感じるように握りこんでやる。


「その手、離せよ……!」

「…………っ痛ぁ!?」

「先輩!」


 往面の手から離れた二菜が、俺の元へ帰ってきた。

 それだけで、先ほどまでのざわざわしたものがなくなり、不思議と落ち着いた気持ちになるのはなんでだろうな?


「な、なんなんだお前は! いつもいつも……何の権利があって、俺と天音さんの邪魔をするんだ!」


 何の権利だと?

 ねぇよそんなもん、二菜は物じゃねぇんだぞ。


「うるせぇ、知るかバカ」

「誰がバカだ! 関係ないなら黙っていてもらおうか? そ、それより……お前、俺の天音さんの名前を……!」

「はぁ? 俺の天音さん? 何言ってんだお前」

「せんぱい……」


 二菜が、俺の服のすそをきゅっとつまんできたのがわかった。

 何、不安そうな顔してんだよ、見なくてもわかるぞ。

 お前はいつもニコニコ笑って、たまに「なんでですかー!」って怒ってればいいんだよ。



 ああ、そうか……やっとわかった。

 俺とこいつの関係は…………。


「少なくとも、お前みたいなやつに|うちの(・・・)二菜をやるか、ばーか!」

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