閑話:幼馴染の妹の方が急に押しかけてきたけど、僕は一体どうすればいいの!?
「
……いや、来ちゃいましたって……。
僕の部屋の前に、真新しい高校の制服を着た、愛らしい少女が満面の笑顔で立っていた。
……とても大きな大きなカバンを背にして……。
「不束者ですが、今日からよろしくお願いします!」
「今日からって何!?」
え、何が起こってるの?
ドッキリ? それともうちの両親になんか言われた!?
満面の笑みを浮かべた彼女……。
* * *
僕……
花七さんはお隣の蓮見家の次女で、僕とは4歳差。
どちらかというと、同い年で長女の
放課後になるとうちに来て、母さんに料理を習っているのをよく見たくらいだ。
なぜ、自分の母親ではなく、うちの母さんなんだろう? と不思議に思ったのを覚えている。
の、だが……。
「あの……花七さん……お料理中悪いんだけどね?」
「はい、なんでしょうか! 何か食べれない物、苦手な物がありましたか?」
「いえ、僕は特に好き嫌いはありませんが……」
「よかったぁ……えへへ、そうですよね! 今日の晩ご飯は、同棲記念で豪華にしますね!」
「どどど同棲!?」
何言ってるのこの子!?
確かまだ、今年中学校を卒業したばっかりだったよね!?
ダメだ、頭が痛くなってきた……!
「ご、ごめんね、僕はちょっと席を外すね……」
「あ、はい! 準備が出来たら声かけますね!」
「うん、アリガト……」
僕は急いでリビングを脱出、奥の自室へと逃げ込み、実家へ連絡を入れた。
こういう時、広い部屋だとキッチンの花七さんに電話の内容が聞かれることもなく、助かる。
一人にしては広すぎる部屋だと思っていたが、こういう時に便利だなぁ。
「もしもし、母さん? 今大丈夫かな?」
『あらどうしたの、もうホームシック?』
「違うよ!? な、なんか今日、うちに蓮見さんとこの花七ちゃんが来たんだけど!」
『無事についたのね! 安心したわぁ〜』
「知ってたの母さん!?」
『知ってたも何も……うちも、蓮見さんもみんな知ってるわよ』
なんで!? なんでみんな知ってることを僕だけ知らないの!?
「そういうことは普通僕に言うんじゃないの!?」
『言ったら反対するかと思ったのよ……ねぇ八一、なんでその部屋がそんなに広いと思う?』
「え、なんでって……」
そう、冷静に考えて、この部屋は広い。
いや、広すぎると言うべきだろうか?
一人暮らしをするには広すぎる50平米という間取りについて、僕は単に広くて嬉しいな、程度にしか考えていなかった。
……そこに込められた意味など、全く考えていなかった。
「ま、まさか……最初から!?」
『おほほほほ、そうよそのまさかよ!」
「と、年頃の女の子と一緒に暮らせって、本気で言ってるの!?」
『大丈夫よ、花七ちゃんもそうしたいって言ってたから!』
「母さん!?」
まさか、僕の知らないところでそんな話になっていたなんて!
年頃の大学生の男の部屋にあんな少女を住まわそうなんて、正気とは思えない!
蓮見さんのおじさん達も一体何を考えているんだ……!
『あ、そうそう、蓮見さんの奥さんから伝言があるのよ』
「……一応、聞いておくよ」
『せめて花七ちゃんが高校卒業するまでは、避妊はちゃんとするようにって』
「あんたら言ってることおかしいからな!?」
『ほほほほほ、精々頑張って我慢することねー!』
「あっ! 母さん! 待っ……母さん!?」
くそっ、電話切られた……!
しかも留守電にしやがった! なんて親だ!!
「どうしよう……というか、そもそも花七さんは本当はどう考えているんだ……?」
花七さんのような年頃の少女が、僕のような年上の男と生活したいか?
と聞かれると、間違いなくNoと答えるだろう。
もし彼女が嫌だと言ってくれるなら、僕は何があっても彼女の味方でありたい。
「まずは意思確認だな……」
とは言え、僕個人としては女の子との二人暮らしなんて考えるだけでも恐ろしいし、出来れば花七さんにはこの部屋を出て、別の部屋へと移ってもらいたい。
僕は憂鬱な思いを抱えながら、リビングへと戻ったのだった……。
* * *
「ごちそうさま、美味しかったよ花七さん」
「お粗末様でした、ふふ、お口にあってよかったです!」
「口に合うも何も……まさに実家の味! って感じだったよ」
「よかったぁ……お義母様に教えて頂いた甲斐がありました」
あ、可愛い……。
ふわっと花が咲くように笑う花七さんの笑顔に、思わずドキッとしてしまった。
あれ、花七さんってこんなに可愛かったっけ……?
「……っ、お、お茶入れるよ、花七さんは珈琲と紅茶、どっちが好き?」
「あ、紅茶でお願いします」
「うん、じゃあちょっと待っててね」
「はい!」
落ち着け、落ち着け……この前まで中学生だった女の子相手に、何をドキドキしてるんだ…!
「ふふふ、八一さんにお茶入れてもらえるなんて、夢みたいだなぁ」
「夢って……お茶くらい、いつでもいれてあげるよ?」
「ほんとですか!? ありがとうございます!!」
お茶くらいでこんなに喜んじゃって、可愛いなぁ。
さっきはちょっとドキドキしたけど、やっぱりまだまだ子供だね。
そう思うと、ざわざわしていた胸が落ち着いていくのがわかった。
「はい、花七さん……ミルクはいる?」
「いえ、大丈夫です、ありがとうございます!」
「わかりました……さて、と。 花七さんに、お話があります」
「あ、その前に私からもいいですか?」
「? わかりました……どうぞ?」
花七さんからの話?
なんだろう、もしかしたら、この生活が不本意だ、という話でしょうか?
もしそうであれば話は早い、僕と花七さんとで親を説得するだけですからね。
まぁ、花七さんもお年頃、そりゃあ僕のような年上の男との生活なんて嫌でしょう。
「八一さん、ずっと好きでした。私と恋人になってもらえませんか?」
「うん、うん、そうだ……へぇ?」
ん?
あれ、おかしいな……今、何か変な言葉があったような……。
「す、すいません、花七さん、ちょっと聞き逃してしまったようです……」
「え? も、もう一度言うんですか……? うう、恥ずかしい……!!」
頬を染めて俯く花七さんはとても愛らしく、思わず見惚れて……
い、いや違う! そうじゃありません!
今、花七さんは何を言いましたか? 僕が好き?
はは、笑える。
「八一さんがずっと好きで好きで、ここまで追いかけてきました!」
「なっ!?」
えっ、何言ってるのこの子!
僕が好き!? ナンデ!? ナンデ僕!!?
「あ、す、すいません、いきなりこんな事言われても困りますよね……」
「え、ええ、そうですね……」
ああ、ビックリした……。
そうですよね、そんな僕が好きって……きっと、隙の間違いでしょう、ははは。
「実は、私……小学校の頃から、ずっと八一さんが好きだったんです」
「あ、これ隙じゃなくてほんとの好きの方だ」
「? はい?」
「ああ、いや、ごめん、うん、続けて?」
「あ、わかりました……で、いつかは八一さんの彼女になりたいなぁ、ってずっと思ってて……思ってたのに……!」
あれ、なんか空気変わったぞ?
ちょっと冷たい空気が流れてるのは、僕の気のせいかな?
「なんで! なんでこんな遠い大学に進学しちゃうんですかぁー!!」
「あれっ、なんか怒られてる!?」
「高校生になったら、八一さんに告白しようって思ってたのに……!」
「ご、ごめんなさい……?」
そんな事言われても、僕知らないんだけど……。
そもそも、僕と花七さんってそんなに関わりあったわけじゃないし……。
大学だって、学力にあったところに進学しただけだしなあ。
「そ、それでお母さんと、藤代のお義母さんに相談したら……『なら、八一の大学の近くの進学校に進めば一緒に暮らせるわよ!』ってアドバイスを……」
「あいつら何言ってんの!?」
頭おかしいだろ!
ていうか花七さんもそこはおかしいって思おうよ!
「で、それを真に受けて、こっちの高校に進学したの……?」
「はい! それで今日、引っ越してきました! えへ♡」
「そんな可愛くえへっとか言われても流されないよ!?」
「あ、私可愛いですか!? へへへ、嬉しいなぁ!」
「っ!」
うわー! うわー! ダメだって、この笑顔は反則だって!
「は、話はわかった…わかったけど! 流石に男の部屋に転がりこむのはどうかと思うよ?」
「大丈夫です、お母さんは『むしろ手を出されたら既成事実ができるわよ』って言ってました!」
「花七さんのお母さん、絶対おかしいよ……」
いや、おかしいのはうちの母さんもおかしいんだけどさ!
蓮見さんのおじさんも、頭が痛いんじゃないだろうか……。
僕だけは、僕だけはおじさんの味方でいてあげないと……!
僕が頭を抱えていると、携帯にメールがきたよ、との通知が来た。
誰だよ、こんな忙しいときに……!
――――ぺこん
千華
今、あんたの部屋に花七が行ってるの?
――――ぺこん
千華
花七に手を出したら
――――ぺこん
千華
殺すわよ
こわっ!
千華さん、こわっ!
えっ、何このメッセ! 本気で怖いんだけど!?
ていうか千華さんからメールが来るなんて久しぶりだな……あの日と普段は直接、うちに乗り込んできたし。
まぁ久しぶりに来たのがこれって、どうかと思うけど!
「というわけで……八一さん、好きです! 私とお付き合いしてくれませんか?」
「ええ……いや、でも……」
あれっ、これ僕はどうすればいいの?
流石に高校生になりたての女の子にそういう気持ちを抱くのは難しいし、かといってこのまま追い出すなんてかわいそうなことは僕には出来ない。
なんて応えれば……
「あ、大丈夫です! すぐにお返事が欲しいなんていいませんから……」
「あ、うん……」
「でも、私、ぜーったい! 八一さんに好きになってもらいますから、覚悟してくださいね!」
「あ、あはは……うん、はい……」
大学入学を機に、新しい生活が始まると期待に胸を膨らませていた、春のあの日。
僕の想像もしなかった新しい日々が、幕を開けようとしていた……。
※本作は、「凄くモテる後輩が毎日愛を囁いてくるけど、怖いので俺は絶対に絆されない!」の主人公・藤代一雪の両親世代のスピンオフとなります。
この先、本編に戻ります。
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