閑話・天音 二菜の華麗なる一日(前)

 私、天音 二菜の朝は早い。

 6時過ぎには起床し、まずは目覚めのシャワー。

 寝癖なんて付いてる姿を、絶対先輩には見せられない!


 その後、髪を整えて、制服に着替えたら下の先輩のお部屋へ。

 まだ寝ている先輩を起こさないよう、静かに部屋にお邪魔しまーす……。


 数日前に合鍵をもらったから、こうやって朝から先輩のお部屋にお邪魔できるのです!

 もらったキーケースも、私の宝物。大事に大事に使おうと思ってます。

 ああ、愛されてる……私、物凄く愛されてるよ……!!


「くふふ、先輩まだ寝てる……可愛い寝顔だなぁ……」


 これは、毎朝の私のご褒美。

 私だけが今、先輩を独り占めしているという事実に、胸が高鳴る。

 先輩の寝顔なんて、学校のみんなは見たことないでしょ! くふふー!


 先輩、いつもはちょっと不機嫌そうな顔をしてるんですけど、寝てるときの先輩は眉間のしわが取れて、

 すっごい年齢相応のあどけない顔になっちゃうんです……はぁ、可愛すぎる!!

 ……おっといけない、いつまでも先輩を見ていたいけど、準備をしなくちゃいけないのです!


 その後は二人のお弁当を作って、中身を詰めたら冷ましている間に朝ごはんの準備。

 先輩は朝はガッツリとは食べないので、簡単なものだけど。

 うーん、今日はトーストと目玉焼きに、サラダをちょっと出そうかな?

 レタスが余ってるし、早く使っちゃわないとね。


 あ、そろそろ先輩起こさなきゃ!


「せんぱーい、おはようございまーす……あなたの♡ 二菜が起こしに来ましたよ~」

「まだ眠い……あと5分でいいから寝かせてくれ……」


 先輩の朝は、いつもこんな感じ。

 あと5分、もう5分、といつまでたっても起きないのはもう分かってるんです!

 それで初日、私も遅刻ギリギリの酷い目にあいましたからね!

 朝の私は鬼の二菜! 絶対起きてもらいますよ!!


「起きてくれないなら、このままファーストキス♡ しちゃいますよー?」


 ふぅ、っと耳に息を吹きかけながら囁いてあげると……。

 いつも先輩は、びっくりして飛び起きるんです!

 くふふ、お耳の弱い先輩、本当に可愛くて可愛くて……ああ、大好き……!


「……おはよう、天音……」

「はい、おはようございます先輩! 顔、洗ったら朝ごはんにしましょうね!」

「んー……」


 そういいながら、フラフラと洗面所に行く先輩を見送ったら、

 今日の先輩のシャツと制服を出す。そういえば、そろそろ夏服出さないと。

 先輩の夏服って、どこにあるのかな? 一度出して、アイロン当てておかないと。

 多分、先輩のことだから適当に畳んで入れてるだろうし……。


「はー、さっぱりした。あの起こし方はなんとかならんのか天音?」

「あれが一番早く、先輩が起きるんですよぉ。ほら、朝ごはん食べましょ?」


 朝から美味しそうに、私の作ったごはんを食べてくれる先輩を見守る、至福の時間……。

 私も早く食べないと! くふふ、二人で食べる朝ごはん!


「な、なんだか私たち、結婚したての夫婦みたいですね先輩♡」

「……はたから見たら、そう見えるのかもなぁ……」


 おっと、先輩がちょっと前向きな姿勢になってきましたね?

 くふふー、これはいい傾向ですよ! もっともっと攻めの姿勢でいかないと!!


 食べ終わったら軽く洗い物をして、登校の準備です。

 ちょっと曲がってる先輩のネクタイを調えて……はぁ、今日も先輩、かっこいい……!


「よし、行くか天音」

「はい! 今日も一日、頑張りましょう!!」


 そうしたら朝、学校まで二人で行きます。

 本当は手を繋いで行きたいのですが、流石に先輩はまだそれを許してくれません。

 GWのデートでは手を繋いでくれたので、恐らく学校が関わるとダメなんだと思います。

 むーん、先輩の中の壁は、まだまだ壊れないなぁ……。


「じゃあな天音」

「はい、ちゃんと授業聞いてくださいね、先輩」

「夏休み、補習まみれになりたくないからなー」

「夏休みはプールとかお祭りとか、一緒に行きましょうね!」

「はいはい、また後でな」


 学校に着くと、昇降口でいったん先輩とはお別れです。

 はぁ、寂しいなぁ……早くお昼にならないかなぁ……。

 一日の中で、先輩と離れないといけないこの時間が、一番寂しいです。

 今からでも飛び級とかして、先輩と同じ学年になりたいです。


 おっと、今日も下駄箱にはなにやらお手紙がいくつか入っていますね。

 これもまた、私が憂鬱になる要素の一つです。

 私には先輩がいるのに、どうして未だにこんなお手紙を差し出してくるのか、意味がわかりません。

 とりあえず全部カバンに突っ込んでおきまして、っと。


「あ、二菜ちゃんおはよう~」

「おはようございます」

「おはようございます天音さん、今日も素敵ですね!」

「はぁ、ありがとうございます」


 クラスメイトとの交流は大事です。

 教室までは、よく話す子たちと一緒に移動します。

 いつもお昼を先輩と一緒にとるので、こういう時はしっかり交流しないといけませんからね。

 いくら私でも、クラスで孤立とか、そういうのはシャレになりません!

 ちゃんと、お話できるお友達は作っておかないと!!


 教室に入ると授業の準備をして……ペンケースから、貰ったボールペンを取り出します。

 寂しいですけど、ボールペンを通して先輩が見てると思うと、身が引き締まります!


「あっ! 二菜ちゃん、それLINEで言ってたボールペン?」

「はい、そうなんです、お誕生日にっていただいたんです!」

「へぇ……可愛いデザインだね! あっ、名前入ってる?」

「えへへ……そうなんです……お気に入りで……」

「いいなぁ二菜ちゃん、先輩に愛されてるねー!」

「やっぱりそう思いますか!?」


 くふふ! くふふふふ!!

 やっぱり先輩、なんやかんや言いつつ、少しずつ私を好きになってくれてるんでしょうか!

 はぁぁぁ! 早くお昼にならないかなぁ、先輩に会いたいなぁ!

 ……ちょっと、LINE飛ばしちゃおうかな?



 ――――ぺこん

 天音 二菜

 先輩、愛してます!


 ――――ぺこん

 一雪

 何、朝から酔ってんの?


 ――――ぺこん

 天音 二菜

 先輩は私の事好きですか? えへへ♡


 ――――ぺこん

 一雪

 せっかくのお申し出ですが、お気持ちだけありがたく頂戴します。


 ――――ぺこん

 天音 二菜

 なんでですかー!!


「二菜ちゃん、本当に楽しそうだねぇ……」

「えへへ、はい、毎日凄く楽しいです!!」

「いいなぁ、私もそんな素敵な彼氏が欲しい」

「せ、先輩は絶対にあげませんからね!?」

「わかってるよぉー!」


 音琴先輩からもらった、香月先輩と談笑する笑顔の一雪先輩の待ち受け(もちろん隠し撮り)を眺めながら、これからの時間の英気を養います。

 さぁ、授業も頑張って受けないと!! 先輩のせいで成績を落とした、なんて言われたくありませんし、先輩にも変な負い目を持って欲しくないですからね。


 目指せ、先輩との楽しい楽しい夏休み! おー!!

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