閑話・俺の名前は往面隼人

 俺の名前は往面 隼人|(いけつら はやと)。

 自分で言うのもなんだが、俺はかなりかっこいいと思う。

 小学生の頃からバレンタインデーにはたくさんのチョコレートをもらったし

 中学校では何人もの女の子から告白もされた。


 さらに言うと、俺は運動神経もいい。

 高校1年で、すでにバスケ部期待のシックスマンとし大活躍し

 今では不動のエースナンバーを獲得している。

 おかげで、女の子にもモテてモテて仕方なかった。

 まったく、イケメンすぎるのも辛いぜ!


 俺はきっと、この世界の主人公なんだろう。

 まったく、神様も不公平だよなぁ!



 ……そんな俺だが、こいつには勝てない、と思った奴がたった一人だけいる。

 その名は、香月 五百里。

 こいつだけは、もうオーラが違う、と一目見て感じた。

 ああ、俺のイケメン人生もここまでか……と覚悟したのもいまや昔。


 アイツには溺愛する彼女がいたから、女の子たちもすぐに引いていった。

 また、俺の天下がやってきたのだ! 俺ってツイてる!!


 俺はお前らとは違うんだよ、と五百里とよくつるんでいる、

 地味でぱっとしない……名前なんていうんだあいつ?

 わからん……地味男を見て、優越感に浸るのだった。


 だけど、そんな俺もなかなか女の子には本気になれなかった。

 いや、女の子と遊ぶのは楽しいし、お付き合いはたくさんした。

 でも、本気になれる女の子にはなかなか出会えなかった。



 そんな俺に転機が訪れたのは、高校2年の春……。


 凛とした空気を纏い、歩くあの女の子。

 一目見たときに、この子だ、と思った。

 絶対、この子を俺の彼女にしてやる! と、見た瞬間に思った。


 彼女の事は、調べればすぐにわかった。

 天音 二菜。

 今年の、新入生代表だという。


 この子だ。

 イケメンで世界の主人公である俺にふさわしい女は、この子しかいない!

 絶対、この子を口説き落としてみせる!

 俺には自信があった、俺が本気で口説き落とせない女なんているはずがない、と思っていた。


 だが、今はまだその時じゃない、いきなり話しかけても警戒されるだろう。

 自然に近づけるように、後輩にも根回しして、さりげなく近づいて一気に落とす。

 俺は確実にくるであろうその未来を予感して、ほくそ笑んでいた。


 ……しかし、そんな予想を裏切る事態がおきた。



「せんぱーい、お昼一緒に食べましょうよぉー」



 まさかまさか! 向こうから俺に接触して来たじゃないか!

 なんだよ、向こうももしかして俺に一目ぼれか?

 ふっ、悪いなお前たち、これが世界に愛されたイケメンの俺の力だ!


 とはいえ、いきなりがっついていくのは格好が悪い。

 最初はデキる先輩オーラを出しながら、優しく後輩である天音さんをエスコートしてあげなければ。


「やぁ、君、1年の有名な子でしょ? 先輩……って事は、もしかして俺に会いに来てくれたのかな?」


 ここで爽やかスマイル。

 これで落ちない女の子は、今までに一人もいなかった。

 さぁ、天音さん、君も僕に落ちてきてもいいんだよ……?


「……はぁ? どちら様ですか……?」


 * * *



 なぜだ。

 なぜこうなった、ありえない。


 なんと天音さんは、俺に会いに来たわけではなく……名前なんだっけ、あいつ。

 香月のおまけの地味なやつ、あれを昼に誘うためにここまで来ていたらしい。

 ありえないだろ? あんな奴のどこがいいんだよ!


 ……もしかして、何か弱みでも握られているのか?

 いや、そうに違いない。でなければ、あんな地味男が天音さんに構われるわけがない!

 なんて卑劣な奴なんだ……天音さん安心してくれ、君は俺が絶対に助け出してみせる!



「天音さん、今ちょっと時間いいかな?」

「よくありませんが」

「大事な話なんだ、いいだろ?」

「よくありません、耳がおかしいのか頭がおかしいのか、どっちですか?」


 これは……天音さん、もしかして照れてるのかな?

 ふふ、俺のイケメンオーラに充てられて、まともに話せないんだな、可愛いじゃないか。


「君はあの地味男に脅されている、そうだね?」

「はぁ?」

「いや、それ以上言わなくてもわかるさ。君とアイツじゃまったく釣り合っていない。にも関わらず、一緒にいることを強要されている……そうだね?」

「……………?」

「そうさ、君に相応しいのは、俺のようなハイスペックな男だ、そうだろ?」

「何言ってんのこの人……キモ……」

「大丈夫、心配しないで……俺があいつを、なんとかしてあげるから!」


 そしてその時こそ、君が俺の彼女として、並び立つことになるんだ。


「待っててくれ天音さん……ああでも、今まで通り、昼は会いに来てくれてもいいからね?」


 そして爽やかスマイルを残し、かっこよく立ち去る、完璧だ。

 これで天音さんも完全に、俺に落ちただろう。

 待ってろよ……なんだっけあの地味な男。


 お前に卑怯な手で隷属させられている天音さんは、俺が絶対に助け出してみせる!!


 * * *


「うわぁ……なんか気持ち悪すぎて、鳥肌立っちゃったんですけど……何あれこわ……」

「ん? ……げっ、天音何やってんだお前」

「なんか変な人に絡まれて鳥肌が……先輩、慰めてくださいよぉー!」

「ああもうこっち来んなくっついてくんな、どこだと思ってんだお前!」

「くふふ……つまり、おうちならくっついてもいいってことですね?」

「よくねぇ……よっ!」

「あいたー! デコピンとか酷いです!」

「おらっ、そろそろ予鈴鳴るから、教室に帰れ帰れ」

「はぁい……先輩、また放課後に会いましょうねー♡ 大好きです♡」

「人目のあるところでそんな事言うんじゃありません……!」

「くふふー♡」


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