どうしてそんなにくっついてくるの…!?
「はいっ、これならどうですか先輩!」
「おー、似合ってる似合ってる、いい感じだなそれも」
「もうっ、先輩どれ着ても似合う似合う、ってコメント一緒じゃないですかー!」
「そうは言われてもなぁ」
俺たちは今、近く映画館からほど近い場所にあるショッピングモールで、天音の服を見ていた。
いざ天音のファッションショーが始まると、どれを着ても、何を着ても似合うわけで。
感想をどうぞ! とか言われても、似合う以外感想が出ないのは仕方ないじゃないか。
……まぁ、強いていうなら。
「こういう、肩を出すようなのって着ないのか? 今日一回も着てないけど」
そう言って、オフショルダーの涼しげなワンピースを手渡してやる。
こういうちょっとお嬢様! って感じの、絶対似合うと思うんだけどなぁ。
そう思っただけだったのだが……。
「先輩のえっち!」
「なんで!?」
似合うと思った服を手渡しただけで、なぜ罵られなければならないのか。
そういうお店ならご褒美かもしれないが、普通にショックである。
「そういうのを着るときは、色々と準備がいるんです!」
「そうなのか……いや、絶対可愛いと思ったんだけどなぁ」
「……先輩は、こういう服が好きなんですか?」
「おう、好きだぞ、だからお前にどうかなって思ったんだよ」
「わ、わかりました……ちょっと待っててください」
そう言って、また試着室へと入って行った。
……なんだ?
そう思いながら待つこと、実に5分。
えらく待たせるなぁ、と不思議に思っていると……。
「先輩、お待たせしました」
と、カーテンも開けずに着替えの完了を知らせてきた。
「? なんだ、終わったんなら出てこいよ天音」
「いやー……ちょっと……先輩、頭だけ、試着室に突っ込んでもらえますか?」
「何その変態的な行為」
周り見ろよ、女性向けの店舗でそんな事してたら、完全に変質者だよ。
下手したら通報されて俺に変な経歴付いちゃうよ。
「大丈夫ですよ、多分」
「多分かよ」
念のため、周りを見渡して、誰も見ていないことを確認。
頭を突っ込んでみると……そこには、俺の想像通りの天音がいた。
うん、やっぱり似合ってる。
それはそうと……
「なんで胸元、隠してんの?」
なぜか腕を組み、胸が見えないようにしていた。
全体を見たいのに、なんでちゃんと見せてくれないかな!
「いくら愛する先輩でも……見せられないところもあるんです……!」
「さっきまで散々見せびらかしてたくせに、急になんだよ」
「だ、ダメなんです、あんまり見ないでください先輩のえっち!」
そう言いながら、ぐいぐいと頭を押されて外に出される。
なんであんなに焦ってたんだ? 天音らしくないな……ん? そういえば。
「そういや、肩出してるときって、下着の紐ってどうなるんだ……?」
「!?」
「あれ、そういや今の天音って……」
紐……なかった気が……。
そこまで考えたところで、天音が試着を終え、出てきた。
今は元の服に戻っている、うん、これもやっぱり似合う。
似合うけど……なんだこの無言の圧力は……!
まさか、この俺が天音に気圧されているというのか……っ!
「先輩、私これ買ってきますね」
「お、おお……そうか」
「今度は、しっかり準備しておきますから楽しみにしててくださいね♡」
「お、おう、楽しみにしてる……」
「くれぐれも、今考えたことは忘れるようにしてください。いいですね?」
「はい」
どうしよう……いつもとは違う意味で、天音が怖いんだけど……!?
「さ、そろそろいい時間ですし、映画館にもどりましょうか先輩♡」
「はい、そうですね……」
お会計を済ませた天音が、また嬉しそうに手を繋いでくる。
今度はそれを断ることも出来ず、天音のなすがまま、映画館までの道のりを歩いたのだった……。
* * *
「おおーっ! カップルシートって、結構広いんですね先輩!」
「プレミアムシートな」
「思ってたよりゆったりしてて、結構いいですねカップルシート!」
「プレミアムシートな」
「くふふ……いちいち言い直さなくてもいいじゃないですかー先輩ー♡」
何回もカップルシートカップルシート言わないでくれ……めちゃくちゃ恥ずかしい!
周囲の視線が、生暖かく見守るものになっている気がして仕方ない。
「ほらほら先輩、早く座らないと周りの人に迷惑になりますよー」
「はぁ……まぁ、そうだな。よし、せっかくだから楽しむか!」
「はい!」
そういいながら、ソファに座ると……おお、こりゃ確かにいいわ。
普通の席よりもお高いのも納得のゆったり感に、俺も大満足だ!
これからも余裕があるときは、是非このチケットを購入したいものである。
……それはそうと。
「なぁ天音さんや」
「はい、なんですかー?」
「なんでそんなにくっついてくるんですか?」
「カップルシートですからね」
「二人で大分余裕のあるシートだと思うんだよ、ここ」
「ええ、結構広いですよね! もう普通の席に戻れないかも……」
「なのに、なんでそんなにくっついてくるの?」
「くふふ、カップルシートですからー♡」
天音が、俺の肩に頭を乗せてくる。
ちょ、近い近いヤバイ近い!
「しーっ、もう予告始まりましたから、静かに、ですよ」
「分かってるけど……!」
「くふふ、ほーら、画面に集中しないとですよー♡」
時々、天音が手をにぎにぎとしてくるのがめちゃくちゃ気になる!
これ、映画に集中できるか俺……!?
結論から言おう。
めっちゃ面白くて、途中から完全に天音を忘れてた。
天音も、途中からは画面に集中して、俺をからかうのを完全に忘れていた。
さすが蜘蛛男、天音のような悪魔をも黙らせる、完璧な映画だった……。
「いやー、面白かったな蜘蛛男!」
「はい! 最高でした……というか、今回も鉄男が悪いですよね!」
「問題起こすのは、だいたい鉄男だからな……」
「「まぁ、もう死んだから許すが」」
ふふふ、と二人で笑いあう。
「この前、ミスタードクターと雷神様の新作も発表されたし、まだまだ盛り上がるぞー!」
「忘れてるかもしれませんが、星道様の新作も控えてるんですよ! ……控えてますよね?」
「よし天音、メシを食いながらその辺を語り合おうじゃないか!」
「はい先輩! 今夜は眠らせませんよ!」
「ははは、こっちのセリフだ天音、行くぞー!」
「おー!」
俺たちは気分よく早めの夕飯をとり、帰宅し、また朝まで映画を見てすごした。
共に語り合える仲間のいるこの空間はなんて幸せなんだろう!
こいつと知り合いになれてよかった!
本気で、そう思った。
「2日も泊まらせてくれるなんて、これもう同棲おっけーなのでは?」
「あっ!!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます