おや……一雪くんの様子が……?

 天音を探し出して数分。

 意外とというか、あっという間に見つける事が出来た。

 先ほどの道をちょっと戻ったところで、イカついお兄ちゃん二人組に声を掛けられていたからだ。


 すぐ後ろにいたのに、あんなふうに絡まれている天音に気付けなかった自分があまりにも馬鹿すぎて、物凄くイライラする。

 何より、先ほどまであんなに楽しそうに笑っていた天音が、いつもイケメン君に見せている、あの冷たい顔をしているのがなんとなく許せない、って気分になる自分に自分でも驚いた。


「天音、悪い、はぐれちゃったな」

「あ、せ、先輩?」

「すいません、こいつ俺と一緒に来てるんですよ、すいませんね」


 そう言いながら、天音の手を取りその場をすぐに離れる。

 ふぅ、イカついお兄ちゃん二人だし、難癖つけられたらどうしようかと思った!

 もう心臓バクバクしてますわ! やめてよね、本気で喧嘩したら、俺が勝てるわけないだろう?


「悪かったな天音、後ろから来てないの気付いてなかった」

「いえ、私も、あの二人に邪魔されたときに、すぐ先輩を呼ぶべきでした……」

「その辺は、一緒に来てた俺が気遣うべきどころだった、反省してる」

「あ、はい、いえー……」


 なんだ? 天音の反応がおかしいな。

 いつもはあんなんでも、やっぱりイカついお兄ちゃん二人は怖かったのか?

 本当に悪い事をしてしまった……つい、忘れそうになるけど、こいつも普通の女の子なんだよなぁ。

 たまに言動おかしいけど。


「あの、先輩、その……手……えへへ……」


 そこまで言われて気がついた。

 俺、さっきからずっと天音の手を握ってる!?

 やべ! 手汗とか大丈夫か!? 

『うわぁ汗べっちょりでキモ……失望しました』とか思われてないだろうな?


「っと、悪い天音、手、痛かったか?」

「いえ、そんな事ないです……すいません、ありがとうございました」


 珍しく、天音が顔を真っ赤にしている。耳まで赤い。

 あっ! そうか、俺に手なんて握られて、それで恥ずかしがってるのか!


「すまん、天音」

「えっ? な、何がですか?」

「いや、俺なんかに手を握られて、嫌だっただろ? 悪かったな」

「嫌なわけないじゃないですか!」

「いたたたたたた!? 痛いんですけど!!?」


 謝りながら天音の手を離そうとすると、思いっきり握りこまれた。

 いってぇ! なんだこいつ、見た目めっちゃ華奢なのに意外と握力あるな!?


「……くふふ、先輩から手を取ってくれたのに、離すわけないじゃないですかー!」

「あっ、ちょっと待って、なんか握り方! 握り方がおかしくなった!」

「私を一人置いていった先輩は、これくらいの罰が必要だと思いまーす!」


 手の握り方が、掴む感じから指を絡める形に変わって……これは……。


「……天音、この握り方はちょっと……」

「いーえ! これくらいは当然です!」


 この握り方は、いわゆる恋人つなぎ、というやつですよね?

 俺知ってるよ! よく五百里と音琴がこれしながら帰ってるし!

 ……昔は、あの二人がこうやって手を繋いでるのを見るの、辛かったなぁ……。

 やだ、あの日々を思い出すと、ちょっと涙が滲んできちゃう。


「くふふ、これでもう絶対、はぐれませんよね、先輩♡」

「そうだねぇ……」

「私たち、今きっと、すっごく仲のいい恋人に見えてますよね!」

「実際、付き合ってないから恋人ではないんだけどな……」

「もう付き合っているといっても過言ではありません! 先輩好きです! 付き合ってください!」

「すいません、今回はご縁がなかったようで……」

「なんでですかー!!」


 ……それにしても、俺と天音の関係ってなんなんだろうな?

 最近、ちょっとわからなくなってきたぞ。


「まぁいいや、とりあえずどうする? 先になんか軽く食べるか?」

「うーん……どこかに入ると、当然手を離しますよね?」

「そりゃ離すな」

「なら、食べるのはその辺で適当に食べて、今はうろうろしましょう!」


 そういいながら、俺を引っ張るように天音が歩き出す。

 そこまでして手を離したくないのか……と苦笑いをしそうになりつつ、

 少しずつ、自分のパーソナルスペースを侵食されているような気がして、仕方がなかった。


 * * *



「さて、時間を潰すにしても、何するんだ? 欲しいものでもあるなら付き合うけど」

「そうですねぇ、とりあえずブラブラしつつ、気になったらお店入るくらいで?」

「俺はそれでもいいぞ、そういうのも悪くないだろうしな」


 昔から、五百里と音琴と遊ぶ時は常にそんな感じだったし。

 あちこちの店に連れまわされて、ウインドウショッピングを楽しむのも苦じゃないからな。


「じゃあとりあえず、服から見ましょうか」

「そうな、そろそろ夏ものが出始めるころか?」

「ですねー、今年の夏物も、早めに押さえておかないと」

「もう夏かって思うと、時間がたつのは早いなぁってなるよな」


 今もまだ5月だというのに、やや汗ばむ気温になってきている。

 一体、春は何処に行ってしまったのだろう?

 過ごしやすい季節が、なくなっている気がして困る。


「くふふ、先輩の好きな服、教えてくださいね!」

「お前は可愛いから何着ても似合うと思うよ……いやマジで」

「えっ」


 よっぽど外した服でなければ、たいていは似合うだろう。

 天音 二菜はそれだけのものを持っている美少女なのだ。


「えっ……あっ、ありがとうございます……」


 顔を赤くし、空いたほうの手で髪をいじいじと弄るその様子がまた可愛……

 おい待て、俺は今、一体何を考えていた!?

 やめろよ、お前がそういう萎らしい態度を取ると、なんか落ち着かなくなるだろ!


「ちょ、ちょっと、今、あんまり顔見ないでください……」


 今は顔を見られたくないらしく、俺の腕に体を密着させ、

 抱き締めるような体勢になって顔を隠しているのだが。

 ……端的に言うと、この体勢がまた、非常によろしくない。


 先ほども言ったと思うが、もう5月で少し汗ばむような季節になってきているのだ。

 それにあわせ、天音の服も季節にあわせた薄手の生地を選ぶようになっておりまして。

 襟ぐりも広めに取られた服なので、上から見下ろすと素敵な光景が眼前に広がるし。

 さらにそれが腕に押し付けられるように腕に当たってですね!


 それを、天音のような美少女がやるもんですからもう酷い。

 いくら俺が枯れてるだのなんだのといわれているとはいえ、男子高校生。

 意識するなというほうが無理というものだと思いませんか!


 つーか、お前これいくら取るつもりだよ。

 あとから、それはオプションになりますっつって法外な料金請求されないだろうな?



 ……いつまでもこんな体勢でいられると、逆に俺が死んでしまう。

 そっと天音を俺の腕から離しつつ、また先ほどと同じように手を繋いでやる。

 正直、手を繋ぐのもあれだが、先ほどの体勢に比べればずっとマシだろう。


「ほら、いいからそろそろ行こうぜ、時間なくなるぞ」

「は、はい、そうですね、行きましょうか! って、何笑ってるんですかー!」


 いつもとは違い、顔を真っ赤にしている天音を見ているのが面白くて、

 ついつい、天音を面白がってつついてしまう俺は悪い先輩だろうか?


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