未来の嫁(自称)が挨拶するようです

「は、初めまして、天音 二菜と申します、いつも先輩…一雪さんにはお世話になっております」

「あらあら! ご丁寧に! 私は一雪の母の花七はなといいます、気軽にお義母さんって呼んでね」

「は、はい、お義母様……!」

「おいこらちょっと待て」


なんだ今の会話、つーか誰がお義母さんだ、義をつけるな、義を。

引きつった顔で母さんを見ると……うわぁ、めっちゃ目が輝いてる。

これ、天音のこと相当気に入ったって顔だな……。


「もう! 一雪ったらこんな可愛い彼女が出来たなんて、一言も言ってないじゃない!」

「彼女じゃないから言わなかったんだよ」

「そういうこと言ってると、捨てられるわよ一雪! こんな可愛い子なのに……」

「え、えへへ……」


ああ、ダメだこれは……完全に誤解してる。


「それで、二菜ちゃんは、うちの一雪とはどういう関係なの?」

「先輩とは学校が同じで……実はこの真上が、私の部屋なんですけど」

「ふんふん、それでそれで?」

「この春に一雪さんに告白して……毎朝一緒に学校行って……お昼と晩御飯をご一緒させてもらってます!」

「あらあらあら! じゃああの包丁とかは二菜ちゃんが?」

「は、はい、毎晩、料理させてもらってます」

「あら~~!」


ニヤニヤと笑いながら、こっちを見てくる。

くそ恥ずい……!


「じゃあ、もう一雪とはお付き合いはしてるのかしら!」

「いえ、それが……何度も告白してるんですけど、一雪さんがなかなか、私の愛に応えてくれなくて……」

「毎日料理作りに来させておいてそれ? 我が息子ながら、最低ねあんた」

「で、でも先輩、優しくしてくれますから……この前も風邪引いたとき、ずっと看病してくれましたし」


頬を赤く染めながら、先日体調を崩したときの事を話し出す天音。

おいやめろ、そういう恥かしエピソードを母さんに教えるんじゃない!

さらに母さんの機嫌がググっと上昇して、目が爛々と輝いてるだろうが!


「うふふ、二菜ちゃんはうちの一雪が本当に好きなのね?」

「は、はい、好きです!」

「よかったわ~、一雪にこんないい人が出来て! 一人暮らしはじめた時はどうなるかと思ったけど……」

「なんとかなってるだろうが、見ろよこの部屋を」

「どうせ二菜ちゃんに掃除してもらってるんでしょ、あんた」

「ぐっ……」


否定できない自分が辛い。

特にこの1ヶ月は、掃除から洗濯まで天音がやってくれるようになり、自分ではほとんどやらなくなったのだ。

洗濯に関しては、自分の分もあるからいいんだ、という天音に完全に甘えてしまった形である。


「もうほとんど同棲じゃない! ごめんなさいね二菜ちゃん、迷惑かけて」

「そんなことないです! 一雪さんのお役にたつの、すごく楽しいので……!」

「あらあらあら! 二菜ちゃんはいいお嫁さんになりそうねぇ! 将来が楽しみだわぁ」

「そ、そんな……えへへ……」


ダメだ、俺にはもうこの二人を止められない!

というか止められる奴がいるのか? 父さん? 父さん助けてくれ……!


「どうする? ちょっと広い部屋借りて二人で生活出切るよう、八一さん……お父さんに相談しようか?」

「え、それは普通に嬉しいです」

「おいバカやめろ、なんて恐ろしい事を言うんだっていうか、親がそんな事よく言えるな!?」


年頃の高校生男子と女子を二人で生活させようなんて、どんな親だ!

そんな親に育てられた子供は、さぞロクでもない子供に育ってるんだろうな!

……俺か! ははっ、確かにロクでもないな!!


「ま、親にバカっていうなんて酷い子ね! 母さんそんな子に育てた覚えはないわよ!」

「いいからもう帰ってくれ……頼む……!」


もうこの10分程度の間に、俺の精神はボロボロだ!

なぜ母親にここまで精神を削られなければいけないのか、本当にわからない……。


「まぁ、二人の時間を邪魔しちゃったのは悪いと思ってるわよ?」

「そ、そんなことないです、お義母様!」

「あらあら、ほんといい子ねぇ……二菜ちゃん、悪いんだけど一雪のこと、よろしくね?」

「はい、お任せください!」

「あ、LINE交換しましょうか? 何かあったら、すぐにお義母さんに相談するのよ?」

「わかりました、よろしくお願いします……えへへ」


ダメだ……俺の関与が及ばない部分で、どんどん話しが盛り上がっていく!

絶対にまずいことになるとわかっているのに、どうにも出来ない自分が恨めしい……。


「じゃあ、二人の邪魔をしちゃ悪いから、そろそろ母さんは帰るわ!」

「おう……お疲れ……」

「あ、これ! 二菜ちゃんに何か美味しいものでも食べさせてあげなさい! はい!」


そういって手渡された二人の諭吉さんがありがたいぜ……。


「ちょうど連休なんだから、デートに連れて行ってもらいなさい、ねっ!」

「お義母様……ありがとうございます……!」


全然ありがたくねぇ。


「じゃあ、今度は八一さんも連れてくるから、仲良くするのよ!」

「お義父様にもお会いできるの、楽しみにしてます……!」

「ふふ、娘が出来たみたいで嬉しいわ……また会いましょうね二菜ちゃん」

「はい、お気をつけて!」

「もう来んな畜生ーー!!」


こうして、嵐のようにやってきた母さんは、嵐のように去っていったのだった。



「先輩のお義母様、いい人でしたね」

「ああ……もう今だけで、どっと疲れたよ俺は……」

「ふふ、でも、お義母様にも好意的に見てもらえてよかったです」

「そうなぁ、母さんお前のこと、めっちゃ気に入ってたな……」

「くふふ、これはもう公認の仲ってことですよね、先輩♡」

「全然違います」


くそっ、まさか先に親を丸め込まれるとは……

これは、俺がしっかりしないと本当に大変なことになるぞ!



――――ぺこん


「あ、もしかしてお義母様からじゃないですか?」

「なんだ、忘れ物でもしたのか?」


藤代 花七

一雪もお年頃だからだから我慢できないこともあると思うけど


――――ぺこん

藤代 花七

避妊だけはしっかりするように!


――――ぺこん

藤代 花七

それで悲しむのは、女の子なんだから、わかってるわね!


「そんなこと絶対しねぇーーーーーーーーーーーーー!!」

「わ、な、なんですか先輩、いきなり興奮しないでくださいよ!?」


思わずスマホを座布団の上に投げつけてしまった俺を、誰が責められるだろう。

俺は、絶対に、こいつには絆されない!

俺は決意も新たに、これからの生活もしっかり気合を入れようと誓ったのだった。

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