そして、奴がやってくる

 あれよあれよという間に時間がたち。

ついに俺たちも、ゴールデンウィークという名の超大型連休へと突入した。

休みはいい……煩わしい世俗から隔離され、家に引きこもれるからな。


ゴールデンウィークが来て。

ずっとゴールデンウィークだったらいいのに……。


「先輩先輩、せっかくのお休みなんですから、デートしましょうよー!」

「やだよ面倒くさい……俺はアイドルを躍らせてシャンシャンするので忙しいの」

「そんな二次元の女の子にお金使うなら、私と使ってくださいよ!」

「えぇー……お前に使っても歌って踊ってくれないじゃん……」

「せ、先輩のためなら……ひらひらな服着て、踊ってもいいですよ……?」

「いらない」

「なんでですかー!!」


はい、今日も今日とて俺の日常を侵食する悪魔、天音 二菜である。

こいつ今、ナチュラルに自分にお金使えとか言いましたね?

怖い女である、絶対に出かけないからな!



 そんな、いつもの休日。

いや待て、なぜ休日に天音が当たり前のようにいるんだ!

危ない……なんか疑問に思わなくなってる自分がいて怖い。


こほん。

そんな休日に、あるLINE通知が入ってきた。



――――ぺこん

藤代 花七

そろそろ様子を見に行くので、そのつもりで


「うん?」

「誰からのメッセですか? 浮気ですか?」


すっと天音の目からハイライトが消えて、真剣な表情になる。

いやいや、何その目、怖いんだけど。


「浮気ってそもそもお前と俺は……いやまぁ、それはいい。母さんからだ、そろそろ様子を見にくるってさ」

「あ、お義母さまですか! いつごろ来られるんですか?」

「いつ、とは書いてないから近いうちかな……あ、その日はお前絶対来るなよ」

「えぇー……ご挨拶させてくださいよぉ……」

「面倒臭いことになる気しかしないからやめてくれ、頼むから」

「既成事実作るチャンスなのになー」

「そういうこと、怖いからいうのほんとやめてね?」


冗談に聞こえないからさ!



 ――――そんな風に、完全に油断していた、俺が悪いのだろう。

奴は、唐突にやってきた。


「そもそも、お前がうちの母さんに挨拶する必要……」


ピンポーン


「あれ、お客さんですね」

「なんだろ、am○zonでの買い物はしてないんだけどな」

「お義母さまだったりして!」

「ははは、まっさか! いくらうちの母さんでも、今LINEしてすぐ来るなんて……」


そういいながら、インターホンに出ると……


『愛する母さんが来てやったわよー一雪! 開けなさーい!』

「げっ! か、母さん!?」

「お義母様来ちゃったんですか!」

「(静かにしろ天音!)か、母さん久しぶりだね……急に来られて、はは、参ったなぁ……」

『行くってLINEしたでしょうが』

「いつって書いてないから、まだ先かと……」

『今から行くから書かなかったのよ! さぁ、久しぶりのおうちチェックよ!』

「ちょ、ちょっとだけ待っててくれな!」


ヤバイ。

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!

普段ならなんともないチェックが、今日だけは本気でヤバイ!

そう、何がヤバイって、いるのだ。

天音が!!


「ど、どうしましょう……今日こんな予定なかったんで、私普通の服ですよ!?」

「くそっ、いいからとりあえず、お前は奥の部屋に入っとけ!」

「きゃっ♡ 先輩強引です……でもそんなところも好き……♡」

「はいはい、後からいくらでも聞いてあげるから! お願いね!!」

「ぶー……もう意味ないと思いますけどねぇ……」


コップ片付けた! ヨシ!

天音が読んでた雑誌! 棚に片付けた! ヨシ!

天音のカバンも奥の部屋に置いた! ヨシ!

ヨシ、完璧! さぁおいでませお母様!!


「悪い悪い、待たせたな母さん」

「まぁ、年頃の男の子なんだから、隠したいものくらいあるだろうしねぇ」

「そうか、そう思うなら今日のところは勘弁してくれ、メシでも行こう俺が出すから!」


母さんの発言を渡りに船と、家に踏み込ませないように誘導する。

あー、腹減った! 腹減ったなー!!


「そうねぇ……それもいいんだけど……」


よし、勝った!


「この、女の子の靴はなんなのかしら?」

「え?」


靴……だと……?


「ほら、この可愛らしい靴。どう見てもあんたのじゃないわよね?」

「あ……いやー最近、こういう可愛いものに目がなくて……は、ははは……」


そう、苦しい言い訳をしている俺の横を、母さんが通り抜け、一気にリビングまで進んでいく。

ヤバイ、絶対ここで食い止めないと、奥の部屋まで入られるとまずい!


「それにこの台所……包丁やお鍋なんて、あんたが使うわけないでしょ」

「は……はは……は……ソンナコトアリマセンヨ……?」


あまりにも目ざとすぎる……なんだこの人!

すっと目を細め、こちらを見透かすような目をしてくる。

おう、これはめっちゃ疑ってる目だな……!


「あんた、もしかして女の子連れ込んでるんじゃないでしょうね?」

「そそそそんなことあるわけないじゃないですか」


ひぃ、鋭い!


「あんた母さんの目を見ながら、それ言って見なさい」

「信じてくれ母さん、俺は絶対に嘘はついていない」

「あんた、嘘をつくとき目線を右下に持っていく癖、気付いてる?」

「!? そ、そんな癖が俺に!?」


俺の知らないそんな癖があるなんて、初めて聞いたぞ!

くそっ、これだから親ってのはやりづらいんだ……!


「ないわよ、そんなもん。やっぱり何か隠してるわね!」

「だ、騙したな母さん!」

「いつも言ってるように、騙されるほうが悪いのよ!」

「くっ、騙す方が悪いに決まってるだろ!」


ダメだ、このままだと押し切られる!

どうする、どうすれば天音を隠し通せる……

考えろ、考えるんだ藤代一雪! お前はやれば出来る子だといわれているだろう!


「あのー……」

「「えっ」」

「先輩、もう諦めた方がいいと思いますよ……隠し切れませんって」

「天音ぇ……」


なぜ出てきた……なぜ出てきた天音 二菜……っ!


「あらっ! あらあらあらあらあら! 可愛らしいお嬢さんじゃないの!」

「は、初めまして……お邪魔しております……」



こうして、出会ってはいけない二人が、出会ってしまった……。

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