ゴールデンウィークなのでお出かけしましょう!

 

 さて、昼間に母さんから預かった諭吉様、しかもなんとお二人様! についてだけど……。

 正直なところ、このまま自分の懐に入れてしまいたい。

 しまいたい……が! さすがにそれはバレる可能性が非常に高いし、バレたらバレたで面倒くさい。

 そうなると、天音とぱーっと使ってしまうのが一番いいんじゃないだろうか?

 後から天音経由で着服がバレると怖いし、なんか二人でLINEの交換もしていたから、何に使ったのか、聞き取りをされるような気もするし……。

 うん、そうだな、素直に天音と使ってしまおうそれが一番だ!


「というわけで、母さんからもらった諭吉さんを使ってしまいたい、どこか行きたいところはあるか?」


 そう尋ねると、天音から表情が抜け落ちた。

 なんだ、何か変な事言ったか、俺?


「ま、まさか先輩からデートに誘われるとは思ってませんでした……」

「いや、デートじゃないから」

「いいえ、デートのお誘いですよこれは! ついに先輩からデートに誘ってもらえるなんて……!」

「じゃあ母さんから預かった諭吉さん、分けて終わりにするか」

「いいえスイマセン、デートじゃないですお出かけしましょう」


 相変わらず、変わり身の早いやつだ。

 さて、何処に行くかだけど……。


「天音はなんか、行きたいとこあるのか?」

「そうですね……強いて言うなら、映画を見に行きたいかもしれません」

「ふむ、見たい映画でもあるのか?」


 そういいながら、スマホで今公開中の映画を調べていく。

 恋愛モノ、アニメ、ヒーローものに怪獣モノ、結構色々やってるな。

 この中だと……うん、俺ならこの蜘蛛男の続編を是非とも見に行きたい。

 何を隠そう、俺はこのシリーズの映画が大好きなのだ。

 特にこの蜘蛛男に関しては、新たに始まった前作がとてもコメディチックで面白くかつストーリーもよく、大のお気に入り映画になっていた。


 ただ、天音と一緒ってなるとこの選択ってどうなんだろう?

 そもそも、こいつってどんな映画が好きなんだろう。

 なんか、普通に恋愛物とか好きそうだよなぁ……天音ってなんかふわふわした女の子! って感じだし。


「悩むところですねぇ……ここはデートらしく、恋愛モノを見たい気もしますし」

「デート?」

「イエ、デートジャアリマセンデシタ……うん、そうなるとこの蜘蛛男FFHですかね?」

「お、それに目をつけるとはなかなか」

「ふふん、実は私、フェーズ1の鉄男から始まったシリーズ、全部見てるんですよね」


 なんと、こいつもあの膨大な量の映画を全て見ていたのか!

 なんだか、急に天音に対して、親近感がわいてきたぞ……!


「お前……なんでそういうこと最初から言わないんだよ! どれだ、どのシリーズが一番好きなんだ?」

「私はー……やっぱりこれですね! 雷神様の3作目!」

「おーこれか! 前2作とはガラっと変わったけど、めちゃくちゃ面白かったよなぁ!」

「ですです! 助けてをやるか、で映画館で思わず笑っちゃいましたよー」

「わかるわー……あれはほんと卑怯だよな」

「まぁ、開幕早々お父さんが老人ホームに入れられてるのでもうダメなんですけどね」

「神様なのにな」


 全体的に暗い雰囲気になってもおかしくない映画なのに、とんでもなくコメディチックなんだよな。

 1作目2作目はちょっとダークファンタジーな雰囲気だったのに、一体何があったんだ雷神様!


「その後のラストの『いるよ』でもうお前……お前ー! ってなるんですよね……」

「次回作冒頭で雷神様を助けようとして散るのが泣けるんだよなぁ……」

「わかります……めっちゃわかります……!」


 俺と天音が出会って、もうすぐ1ヶ月。

 正直、俺は未だにこいつの事を心の底から信用してないし、何か裏があるだろうと思ってる。

 なんで俺なんかにつきまとってるんだろうと不思議でならないし、一生理解できないだろうなとも思っていた。


 しかし、俺は、俺たちは、初めて、お互いが分かり合えたと思った。

 やはりヒーローは世界を繋ぐんだ……!


「先輩はどれが一番好きなんですか?」

「俺は断然、国債マンの2作目だな!」

「渋いですね! 見た目地味ですけど超名作ですよね! 人に勧めづらいんですけど」

「そうそう、ここまで凄いアクションはなかなか見れないってマジで」

「先輩、もちろん先日公開されていたLast Gameは……」

「5回、見に行った」


 思わず、固く握手を交わす二人。

 なんだよ……お前、実はめっちゃ話の分かる奴じゃないか……。


「なら、見るのはもう蜘蛛男FFHに決定ですね」

「他に選択肢なんてないだろこの状況」

「くふふ……私、周りにこの映画について話せる人なんて、一人もいなかったんですよね……!」

「俺も五百里があんま興味ないおかげで、話す奴がいなかったんだよな……」


 何度か誘ってみたけど、あんまり興味持たなかったんだよな、あいつ。

 他に一緒に行くような友達もいないし、いつも寂しい想いをしていたわけで……。

 しかし、今回は違う、今回、俺にはは天音がいる!

 見終わった後も、ああだこうだと色々と感想を言い合えるだろうこの幸せ!

 やべ、今から楽しみになってきた!


「天音! そうと決まれば、今晩は関連作の鉄男1~3と国債マン3:南北戦争、蜘蛛男1作目を見返すぞ!」

「はい先輩! でもこれだけは言わせてください、南北戦争は鉄男4ですよね?」

「あ?」

「え?」


 その瞬間、空気が固まった。


「待て待て、南北戦争は国債マンだろ何言ってるんだ」

「えー、どう見てもあれの主人公、鉄男じゃないですかー」

「ははは、わからんやつだなよく見ろ、タイトルも国債マン3だろ?」

「でも主人公はどう見ても鉄男ですよね?」

「………………」

「………………」


 おいおいおい、こいつ何言ってんだ。

 目ぇおかしいんじゃないか?

 友情と友情の板挟みになる国債マンのよさがわかんねぇのかよ……!


「お前とはどうやら分かり合えないようだな……」

「悲しいですけど、こればっかりは私も譲れませんよ……!!」

「でも、最後に鉄男が国債マンを引き止めようと盾は置いていけするシーンはエモいよな」

「同意します、国債マンから送られてきた携帯を常に満充電で持ち歩いてるのもいいですよね」

「あざといよな鉄男」


 再び、ぐっと握手をする俺たち。

 そのまま、朝までヒーロー映画の視聴は続いたのだった……。



「なんか普通に泊まらせてくれましたけど、これからはお泊り解禁でいいんですよね?」

「あっ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る