俺の秘密の場所がどうしてバレた


昼休み。

天音がクラスに駆け込んでくる前に逃げ出すことに成功した俺は、

1年の頃に見つけた、裏庭の奥にある秘密の場所に来ていた。

きっと今頃、天音はイケメンくんが相手をしてくれているだろう。

頑張れイケメンくん、俺の平穏な学園生活は君にかかっている!


「はぁ……しかし平和な昼休みだ……」


こんなに平和な昼休みはいつぶりだろうか?

少なくとも、進級後にはなかったような気がする。

今日はいい天気で風も気持ちいいし、このままサボってもいいかもなぁ……。

芝生の上にごろんと横になり、寛ぎの体勢に入る。

俺は今、自由だ……!!


「あっ! 先輩こんなところにいたんですね!」


自由の時間が終了いたしました。


「どうして……」


どうして俺が見つけられたのですか……どうして……

ここは五百里も音琴にも教えていない秘密の場所なんだぞ!

ここが見つかるなんて絶対にありえないのに!


「教室に迎えに行ったら先輩いないとか、ほんと酷いですよね!」

「た、たまには俺にも一人になりたい時があるんだよ!」

「そのせいでなんかキモい人にまた話しかけられたんですよ! 私の心は酷く傷つきました!!」


イケメンくん……名前を覚えられるどころかキモい人に格下げである。

今頃泣いてなければいいが……あと、俺にからんで来なければいいが。

これ大事、すごく大事。

だって面倒くさいからね。


「なので、先輩には謝罪と誠意ある対応を要求します!」


もっと面倒な奴が目の前にいたわ。


「はいはいすいませんでした、これでいいか?」

「全くよくありませんよ! 私の要求を聞いてくれるまで、晩御飯は毎日こんにゃくですからね!」

「何そのダイエット食」

「私もお手軽に痩せられてwin-winですね!」

「それ以上どこを痩せるつもりだよお前」


出るとこは出て引っ込むところは引っ込む、理想的な体型だろうに……。

シルエットで見ただけでも、凄いのが俺にははっきりとわかった。

つーか痩せたいとか音琴に言ったら、間違いなくこめかみグリグリのおにぎりの刑だぞお前!


「……くふふ、おやおや〜? なんで先輩は、私の体型知ってるんですかぁ〜?」

「黙秘権を行使します」

「くふふふふ♡ 先輩可愛い♡」


あー、本当にこいつは面倒くさい!

これはもう、天音に乗ってやって話をそらすしか……!


「で、俺はどうしたらこんにゃく地獄から解放されるんだ?」

「あ、そうでしたそうでした、そういう話でしたね!」


おい、忘れてたのかよ。

自分から言い出したのに……。


「うーん……そうですねぇ……あ、そうだ! さっき先輩、寝ようとしてましたよね?」

「こんな気持ちいい天気だからついうとうと、となー……今もすぐ寝れるぞ」


いっそのこと、天音を無視して寝てしまおうか?

そうすれば諦めてこいつも帰るだろう……帰るよな?

財布の中には大して金は入っていない、問題ないはずだ……!


「それじゃあ、私に膝枕させてください!!」

「……はぁ……?」


天音はそういうと、自分の膝をはいっ!とばかりに差し出してきた。

えっ、この膝を枕にするの?

誰が?

…………俺が?


天音が俺に、ならまだわかるけど、俺が、天音にされるの?


……なんで?


「ど、どうぞ先輩、お使いください……!」

「おい、顔真っ赤だぞお前、恥ずかしいなら止めとけばいいのに」

「だ、大丈夫です……それに私、どうしてもやりたいことがあるんです!」

「ほう、やりたいこととな」


なんだ、俺が寝てるところに落書きでもするつもりか?

でもそれなら、わざわざ膝を出すこともあるまい……ほっとけば、俺は寝るぞ。

いや、万全を期すために、体をはるのか?

くっ、天音め、なかなか思い切った作戦を……!


「私、先輩の頭なでなでしたいんです……!」

「……はぁ?」


本日2度目のはぁ? である。

男の頭を撫でて、一体何が楽しいのか、理解に苦しむ。


「膝枕が嫌なら、私が先輩を正面からぎゅーっして、頭撫で撫ででもいいんですよ?」

「真正面から……ぎゅーだと……」


それで頭を撫でようと思ったら、間違いなく天音の豊かなあれに頭を押し付けることになってしまう。

はっきり言って超魅力的です、これが他の男子生徒なら、間違いなくぎゅーしてもらいつつ

頭を撫でてもらって、この世の天国を味わったことだろう。

見返りに何を要求されるか、わかったもんじゃないけどな……!


「さぁ先輩、選択肢は二つに一つです、どちらを選びますか!」


ギルティ?

オア

ノットギルティ?

どっちの選択肢も外れにしか見えないが、間違いなくマシなのはおそらく膝枕だろう。

そう考えると、俺には選択肢などないように見える。


……あとから考えると、この時点で、どう考えても膝枕へと上手く誘い込まれた状態だというのに、なぜ俺は気付けなかったのかと過去の俺を問い詰めたい。

そもそも、どっちも選ぶ必要なんてなかったという話だ……!



「じゃ、じゃあ、膝枕でオネガイシマス……」

「わかりました、さぁどうぞ♡」


ぽんぽん、とスカートの上から膝を叩いて頭を要求する天音に誘われるまま、

恐る恐るふとももに頭を乗せ……


「……これは……」

「くふふ……どうですか、先輩♡」


天音のふとももはやはり男とは違い、ほどよく柔らかくて……

布越しでもわかる女性らしい柔らかさをほっぺたあたりに物凄く感じましてですね

一言で言うなら、大変よいものです、はい……!

しかも、なぜ天音はこんなにいい匂いがするんでしょうね?

先日も思いましたが、本当にわけがわからないよ……!


そんな事を考えていると、天音の小さな手が、俺の頭を撫ではじめた。

あー……これは凄い……めちゃくちゃ気持ちがいい……。

世の中には、わざわざ金を出して膝枕をしてもらうお店があると聞いた時は金出してまでして欲しいもんか? と馬鹿にしていたが……これは……いい……!


「先輩、私の膝はどうですか? 気持ちいいですかー?」

「ああ……うん、まぁ、悪くはない」

「くふふ、そうですかー……ふー♡」

「ふひっ!?」


こいつっ、み、耳に息吹きかけやがった!


「くふふふふふ、先輩はー、お耳が弱いんですねー♡」

「や、やめてくださいますかそういうことするの!?」

「オプションですよオプション、ほーら、なーで、なーで」


天音の顔が見えない角度に顔を向けているため、どんな顔をしているのかはわからないが、恐らく、物凄く意地の悪い顔をしながら、いつ悪戯を仕掛けようか考えているはずだ。

これ以上、天音を楽しませてたまるかと思いつつも、天音の手で撫でられるのがあまりにも気持ちよく……


気がついたら、夕方まですっかり熟睡してしまった。

不覚である……!


「おはようございます、先輩! 寝顔、可愛かったですよー♡」

「……どんくらい寝てた、俺……」

「あれから授業終わりの鐘が1回聞こえましたから……そろそろ放課後ですかね?」

「あー、悪かったな、授業サボらせちゃって」

「いえいえ、そのかわり、いいものを見せてもらいましたから!」


寝顔をじっと見られていた上、ずっと頭を撫でられていたと聞き、悶絶しそうになる。

ここが自分の部屋なら、のた打ち回って転げまわっていたに違いない。


「くふふ、先輩がお願いしてくれれば、またいつでもしてあげますからね!」

「そういうのは、俺じゃないちゃんとした彼氏作ってやれ」

「わかりました! 先輩、大好きです、私の彼氏になってください!」

「天音さんのお気持ちは嬉しいのですが、本当に怖いのでお断りさせてください、すいません」

「なんでですかー!!」


俺は今日も無事、天音の誘惑に打ち勝ったことにほっと胸をなでおろし、

帰りの準備を始めたのだった。

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