後輩と今更過ぎる疑問

 晩御飯を食べたら、俺が洗い物をして、珈琲をいれ、天音と食後の一服。

これがいつもの夕食後の、俺たちの生活パターンだ。

夕食を作ってもらっておいて、食ったらすぐ帰れって言うのもなんだろう?

なので、これはもう仕方がない時間なのだと割り切るしかないのだ。



 今日も珈琲を飲みながら、スマホでニュースを眺める。

天音はどうやら、宿題をやっているようだ、本当にまじめな生徒である。

ほーん、オリンピックのチケット詐欺か、なんでも詐欺の手口になるもんだなぁ……。


「そういえば、前から気になってたんですけどね」

「なんだ?」

「先輩って、ご両親はまだご存命なんですよね?」

「今頃異国の地で、息子を放って存分にイチャついてるんじゃないかな」


うちの両親は、とにかく仲がいいのだ。

お前ら年考えろよ、と思うほどなので、見ていて本当に辛い。

よくもまぁ、この年になっても弟か妹ができなかったものだと感心する。

いや、もしかしたら来年あたり、実は……と言い出すかもしれないが……。


「いいなぁ……私たちも、年をとってもイチャイチャできる夫婦になりましょうね♡」

「俺とお前の結婚っていう大前提が、まず果たされなさそうだな」

「もうっ、ちょっとはデレてくださいよぉ!」


お前と結婚とか嫌だよ怖い。


「で、話は戻しますが……先輩って持ち家もあるんですよね?」

「今は誰も住んでないし、たまーにハウスキーパーさんが掃除に行くくらいだけどな」

「なんで家があるのに、一人暮らししてるんですか? 家もそんなに遠くありませんよね?」

「俺、お前に実家の場所のこととかって話したことあったっけ?」

「えっ、そうでしたっけ? 六花先輩とかに、そういう話聞いたんじゃないかなぁ?」


そうだっけ? あいつらは付き合いも長いし、ぽろっとこぼすかも知れないか?

……むっ、これはもしや、我が家を不動産詐欺の対象と考えているのか!?

家の場所も、坪数も全て下調べはすんでいる、ということだな天音!


親二人がいつ帰ってくるかはわからないけど、家を奪われるのは困る。

ここから先の会話は、さらに慎重にならざるをえない……!!


「で、なんで自宅じゃなくここで一人暮らししてるか、か……まぁ、色々あるんだけどな」

「家に彼女連れ込まれそうだからとか、同棲とかしそうだからとかですねわかります」

「お前、俺見てそんな甲斐性あると思うの?」

「現実問題、可愛い彼女♡ な私を連れ込んでますけどね!」

「お前は彼女じゃないし、ただ上の階に住んでる人ってだけだからなぁ」

「今、先輩の中で後輩よりランクさがりましたか私!?」

「気のせいじゃないですかね?」


この距離感で、今更上の階の人にまでランクを落とせるなら落としてみてほしい。

それよりも、なぜか天音が離れていくところが、なかなか想像が出来なくて驚いた。

むしろ逆に離れたら離れたで、何かを企んでいそうな気がしてきて、困る。


「一人暮らしはあれだ、どうせお前広い家を一人で管理できないだろ? っていう」

「男の子一人で一軒家って、掃除とかいきわたりそうにないですからねぇ」

「両親が帰ってきて、ぐちゃぐちゃになってる家を見るのは忍びない、なら一人で部屋借りろってな」

「おかげで、私は先輩と愛のある毎日を過ごせるんですから、お義父さんとお義母さんには感謝しかありませんね!」

「今、お父さんお母さんの発音、なんかおかしくなかった?」

「いえいえ、何もおかしくありませんよー?」


そうかなぁ?

なんとなく今、義、って漢字が付いた気がするんだけど、俺の気のせいだろうか?


「それじゃあ、しばらくご両親には会ってないんですか?」

「いや、去年の秋だったかな? に一回様子見に来たぞ、今年も来るんじゃないかな?」

「次に帰ってこられたときには、先輩の彼女ですって挨拶しなきゃですね!」

「その時は事前に教えておくから、絶対に来るなよ!」

「くふふ……わっかりましたー♡」

「全然分かってないよね?」


 なんとなくこいつは、わざとやって来そうな気がする。

もし両親が帰ってくる、ってなったらそれとなく遠ざけるようにしないとな……。



「そういえば、天音はなんで一人暮らししてるんだ?」

「……先輩が私に興味持つなんて、珍しいですね……」

「いや、話の流れ的に、聞かなきゃいけないかなって?」


男の一人暮らしでも珍しいんだ、女の子の一人暮らしなんて、両親が心配しないんだろうか?


「まぁ、私も似たようなものですよ。受験のちょっと前かな? 親の都合で転居が決まりまして……」

「じゃあ天音の両親も、遠方に住んでるのか」

「ですね、向こうの学校へって話もあったんですけど、どうしてもこの学校に行きたかったので」

「だからって親元から女の子が離れて一人暮らし、ってのは反対されなかったのか?」

「そりゃあありましたよ! お父さんなんて泣いてましたからね!」


お父さんかわいそうに……。

今からでも遅くないから、天音を迎えに来てくれないだろうか?


「それにしても、よっぽどうちの学校来たかったんだな、なんか目当てのモンでもあったのか?」

「まぁ、それは……えへへ、お目当て、ありました♡」


そういいながら、頬を赤く染めながら、チラチラとこちらを見てくる。

なんだ、何が言いたいんだお前は。


「おかげさまで、毎日楽しい学校生活ですし、お父さんには感謝です!」

「そういうのは、直接お父さんに言ってあげたほうがいいんじゃないか?」

「えぇー……お父さん、電話すると長いから、電話するのヤなんですよね」

「待って、お父さんが可哀想だからそれ以上はやめてあげて!」


今してた顔、うちのクラスのイケメンくんにしてたのと同じ顔だよ!?

お父さん相手にそんな顔するなんて、他人事とはいえ流石に可哀想だよ!


「まぁ、LINEでも飛ばしておきます」

「その後未読スルーするのはやめてあげてね?」

「先輩のLINEだったら、スルーなんて絶対しないんだけどなー……だからLINE教えてください♡」

「え、やだよ」


なんとなく天音って、未読スルー既読スルーしたら面倒くさそうだし。


「それに、LINE交換する意味あんのか? いっつもお前、ここにいんのに」

「いいじゃないですか! したいんです! 私も先輩とラブラブなLINEしたいんですー!」

「どうして俺とそういうLINEが出来ると思うのか、それがわからない」

「でも、そろそろLINEくらい教えてくれてもいいと思うんですよね……晩御飯の相談とかできますし」


ふむ、確かにそれは魅力的である。

何が食べたい? にダイレクトで回答するのは、食生活の豊かさにつながるからな!


「はぁ、わかった……じゃあ交換するか」

「ありがとうございます! ……くふふ、先輩のLINEアドレスげっと♡」

「俺のアドレス、変なリストに売るなよー」

「そんなことするわけないじゃないですか! ……私の携帯に先輩の名前が……くふふふふ♡」

「天音のLINEアドレスとか売れそうだな」

「絶対止めてくださいよ!!?」



なんとなく天音と交換したLINEアドレス。

交換したこと自体を後悔することになるとは、この時の俺は知るよしもなかった。





――――ぺこん

天音 二菜

先輩、まだおきてますか?


――――ぺこん

天音 二菜

先輩、大好きです!


――――ぺこん

天音 二菜

……本当に寝ちゃったんですか?


――――ぺこん

天音 二菜

先輩、私、今……お風呂上りでバスタオル一枚なんです♡



「うるせぇ!!」


やっぱ教えなきゃよかった…………!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る